『逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』とは
本書『逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』は『泣くな研修医シリーズ』の第二弾で、2020年4月に幻冬舎から文庫本書き下ろしで408頁の文庫として出版された、長編の青春医療小説です。
後期研修期間に入り、とりあえずは医者の仲間入りをした新米医師の姿を描いた感動的な物語です。
『逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』の簡単なあらすじ
雨野隆治は27歳、研修医生活を終えたばかりの新人外科医。二人のがん患者の主治医となり、後輩に振り回され、食事をする間もない。責任ある仕事を任されるようになった分だけ、自分の「できなさ」も身に染みる。そんなある日、鹿児島の実家から父が緊急入院したという電話が…。現役外科医が、生と死の現場をリアルに描く、シリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)
牛ノ町病院で後期研修に入っている雨野隆治にも後輩ができた。西桜寺凛子という新人研修医で、外科以外はどこでもいいという派手な、しかし明るい女性だった。
この凛子は若干のんびりしている印象はあるものの仕事はよくでき、人当たりがよく、患者たちにもすぐに溶け込む性格の持ち主だった。
そして隆治は、七十二歳の水辺一郎、六十六歳の紫藤博という二人の大腸がん患者を担当することになる。
何もかも始めての経験であり、とくに入れ墨が入った水辺には最初の挨拶のときに叱られてしまうが、凛子は持ち前の明るさで水辺にも明るく接し、すぐに溶け込むのだった。
そんな隆治に鹿児島の実家から父親の具合がよくないとの連絡が入るが、忙しさにかまけて忘れてしまっていた。
『逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』の感想
本書『逃げるな新人外科医』での雨野隆治は二十七歳、医者になって三年目で、二年間の初期研修を終えて外科医になる道を選び、前期同様牛ノ町病院で後期研修に入っています。
本書では、隆治が初めて主治医として担当することになった二人の患者を巡る話を軸になっています。
外科医の仕事にも少しだけ慣れてきた隆治がいよいよシビアな外科医療の現場に接し、汗と涙にくれる様子が描かれるのです。
それは例えば、下血し救急車で運ばれてきた癌患者への挿管処置などですが、その患者に関し、外科医というよりは医者としての心得なども指導医である佐藤玲から叩き込まれます。
家族からの患者の病状についての質問に対し、隆治は「大丈夫」という言葉を発してしまいますが、後にその患者の病状は悪化してしまいます。
そこで、家族の安心のために「大丈夫」などというのは医者が楽になりたいからだと言い切ります。
そして、「外科医はその重荷から逃げちゃいけない。」「外科医は、時に人を殺すんだ。」という佐藤の言葉は重みがあります。
ほかにも隆治の外科医としての仕事の様子が描かれています。それは最初の手術であったり、また患者を看取ることであったりもするのです。
それとは別に、牛ノ町病院には西桜寺凛子という新しい研修医が入ってきますが、派手な見た目とは裏腹にのんびりした話し方の凛子は、しかし仕事はできる女性でした。
また隆治のプライベートとしては、鹿児島の実家では父親が大腸がんで入院することになりますが、なかなか帰省できないでいます。
そのほかに、研修医のころからの同期で耳鼻科医の川村に連れていかれた合コンで知り合い、付き合い始めたはるかという彼女もできています。
たまに会ったりもするのですが、緊急の呼び出しなどでゆっくりした時間も取れない隆治でした。
たしかに、本『泣くな研修医シリーズ』は小説としてみると決して文章がうまいとは思えず、本書『逃げるな新人外科医』では意地悪な看護師のエピソードが途中で立ち消えになっていたりと、微妙に気にかかるところもあります。
しかしながら、手術の場面や患者との会話、救急医療の現場など、現場を知るものならではの臨場感にあふれていて惹き込まれるのです。
とくに隆治が、外科医として患者が死ぬことに慣れてしまったのではないか、と悩む姿は医者ならではの姿であり、それは作者中山祐次郎自身の姿でもありそうです。
でも、主人公雨野隆治というキャラクター自体が作者中山祐次郎の姿に重なるのでしょうから、それは当たり前と言えば当たり前かもしれません。
そして、けっしてうまい文章ではありませんが、やさしい文章であって、とても読みやすい物語になっています。
何よりも主人公の隆司の外科医としての成長が描かれていて、前巻泣くな研修医から本書『逃げるな新人外科医』までの二年間の隆治の現場での経験を経ていることが確かに伝わってくるのです。
読んでいてそうした感覚が嬉しく、また楽しみでもあります。
続巻が楽しみに待たれる作品でした。