神様のカルテシリーズ

『神様のカルテシリーズ』は、現役の医師が描き出す、地域医療や医師と家族、患者と先端医療などの問題、それに「命の重さ」などについて考えさせられる、しかし面白く心に沁みる物語です。

 

神様のカルテシリーズ(2021年02月07日現在)

  1. 神様のカルテ
  2. 神様のカルテ2
  1. 神様のカルテ3
  2. 神様のカルテ0(短編集)

新章 神様のカルテシリーズ(2021年01月04日現在)

  1. 新章 神様のカルテ

 

『神様のカルテシリーズ』の概要

 

本『神様のカルテシリーズ』の主人公は、信州の病床数四百床を有する地域の基幹病院である「本庄病院」に勤務する栗原一止というる五年目の内科医で、夏目漱石の「草枕」をこよなく愛し、話し方までもいささか古風な、変人と呼ばれている人物です。

この「本庄病院」は、「24時間、365日対応」という看板を掲げているため、救急車の音が途切れません。特に、一止が当直の時は患者数が多いのが有名であり、「引きの栗原」と呼ばれています。

本『神様のカルテシリーズ』では、第一義に医師のあり方、医療への関わり方が問われています。具体的には、医療現場での患者への誠実な対応と先端治療の勉強という二律背反の問題です。

勉強するには現場を離れなければならず、患者に向き合うと勉強ができないという問題に直面する主人公栗原一止の姿が描かれています。

そして各巻ごとに例えば一巻目では地域医療や終末医療の問題などのテーマも取り上げられています。

 

「神様のカルテ」と銘打たれたこのシリーズは、勿論医療現場の描写も分かりやすく、医師や看護師らの命に対する取り組みは、現役の医師ならではの雰囲気と臨場感とをもたらしています。

つまりは現役の医師だという著者自身が日常的に直面しておられる問題が小説にも反映していると思われます。

こう言うと重そうなテーマのようですが、優しく軽妙な語り口と、主人公やその妻ハル、彼らの住んでいる特殊なアパートの同居人たち、そして勤務先の医師や看護師といった登場人物らのユーモアに満ちた人物造型は、とても読みやすい物語として成立しています。

 

このシリーズは短編集の『神様のカルテ 0』も含めて全四巻で一旦終わり、2019年1月、新たに『新章 神様のカルテシリーズ』が始まりました。

新章は、一止が本庄病院の医師としての立場はそのままに、信濃大学病院の院生として医局に入り、最先端の医療技術を学びながらも院生としての研究をしなければならないという忙しい立場にいます。

更には、愛妻ハルとの間に娘小春が生まれており、新章が始まるまでの二年という期間が感じられるのです。

 

『神様のカルテシリーズ』の登場人物

 

登場人物としては、本庄病院関係では、まず一止のいる消化器内科の部長の大狸先生と副部長の古狐先生がいます。共に超ベテランであり、驚くべき内視鏡のテクニックの持ち主です。

看護師として、救急部看護師長の外村さん、三十何歳かで独身で有能な美人看護師です。

次いで病棟主任看護師の東西直美がいます。二十八歳で主任となった極めて優秀な看護師で、いかなる場面でもその冷静な対応には定評があります。

そして、新人看護師の水無陽子砂山次郎がいます。一旦は外科医局に入ったものの大学病院の人事により、本庄病院の外科へと派遣されてきました。

 

一止の私生活面では、「御嶽(おんたけ)荘」をまず紹介しなければなりません。築五十年を超える幽霊屋敷の二階建ての木造家屋であり、元は旅館であった建物を今は下宿として利用されている建物です。

その「御嶽荘」二階の「桜の間」に、一年前に結婚した世界的にも名の知られた山岳写真家である妻のハルさんと共に住んでいます。

その「桜の間」の直下にある「桔梗の間」に通称「男爵」がおり、二階奥の部屋の「野菊の間」の通称「学士殿」が住んでいます。

「男爵」は年齢不詳でありいつも古風なプライア―をくゆらせている、鬼才の絵描きです。一方「学士様」は、いかにも君子然としていて、信濃大学文学部哲学科、大学院博士課程に所属し、ニーチェ研究に没入している博識の青年です。

この「御嶽荘」の仲間が一止のもう一つの人生の顔を見せてくれる場所でもあります。

 

医者が主人公の物語は数多く、一昔前は山崎豊子の『白い巨塔』がありましたし、今では海堂尊の『チーム・バチスタの栄光』をはじめとする一連の物語があります。

 

 

他にコミックでも『ブラックジャック』、『ブラックジャックによろしく』、『ドクターX』『医龍』などキリがありません。これらの作品を原作としてテレビドラマでも多数作られています。

 

 

テレビドラマと言えば大人気となったアメリカの『ER 緊急救命室』は、私にはめずらしくけっこうはまって見ました。

医療関連のテーマと人間ドラマとがよく描かれていたのです。こうして見ると、日本の医療ドラマは見ていない私ですが、実際見ると面白いのかもしれないと思えてきました。

 

 

ちなみに、本『神様のカルテシリーズ』は、櫻井翔主演で2011年と2014年に映画化されています。

妻ハルを宮崎あおいが、砂山次郎を要潤が演じ、二作が作られました。なかなかの出来だったと記憶しています。
 

 
また、、2021年2月からは福士蒼汰主演で、 清野菜名、大島優子という役者さんたちによりテレビ東京でテレビドラマ化されるそうです。

 

 

また、石川サブロウや本多夏巳の手によって、コミック化もされています。

 

剣客同心鬼隼人・八丁堀剣客同心 シリーズ

剣客同心鬼隼人シリーズ(全7巻 完結)

  1. 剣客同心 鬼隼人
  2. 七人の刺客
  3. 死神の剣
  4. 闇鴉
  1. 闇地蔵
  2. 赤猫狩り
  3. 非情十人斬り

八丁堀剣客同心シリーズ(全20巻 完結)

  1. 弦月の風
  2. 逢魔時の賊
  3. かくれ蓑
  4. 黒鞘の刺客
  5. 赤い風車
  1. 五弁の悪花
  2. 遠い春雷
  3. うらみ橋
  4. 夕映えの剣
  5. 闇の閃光
  1. 夜駆け
  2. 蔵前残照
  3. 双剣霞竜
  4. 火龍の剣
  5. 朝焼けの辻
  1. 折鶴舞う
  2. 酔狂の剣
  3. 鬼面の賊
  4. みみずく小僧
  5. 隼人奔る

八丁堀の鬼と恐れられる隠密廻り同心・長月隼人が活躍する、痛快活劇小説です。

結構謎解きの側面があると思っていたら「剣豪ミステリー」というジャンルを確立した作家という紹介文を読みました。

本格的に剣が強いスーパーマンが悪に立ち向かう剣豪ものといっていいでしょう。それに謎解きの面白さが追加されているわけです。

「剣客同心鬼隼人」「八丁堀剣客同心」と書名は異なるものの、同じ主人公の続編のシリーズのようです。そして「剣客同心」は「剣客同心鬼隼人」の前日譚になっています。

でも、そういうことは内容とは関係はなく、構えずに読める本です。面白いです。

はぐれ長屋の用心棒シリーズ

主人公が剣の達人という設定はまあ当たり前といえば当たり前なのですが、隠居の身なのです。ということは普通歳をとっています。といっても還暦過ぎの私よりは若い50代半ばですが。

つまりは激しい動きにはついていけず、そこそこ危機に陥るのです。そこをやはり剣の使い手の菅井紋太夫や、岡っ引きだった孫六達が手助けします。勿論この二人も若くはありません。

その他に研師の茂次や更には「はぐれ長屋」の住人たちも絡み、事件を解決していくのです。

設定も面白いし、読んでいてリズムもあり気楽に読み進めることができます。お勧めです。

はぐれ長屋の用心棒シリーズ(2016年12月16日現在)

  1. 華町源九郎江戸暦
  2. 袖返し
  3. 紋太夫の恋
  4. 子盗ろ
  5. 深川袖しぐれ
  6. 迷い鶴
  7. 黒衣の刺客
  8. 湯宿の賊
  9. 父子(おやこ)凧
  10. 孫六の宝
  1. 雛の仇討ち
  2. 瓜ふたつ
  3. 長屋あやうし
  4. おとら婆
  5. おっかあ
  6. 八万石の風来坊
  7. 風来坊の花嫁
  8. はやり風邪
  9. 秘剣霞颪
  10. きまぐれ藤四郎
  1. おしかけた姫君
  2. 疾風の河岸
  3. 剣術長屋
  4. 怒り一閃
  5. すっとび平太
  6. 老骨秘剣
  7. うつけ奇剣
  8. 銀簪の絆
  9. 烈火の剣
  10. 美剣士騒動
  1. 娘連れの武士
  2. 磯次の改心
  3. 八万石の危機
  4. 怒れ、孫六
  5. 老剣客踊る
  6. 悲恋の太刀
  7. 神隠し
  8. 仇討ち居合

覇剣 武蔵と柳生兵庫助

殺戮の戦国から太平の江戸へ。この大転換期を生きた二人の剣聖―宮本武蔵と柳生兵庫助。あくまで人を斬り、斃すための“殺人剣”を追求する武蔵に対し、兵庫助の新陰流の神髄は、人を活かす“活人剣”にあった。それはまさしく武芸の時代から政治の時代への変革であった。すでに斬るべき相手のいない江戸の世で、なおも兵法者の道を貫く武蔵。一方、組織に生き政治を執る武士として心を練り、身を修めてきた兵庫助。ともに不敗の剣の遣い手とあがめられ、互いを意識しつつ歩んできた二人が相まみえた時…。果たして己れの生き様を賭けた世紀の対決の行方は?“殺人剣”対“活人剣”の決着は?希代の剣客の激闘をかつてない視点から描き切った新・剣豪小説。( Kindle版 : 「BOOK」データベースより)

 

宮本武蔵と柳生兵庫助という日本史上に残る二人の剣豪の姿を描く長編の時代小説です。

 

まず、テーマが武蔵と兵庫助ですから興味深い主題であることは間違いありません。その二人を剣を描くことでは定評のある鳥羽亮が描くのですから期待は膨らみます。

そして、ハードルの上がったその期待は十分に満たされました。

間違いなく面白いです。

付け加えれば、柳生兵庫助といえば津本陽の作品にタイトルがそのまま「柳生兵庫助」という大作があります。こちらも面白いです。

下掲のイメージは、双葉社の双葉文庫から出ている全十巻の第一巻と、文春文庫(全八巻)の第一巻です。

 

 

さらに、リイド社のSPコミックスから、とみ新蔵の画で全五巻のコミック版も出ています。

 

剣客春秋シリーズ

剣客春秋親子草シリーズ(2018年08月19日現在)

  1. 恋しのぶ
  2. 母子剣法
  3. 面影に立つ
  4. 無精者
  1. 遺恨の剣
  2. 襲撃者
  3. 剣狼狩り

剣客春秋シリーズ(完了)

  1. 里美の恋
  2. 女剣士ふたり
  3. かどわかし
  4. 濡れぎぬ
  1. 恋敵
  2. 里美の涙
  3. 初孫お花
  4. 青蛙の剣
  1. 彦四郎奮戦
  2. 遠国からの友
  3. 縁の剣

やはり一番に挙げるのはこのシリーズでしょう。何といっても池波正太郎の『剣客商売』があってのこの題名ですからよほどの自信があってのことと思い読んでみたのですが、期待に違わず引き込まれました。当然のことですが『剣客商売』とはまったく異なる、この作者独自の世界が広がっていたのです。

剣客商売』は、秋山小兵衛を中心とし、秋山大治郎、三冬、そして弥七や徳次郎らによる、江戸情緒も豊かに、ときにはコミカルに繰り広げられる連作の短編中心の人情劇です。

それは異なり、本シリーズはどちらかと言うと剣戟の場面に重きを置いた長編小説のシリーズであって、痛快活劇小説ということになります。

剣術道場主の千坂藤兵衛とその娘里美、その恋人彦四郎を中心に物語は進んでいきます。また、『剣客商売』における探索担当の弥七同様の立場にあるものとして、弥八という岡っ引きがいます。

千坂道場が毎回巻き込まれる何らかの事件に対し、皆で力を合わせ、降りかかる事件にに立ち向かっていくのです。

面白い小説を探している人には間違いなくお勧めの一冊、いやシリーズです。

2011年の終わりにはこのシリーズも終わり、2012年10月には新しいシリーズとして「剣客春秋親子草」が刊行されています。

修羅の剣

越中氷見郡仏生寺村の貧農出身、ござ問屋の下男・弥助16歳は、奇縁から同郷の剣士・斎藤三九郎に剣術の手ほどきを受けた。みるみる上達する弥助の才を愛でた三九郎は、家来に取り立てると約して旅立つ。だが、将来を誓ったお里の非業の死を契機に江戸へ出奔した弥助は、三九郎の兄・斎藤弥九郎の神道無念流練兵館に転がり込む。上巻では、幕末の天才剣士とうたわれた男の研鑽時代を描く。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

21歳になり、練兵館助教・仏生寺弥助の剣名は、「仏生寺一流」の必殺技とともに江戸中に響いていた。それでも師の出世話を固辞し、恋女房おまきとの平穏な生活をのぞむ弥助。しかし道場主が二代目に替わり、おまきを病で失うと、死を求めるように闘いの日々に身を投じていく。やがて動乱の京都で、この純粋無垢にして無頼な魂に訪れた凄絶なる運命とは―。著者会心の剣豪小説、感動の後編。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

幕末の天才剣士・仏生寺弥助の生涯を描いた長編時代小説です。

 

仏生寺弥助という人は、江戸三大道場といわれる中の一つ、斎藤弥九郎の「練兵館」の門人の中でも随一であり、当代一番といわれた剣士だそうです。この本を読むまでのその存在を知りませんでした。

幕末ものは結構読んでいるつもりでいたのですが、何故かこの人の名前を聞いたことがありませんでした。主人公の仏生寺弥助という剣士があまり名の知られていない人物だからでしょうか、「柳生兵庫助」に比べると小説としての面白さは若干欠けると感じました。

しかし、そこは比較してのことなので剣豪ものが好きな人にはやはり面白いのではないでしょうか。

明治撃剣会

短編集ですが、それまでの剣豪小説とは一味違う、明治時代の剣術家の悲哀を丁寧に描写してある短編集です。

その中の表題にもなっている「明治撃剣会」は、明治維新によりその日の糧にも事欠くありさまになっていた、剣を使うことしか知らない剣術家達を救うべく、剣豪榊原鍵吉を中心として設立された「撃剣会」の物語です。

剣の技を見せものにすることで糧を得ようとする撃剣会に集う、明治維新という時代の波に乗り損ねた男達の姿が描かれています。

 

この作者自身が剣道の有段者だそうで、剣戟の場面の迫力は圧倒的なものがあります。また、明治期における剣術使いの悲哀も、自ら剣を握る人だからこそ分かる部分があるのか、読み手の心に迫ります。

時代小悦を好きな方は是非読んでほしい一冊です。

柳生兵庫助

七歳にして祖父石舟斎より絶対不敗の奥義を叩き込まれ、柳生一族の期待を一身に背負って成長した天才剣士・兵介(後の兵庫助)。二十一歳の時、加藤清正から兵法師範を請われ、伊賀忍者の小猿とくノ一の千世を連れて肥後へと旅立つが、瀬戸内海で海賊に包囲されてしまう。剣あり恋あり忍術あり、傑作長編時代小説第一弾。(「BOOK」データベースより)

 

これまで読んだ剣豪小説では一番の面白さを持っていた、柳生兵庫之介を主人公とする文庫本で十巻にもなる大河剣豪小説です。

 

世に知られた柳生石舟斉、その子である柳生厳勝の次男として生まれ、名は利厳(としとし)、通称を兵庫助と言ったそうです。柳生一族には名人と言われる人が何人かいますが、人によってはこの兵庫兵庫助を一番とする人もいます。

文庫本で全10冊という長編なのですが、兵庫助という実在の人物を、誤解を恐れずに言えば一種の活劇ものとして読むこともできるので、一気に読むことが出来るのではないでしょうか。

 

普通、剣豪小説は主人公が過酷な修練の末に得た剣の腕をもって事件や他の剣士に対します。そこではヒーローの活躍により読み手のカタルシスを誘うのでしょう。しかし、本作品ではそれに加えて兵庫助自身の成長物語も語られますし、他の剣豪との、例えば宮本武蔵との邂逅なども語られるので、更に深みを増していると思われます。

ただ、遊びのある文章では無く淡々とした文章なので、もしかしたら合わないという人があるかもしれないという若干の不安はありますが、それを超えたお面白さがあります。是非一読ください。

 

なお、本書は文春文庫版(全八巻?)、とみ新蔵の画になるコミック版(全七巻)も出ています。

 

雷神 風の市兵衛

本書『雷神 風の市兵衛』は、風の市兵衛シリーズの二作目となる長編の痛快時代小説です。

個人的には第一作目の『風の市兵衛』の方が面白かったと思うのですが、解説者によると、第一作目よりも二倍面白い、ということです。

 

内藤新宿開宿以来の老舗磐栄屋が窮地に陥っていた。不当に立ち退きを命じられた挙句、主天外と跡取り息子が何者かに襲われたのだ。そんな最中、風のように一人の男が現われる。“算盤侍”唐木市兵衛である。つぶさに現状を調べた市兵衛は、新宿進出を狙う豪商と鳴瀬藩の陰謀と看破する。主の娘とともに店を救う秘策とは?時代小説に新たな風が吹く、大好評の第二弾。

 

本書『雷神 風の市兵衛』の今回の舞台は内藤新宿の磐栄屋(いわさかや)という呉服太物問屋です。この磐栄屋では店の主人が暴漢に襲われ怪我を負ったり、跡継ぎである息子は仕入れ先の武州で古参の手代と共に山中で盗賊に襲われて落命したりと災難が続いていました。

そこで、主人の代わりに仕入れに行くことになった娘のお絹のために、腕が立ち算盤もできる者を探していたのです。たまたま請け人宿の宰領屋(口入屋)にいた市兵衛は、その話を請けることになります。

磐栄屋の災難は麹町に店を構える呉服店の岸屋が糸を引いており、手先である地元新宿の大黒屋重五というやくざが嫌がらせを仕かけていたのでした。

 

残念なことに、私は第一作目の『風の市兵衛』ほどの面白さは感じなかったのですが、文芸評論家の縄田一男氏は「あとがき」で、私の感想とは真逆に、「本書は、一作目の二倍は面白い」と書いておられました。

 

 

確かに、本書『雷神 風の市兵衛』は磐栄屋の主人の人となりに焦点が当てられていたり、他方では市兵衛を磐栄屋へと結びつけるきっかけになった小僧の丸平(がんぺい)が、こまっちゃくれてはいるが憎めない小僧として描かれていたりと、主人公以外の登場人物への配慮が一作目よりも丁寧に為されています。

個人的にはその点こそが市兵衛が一歩引いた形となり、一作目ほどの面白さを感じなかったのです。

しかしながら、市兵衛の人となりは一作目で十分に語ってあること、まだその一端しか見えていない市兵衛の過去も少しずつ紹介されてはいること、などと考えると、私の本作品に対する第一印象は修正すべきなのかもしれません。

 

一作目で大変な目にあった同心の渋井鬼三次は、本作でもなかなかに重要な役割を果たしていたり、市兵衛の影の仲間とも言うべき存在も変わらずに活躍し、読者を楽しませてくれています。

そうした点でも、本作品はエンターテインメント小説としてかなり面白さを持つ作品であることは否定できないでしょう。