佐伯 泰英

空也十番勝負シリーズ

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直心影流の達人坂崎磐音の嫡子空也は十六歳で武者修行の旅に出た。向かったのは他国者を受け入れない“異国”薩摩。そこに待ち受けるのは精霊棲まう山嶺と、国境を支配する無法集団の外城衆徒。空也は名を捨て、己に無言の行を課して薩摩国境を目指す。出会い、試練、宿敵との戦い…若武者の成長を描いた著者渾身の青春時代小説が登場( 上巻 :「BOOK」データベースより)

瀕死の状態で薩摩入りを果たした坂崎空也は前薩摩藩主島津重豪の御側御用を務めた渋谷重兼と孫娘の眉月に命を救われる。再起した空也は、野太刀流の薬丸新蔵と切磋琢磨して薩摩剣法を極めていく。そんな中、空也を付け狙う外城衆徒が再びその姿を現した。試練に立ち向かう若者の成長を描いた著者渾身の書き下ろし青春時代小説。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

居眠り磐音江戸双紙シリーズ』が終了し、多分その続編として位置づけられる『空也十番勝負』の第一巻となる長編の痛快時代小説です。

 

 

朝稽古を終えた磐根のもとに薩摩藩島津家江戸藩邸用人膳所五郎左衛門からの、薩摩藩国境見廻り衆の「外城衆徒」により、若い武芸者が闘争し身罷ったとの知らせが届いた。

その少し前、浄心寺新左衛門らは、薩摩に入るために口を利かぬ行を己に課した若者に宿を貸したため、薩摩藩国境見廻り衆の「外城衆徒」らに殺されてしまう。

晩秋にいたり、若者は肥後国球磨郡宮原村の名主である新左衛門の息子の浄心寺帯刀らとともに新左衛門らの亡骸の回収をしに牛の峠へと入り、襲い来る外城衆徒らを退け、遺体を火葬に付し、旅立つのだった。

その後、若者を案じで調べに出かけた霧子が峡谷で見たものは、石卒塔婆の頂で襲い来る外城衆徒の一団を撃退しつつ、力尽きて滝壺に落下する若者の姿だった。

寛政七年の師走、渋谷重兼と十四歳の孫娘眉月は枯れ葭にに引っかかった一人の若者を見つけ看病をする。若者は記憶を断片的には失いながらも生き延びたのだった。

白木軍兵衛の名を借りた若者は、重兼らとともに薬丸新蔵の野太刀流の薬丸道場へと行き、加治木島津家の当代領主島津久微の見守る中、薬丸新蔵と本気の稽古をし、記憶を取り戻すのだった。

 

居眠り磐音江戸双紙シリーズ』は、市井に暮らす浪人を主人公とした痛快時代小説として始まったのですが、巻を重ねるにつれ物語はスケールアップをし、田沼意次や更には将軍家をも巻き込む一大大河小説へと成長してきました。

主人公の磐根も、悲惨な過去を背負いながらも明るく爽やかに過ごす素浪人として、まさに痛快小説の主人公であったのですが、襲い来る敵を倒し続ける間に、いつの間にか天下無双の剣豪へとなってしまった印象があります。

空也十番勝負シリーズ』の項でも書いたように、佐伯泰英のすでに終了していたもう一つの人気シリーズ『密命シリーズ』の主人公金杉惣三郎の影をも重ね合わせて見える気がしたものです。

 

 

ところで、本『空也十番勝負シリーズ』は、その剣豪磐根の姿を継いだ磐根の息子空也を主人公とする長編の痛快青春時代小説です。

つまりは『密命シリーズ』において金杉惣三郎の息子清之助の物語へと変貌していったように、本シリーズも磐根から空也へと主人公がバトンタッチしたとも言えそうです。

 

空也は剣の道を極めようと武者修行に出立し、まずは薩摩で示現流を学ぼうとします。そこでわが郷土熊本の南に位置する人吉から薩摩に入ろうとする空也からこの物語は始まります。

薩摩藩の国境を守る「外城衆徒」という一団との闘いは、薩摩藩内部における権力闘争とも絡み、空也をめぐり熾烈な戦いが繰り広げられることになります。

そして、そのことは薩摩示現流との闘争をも生むことになり、今後の空也の敵役として戦い続けることになるのでしょう。

 

また、青春小説としての恋模様も描かれ、空也を助け介抱した渋谷重兼の孫娘眉月との今後の展開もまた気になるところではあります。

勿論、江戸にいる磐根一家の姿も描写されていて、一度は空也の死を覚悟した磐根やおこんの悲痛な日々さえをも見ることができるのです。

とにかく、居眠り磐音の新たな物語として期待が高まるシリーズであることは間違いなく、その期待に十分に応えることができているのが本『声なき蝉-空也十番勝負 青春篇』だといえると思います。

[投稿日]2019年05月06日  [最終更新日]2019年5月6日
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空也十番勝負
双葉社 双葉社公式サイト
佐伯通信 | 佐伯泰英 ウェブサイト
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居眠り磐音 江戸双紙<公式HP>‐双葉文庫
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