夏川 草介

神様のカルテシリーズ

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神様のカルテ0』とは

 

本書『神様のカルテ0』は『神様のカルテシリーズ』の第四弾で、2015年2月に小学館から刊行され、2017年11月に小学館文庫から288頁の文庫として出版された、長編の医療小説です。

 

神様のカルテ 0』の簡単なあらすじ

 

人は、神様が書いたカルテをそれぞれ持っている。それを書き換えることは、人間にはできないー。信州松本平にある本庄病院は、なぜ「二十四時間、三百六十五日対応」の看板を掲げるようになったのか?(「彼岸過ぎまで」)。夏目漱石を敬愛し、悲しむことの苦手な内科医・栗原一止の学生時代(「有明」)と研修医時代(「神様のカルテ」)、その妻となる榛名の常念岳山行(「冬山記」)を描いた、「神様のカルテ」シリーズ初の短編集。二度の映画化と二度の本屋大賞ノミネートを経て、物語は原点へ。日本中を温かい心にする大ベストセラー最新作!(「BOOK」データベースより)

目次

有明 | 彼岸過ぎまで | 神様のカルテ | 冬山記

 

神様のカルテ0』の感想

 

本書『神様のカルテ0』は『神様のカルテシリーズ』の第四弾で、本屋大賞にも二度ノミネートされた長編の医療小説です。

「有明」「彼岸過ぎまで」「神様のカルテ」「冬山記」の四作品が収められている短編集で、神様のカルテシリーズ本編に対するサイドストーリーです。

主人公の栗原一止が医学生であった頃から、本庄病院に勤務するようになった頃までが描かれています。

 

一止が学生時代を過ごした信濃大学医学部学生寮の「有明寮」での出来事を描いた第一話「有明」は、『神様のカルテシリーズ』にはおなじみのメンバーの青春記です。

 

本庄病院の大狸先生古狐先生、それに金山事務長らのエピソードが語られる第二話「彼岸過ぎまで」

病院の合理化を進める金庫番の事務長と現場の医師との間では常に対立が絶えないのですが、事務長の心を開いてみると意外な言葉が出るのでした。

 

本庄病院の一年目の研修医である栗原一止が初めて迎える夏の出来事を描いた第三話「神様のカルテ」

一止と國枝正彦という癌患者との会話は心に刺さり、忘れられないものでした。

 

そして山岳写真家でもあるハルこと片島榛名の心温まる物語である第四話「冬山記」

人生に絶望した中年男とハルさんとの会話も、ハルさんらしい言葉なのです。

 

このシリーズの持つ「重さ」は本作も同様です。

しかしながら、その重さを感じさせないこの作家の文章の力は素晴らしいと、作品ごとに思わされます。

一止という主人公にとどまらず、その妻であるハルさんや病院スタッフも含めたキャラクタ造形のうまさと、そのキャラクタたちが織りなす真摯な生き方、読み手に訴えかけてくる会話文の巧みさが一般に受け入れられているからこそベストセラーにもなっているのでしょう。

 

命を扱う職業であるためにテーマも真摯なものになるといえば、命をかけて行う行為である登山、それも冬山登山が思い浮かびます。

そして本書と同様に読みやすさも兼ね備えている小説としては笹本稜平の『春を背負って』があります。

山小屋を訪れる人々の人間ドラマを描いた感動な物語であると共に、清々しさも漂う、爽やかな読後感を持つ物語です。

次いで思い浮かんだ作品としては、決して明るくはない作品なのでここで紹介するのはちょっと違うかもしれませんが、患者側からの立場で書かれた作品があります。

若年性のアルツハイマーに罹った男の悲哀、夫婦愛を描いた作品である荻原浩の『明日の記憶』という作品です。

この作品は渡辺健主演で映画化もされています。

[投稿日]2016年10月01日  [最終更新日]2025年2月24日

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他にも多くの作品がありますが、下記の作品も半分は未読です。
明日の記憶 ( 荻原 浩 )
若年性アルツハイマー病を患ったやり手営業マンと、その妻の過酷な現実に向き合うヒューマンドラマです。渡辺謙主演で映画化もされました。
イン・ザ・プール ( 奥田 英朗 )
『精神科医伊良部シリーズ』の第1作で、伊良部総合病院の地下にある神経科を舞台に患者とその医師とを描いた短編小説集です。第127回直木賞候補作品にもなりました。
神々の沈黙 ( 吉村 昭 )
世界各地で行われた心臓移植の試みでの担当医の野心と挫折や患者の期待と苦悩など、それにまつわる人間のドラマを浮彫りにした、感動のドキュメンタリー小説。
チーム・バチスタの栄光 ( 海堂 尊 )
現役の医師が描いた、田口公平という通称愚痴外来を任されている実に人のいい医師と、強烈な個性の持ち主である役人の白鳥圭輔との掛け合いが見事な、バチスタ手術にかかわる殺人事件の謎を解明するミステリーです。
鹿の王 ( 上橋 菜穂子 )
戦士団の頭であったヴァンは奴隷として囚われていたが、ある日黒い獣の一団が襲ってきた後、鉱山の者皆が流行り病で死んでしまう。生き残ったのはヴァンと幼子だけだった。第4回日本医療小説大賞を受賞しています。
使命と魂のリミット ( 東野 圭吾 )
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