中山 祐次郎

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泣くな研修医シリーズ』とは

 

本『泣くな研修医シリーズ』は、新人の外科医師を主人公とした青春医療小説です。

医療の現場における新米医師の実際を克明に記したリアルですが、感動的でもある青春小説です。

泣くな研修医シリーズ(2023年07月24日現在)

  1. 泣くな研修医
  2. 逃げるな新人外科医
  1. 走れ外科医
  2. やめるな外科医
  1. 悩め医学生

 

泣くな研修医シリーズ』について

 

本『泣くな研修医シリーズ』の主人公は大学を卒業したばかりの二十五歳の研修医の雨野隆治という新米医師です。

第一巻『泣くな研修医』の冒頭で、忙しく働いている両親に兄ちゃんの様子がおかしいという弟の話が出てきます。多分その弟が雨野隆治という主人公だろうという推測のまま、話は進んでいきます。

主人公の雨野隆治は第一巻目の『泣くな研修医』では、東京下町の総合病院に勤務する一年生です。

この後、第二巻目の『逃げるな新人外科医』では二十七歳の三年目の雨野隆治の姿があり、第三巻『走れ外科医』では五年目の、第四巻『やめるな外科医』では六年目の外科医となっています。

そして、第一巻『泣くな研修医』では、リアルな医療現場の現実が描き出されているところを見ると、第二巻、第三巻と隆治の成長物語であることは変わりません。

ただ、第五巻『悩め医学生』では、雨野隆治が鹿児島の国立大学医学部を受験し、医学部生となった様子が描かれていて、医者という職業の特殊性の一端が示されているように感じます。

 

つまり、少なくとも第一巻の『泣くな研修医』では、夏川草介の『神様のカルテシリーズ』で描かれている地域医療の問題や、大鐘稔彦の『孤高のメス―外科医当麻鉄彦』で描かれている大学の医局制度の問題などの社会的なテーマには触れられていません。

さらには信州の四季折々の風景のような、背景となる自然の描写もまずありません。

本シリーズは医療の現場を描くことを目指しているようです。そしてその現場で右往左往する新米医師の様子を描くことに徹しています。

 

 

小説としてどれだけ完成度があるのかは私には判断できません。しかし、決してうまいとは思えない文章で描き出されるこの『泣くな研修医シリーズ』は確実に読む者の胸に迫ります。

少なくとも、本シリーズの読み初めには、本書の文章が小説にはあまり慣れておられないのだろう、という印象が先にありました。

しかし、その文章が描き出す新米医師の実態は、彼が犯したミスに対し先輩医師が言った、医者は「ミスすると患者を殺してしまう仕事」だと言われた言葉に集約されるように強烈です。

そうした緊張感の中でただがむしゃらに病院に泊まり込み、患者に寄り添う主人公の姿は感動的ですらあります。

 

著者の中山祐次郎という人は、「普段は自覚しづらい命の価値」を認識し、その上で「死ぬ時に後悔しない人生」を送ってほしいという気持ちを伝えるには小説という媒体がより伝わりやすいという考えで本『泣くな研修医シリーズ』を描いたそうです( PRESIDENT 2020年1月3日号 : 参照 )。

その思いは読者にも深く届いていると思われます。

 

ちなみに、本『泣くな研修医シリーズ』はGENERATIONS from EXILE TRIBEのメンバーの白濱亜嵐の主演でテレビドラマ化され、2021年4月24日から放映されました。

白濱亜嵐は本書の主人公の印象にしては少々線が太く、かっこよすぎであり、またおちゃらけた人物像もかなり本書の隆治とは異なる印象でした。

そして何より、白濱亜嵐のファンの人には面白いドラマだったかもしれませんが、個人的には医療ドラマの側面が薄く感じ、三話ほどを見たもののその後は見る気もなくなってしまいました。

残念でした。

[投稿日]2021年04月23日  [最終更新日]2023年7月24日
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