長浦 京

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講談社

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本書『リボルバー・リリー』は、元諜報員の女性と家族を皆殺しにされた少年との逃避行の様子を描いた、文庫本で656頁にもなる長編のアクション小説です。

時代背景や登場人物の来歴などを緻密に描いてあり、重厚な上にかなり長い物語であって簡単には読めない作品ですが、最後まで息を抜けずに惹き込まれて読んだ作品でした。

 

『リボルバー・リリー』の簡単なあらすじ

 

小曾根百合―幣原機関で訓練を受け、東アジアなどで三年間に五十人超の殺害に関与した冷徹非情な美しき謀報員。「リボルバー・リリー」と呼ばれた彼女は、消えた陸軍資金の鍵を握る少年・細見慎太と出会い、陸軍の精鋭から追われる。大震災後の東京を生き抜く逃避行の行方は?息をもつかせぬ大藪春彦賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

 

十三歳になる細見慎太は、関東大震災のあと両親とは別に、訳も分からないままに名前も変えて埼玉県秩父へと移り住むことになった。

ある日、突然帰ってきた父親に書類を渡されて弟と共に逃亡させられ、秩父で知り合った筒井国松の元へ逃げるが、父の後を追ってきた男たちに家族皆殺しにされてしまう。

しかし、その筒井とさらに弟も殺された慎太は、筒井から紹介された小曾根百合という女性に助けられて男たちの手から逃亡する。

男たちは陸軍の兵士であり、父親が隠した巨額の資金に関する書類を追っていて、慎太は百合と共にこの状況から脱出するために必死の逃亡を続けるのだった。

 

『リボルバー・リリー』の感想

 

本書『リボルバー・リリー』の主人公は小曾根百合といい、水野寛蔵という男のもと、特殊機関で訓練を受けた元間諜です。

この百合の能力は、二十歳になるまでの三年間で百合の関与が疑われた事件は三十七件、計五十七人が殺されたと言われるほどです。

その人物に助けを求めたのが小学三年生の細見慎太でした。慎太の父親の細見欣也は、陸軍の資金を運用して巨大な利益を生み出していました。

小曾根百合の手助けをしているのが那珂という女で、百合の旦那で会った水野寛蔵に仕えていた女で、その後も百合の手助けをしています。

また、百合に助けられたことを恩義に感じ、今回の逃避行をも助ける弁護士が岩見良明です。百合がやっている玉ノ井の銘酒屋の法律相談もしています。

ちなみに、「銘酒屋」とは、「銘酒を売っているという看板をあげて、ひそかに私娼を抱えて営業した店」のことを言うそうです。( コトバンク : 参照 )

 

百合と慎太のあとを追っているのは、陸軍関係では津山ヨーゼフ清親大尉であり、また百合と同じ機関で育てられた間諜の南始です。

また、ヤクザ関係として水野寛蔵の息子である水野武統もヤクザの力を総動員して二人を追いかけています。

他にも、山本五十六のように歴史上実在した人物などが少なからず登場します。

 

私が読んだのは490頁にもなるハードカバーであり、その分厚さに驚きもしたものです。

さらには、内容が緻密であり、実に濃密な書き込みが為されているために簡単に読み飛ばすこともできませんでした。

しかしながら、巻末に掲げられている二十六冊にものぼる参考資料からも分かるように、著者は、歴史的な事実や歴史的事件の背景などを綿密な調査を経たうえで執筆されていて、登場人物たちの行動にそれなりの必然性を与えています。

そのために、本書『リボルバー・リリー』を単純にストーリーだけを取り上げれば、元間諜の女性と少年との逃避行というだけになってしまいますが、設定された慎太の家族が殺された理由や、百合と慎太が危機を乗り越える方法などが具体的に描かれていて、物語に厚みが出ているのです。

さらには登場人物の行動に必然性を与えてありますから、読んでいて彼らの行動に疑問を抱くことなく読み進めることができます。

特に、クライマックスで大正末期の東京の街をある目的地へ向けて疾走する場面は、まさに市街戦であり手に汗握る場面の連続であって、一気に結末へとなだれ込む読みごたえがあります。

 

こうした緻密な描写に裏付けられたリアリティーがあり、物語の重厚さを持つ物語と言えば、月村了衛の作品を思い出します。

中でも『機龍警察』を第一巻とする『機龍警察シリーズ』は、その重厚な世界観もあり、アクション小説としても一級品だと思います。

 

 

蛇足ですが、このクライマックスの場面は、あらためて考えるとクリント・イーストウッドが自ら監督をし、主演も務めた『ガントレット』のクライマックスを思い出させるものでもありました。

警察の一団が待ち構える中に乗り込んでいく主人公、という構図は同じものでしょう。とはいえ、本書の方が何倍もスケールが大きく、そういう意味では比較にもならないかもしれません。

 

 

本書のもう一つの魅力は、歴史の裏面史ともいうべき見方を提示してくれていることです。

歴史上の出来事をちりばめながら、事実の間に虚構を埋め込み、いかにも真実の出来事のように見せかけるというのは、小説手法としては普通、というよりは当たり前のことでしょう。

しかしながら、その描写の緻密さ、埋め込み方のうまさなど、読者を引き付ける魅力において優れた作品だと思います。

だからこそ、大藪春彦賞受賞という評価を与えられているのではないでしょうか。

作者長浦京の次の作品の『マーダーズ』よりも本書の方が私の感覚にあい、面白いと感じた作品でした。

 

[投稿日]2021年01月15日  [最終更新日]2021年1月26日
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『リボルバー・リリー』(長浦 京):講談社文庫|講談社
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