倅が稽古を休んでいる理由を千坂彦四郎に説明する八丁堀同心・坂口主水の表情は冴えなかった。大店の幼女誘拐事件を探索する御用聞きや同心の子が相次ぎ襲われ、ついに死者が発生。用心のため外出を控えさせているという。下手人一味の非道なやり口に彦四郎は憤るが、魔の手は千坂一家の間近にまで迫っていた。大人気シリーズ、震撼の第五弾! (「BOOK」データベースより)
北町奉行所の臨時廻り同心の坂口主水は近頃発生している大店の娘の誘拐事件の掛ですが、息子が何者かに狙われているところから道場を休ませたいと言ってきました。
ところが、藤兵衛の亡妻おふくの実家である藤田屋が、娘のお菊が攫われて二千両という身代金と、町方には知らせるなとの要求とがあったと知らせてきたのです。
弥八と佐太郎とに頼んでお菊を探しますが、「女衒の辰」という名前は上がるもののおきくの居場所はなかなかに分かりません。それどころか、逆に千坂道場に現れた二人の武士は、探索をやめなければ門弟や彦四郎の妻子の命も保障しないと言ってきたのです。
にもかかわらず身代金を受け取りに来た犯人らのあとをつける藤兵衛でしたが、これを見失しない、千坂道場は犯人らの襲撃を受けるのでした。
前巻で、新シリーズになってからの各話の構造は同じだ、と書いたのですが、さすがに本書はその構造を異にするものでした。
勿論、弥八や佐太郎の探索をもとに藤兵衛らが動くという点では変わりはありません。しかしながら、その点は登場人物としての役割分担をそのままに果たしているだけであり、この点を指摘しても始まりません。
ただ、攫われた娘を実際救出するには、千坂道場関係の八丁堀同心坂口主水らがいたほうが何かと都合がいいと思うのですが、それでは痛快小説としての構成が成り立たないのでしょう。
また、藤兵衛ら主持ちでない侍、つまり身分は浪人の侍が人を殺めた場合、何のお咎めもないものなのか、そんなことを考えながら読んでいました。
こういうことを考えてしまうのも、本書も若干その気配が見えるのですが、シリーズが似たような物語になってしまうことの悪い側面かもしれません。
そう言いながらも、このシリーズを読み続けるとは思います。だからこそ、眼を見張る展開を期待したいのです。