中山 祐次郎

泣くな研修医シリーズ

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走れ外科医 泣くな研修医3』とは

 

本書『走れ外科医 泣くな研修医3』は『泣くな研修医シリーズ』の第三弾で、2021年3月に幻冬舎から文庫本書き下ろしで400頁の文庫として出版された、長編の青春医療小説です。

医者になってこの春で五年目の、少しは医者として成長がみられる新米医師の姿を描いた作品です。

 

走れ外科医 泣くな研修医3』の簡単なあらすじ

 

若手外科医・雨野隆治のもとに急患で運ばれてきた二十一歳の向日葵。彼女はステージ4の癌患者だった。自分の病状を知りながらも明るく人懐っこい葵は、隆治に「人生でやっておきたいこと第一位」を打ち明ける。医者として止めるべきか?友達として叶えてあげるべきか?現役外科医が生と死の現場を圧倒的リアリティで描く、シリーズ第三弾。(「BOOK」データベースより)

医者になってこの春で五年目の雨野隆治は牛ノ町病院外科での後期研修医になって二年目になっていた。

牛ノ町病院救急外来で既に二台の救急車依頼を受け入れていた雨野隆治は、さらにもう一台の救急患者を受け入れるしかなかった。かかりつけの病院が受け入れてくれないというのだ。

その患者は二十歳の頃に胃の癌で胃を摘出しているステージ4の二十一歳の女性で向日葵という女性だった。

 

走れ外科医 泣くな研修医3』の感想

 

前巻の『逃げるな新人外科医 泣くな研修医2』では主人公の雨野隆治が初めて担当する二人のがん患者のことを主軸に据えた物語でした。

それに対し本書『走れ外科医 泣くな研修医3』では、一人の女性患者のことが軸になっています。

また、新たに新人の外科医も登場し、隆治の手助けをすると同時に振り回しもする姿が描かれます。

そして、隆治の指導医であった佐藤玲のプライベートも描かれていて、これまでの先輩医師としての姿とは異なる姿が示されています。

 

本書『走れ外科医 泣くな研修医3』では、雨野隆治も医者になってこの春で五年目になり、それなりに一人前の外科医となっています。

その隆治のもとに、前巻の『逃げるな新人外科医』で研修医として登場してきた西桜寺凛子という女性外科医が新人の外科医として登場してきます。

そんな隆治たちの前に、癌のために余命いくばくもない二十一歳の向日葵という女性が患者として現れ、隆治たちの日常をかき乱します。

新人外科医の凛子は歳も近い向日葵にどうしても感情移入してしまい、医者と患者との関係性を越えたつながりを持ってしまいます。

そうした二人に引きずられる隆治であり、ついには女性二人の勢いに押され、富士登山まで付き合うことになってしまうのです。

 

一方、隆治の指導医である佐藤玲もまた一人の女性として、付き合っている男性にプロポーズされ、ともにアメリカへ行ってくれないかとの誘いを受け悩みに悩みます。

女性医師にとって結婚は、妊娠、出産を経ることを意味し、その間医師としての仕事をあきらめることでもあります。また、その後の子育てを夫が手伝ってくれるかも不明です。

つまりは、自分の家庭を持つということは医師としての仕事をあきらめることにつながる可能性が強く、医師という仕事に情熱を燃やせば燃やすほど結婚からは遠ざかることになりかねません。

そんな女性医師としての佐藤玲の直面する問題も取り上げてあり、医師の抱える一つの側面を示してあるのです。

 

隆治個人も、研修医のころからの同期で今では耳鼻科医となっている川村に連れていかれた合コンで知り合い、後に付き合い始めたはるかという彼女のことも描かれています。

この女性と交際する姿は、医者全般に普遍化するわけにはいかないでしょうが、それでも緊急の呼び出しなどは同じでしょう。

 

本書『走れ外科医 泣くな研修医3』は、医者の物語であり、当然のことながらいろいろな患者の様子が描かれています。

でも、常連さんという高齢のお婆さんや常に横柄な態度で人を見下す態度しか取れない議員など、そうした患者の描き方はステレオタイプとも言えそうです。

しかしながら、外科医の現場の仕事の描写となるとさすがにリアリティに富んだ描写が続きます。

本シリーズが今後も続くことを期待したいものです。

[投稿日]2021年08月23日  [最終更新日]2024年5月10日
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