トップランナー、真姫の警護を担当することとなったボディガードの八木は、自らの髪を金色に染め、ハイ・プロファイル・プロテクションを実施する。企業のイメージキャラクターとして、アスリートとして、涙を見せず気丈にふるまう真姫に、悲劇は襲いかかる。コーチが殺害され、あらぬ疑いをかけられた真姫を救うため、八木の率いる女性警護チームがあらゆる危険を排除すべく動いたが―『左手に告げるなかれ』の江戸川乱歩賞作家、渡辺容子が圧倒的なスピードとスケールで描く渾身のボディガードエンターテインメント。(「BOOK」データベースより)
本書は、位置付けとしては第42回江戸川乱歩賞を受賞した『左手に告げるなかれ』の続編ということになるのでしょう。ところが、前作での主人公八木薔子の職業は保安士、つまりは万引きGメンだったのですが、本書での八木薔子は女性ガードマンになっており、物語も主人公の職種が変わっているためか、アクション性を帯びたミステリーとでも言うべき物語になっています。
本書での警護対象者である真姫はマラソンランナーであり、さまざまな妨害や物理的な攻撃まで受けているのですが、あるとき彼女のコーチが殺されてしまいます。コーチは誰に、そして何故殺されたのかという謎を抱えながら物語は進み、真姫に対する妨害行為の裏には企業の思惑が絡んでいることが判明してきます。
ボディーガードの本来の職務からすると襲撃者に対する反撃などはもってのほかであり、まずは警護対象者を安全に逃がすこと、つまりは「逃げる」ことこそ職務だと聞いたことがあります。とすれば、必然的にアクション小説としての場面は後退せざるを得ないということでしょうか。それでも、やはりエンターテインメント小説としての面白さは損なわないように、うまく処理してあります。
本作品では、ボディーガードという職務の内容を、スタッフの動きまで描写しつつ、読者に分かりやすく描いてあります。本作では女性が主人公であるからこそ、真姫の心のうちまで配慮するガードを心がけるという特色を出していて、物語の持つリアリティーも満たし、読みごたえのある作品だと思いながら読みました。
どうもこの間の保安士からボディガードへの異動の話は短編集の『ターニング・ポイント』に記してあるようです。近いうちに読んでみましょう。
ボディーガードを主人公にした小説といえば今野敏のボディーガード工藤兵悟シリーズという作品があります。傭兵として世界の戦場で戦ってきた経験を活かしてボディーガードを生業としている工藤兵悟の活躍は、アクションを得意とする今野敏らしい作品に仕上がっています。
また、大沢在昌 にも腕利きのボディガード・キリを主人公とした獣眼という作品がありました。こちらは、大沢作品にしては若干キレがないかと思わせられる作品でした。しかし、読み手の好みに左右されるような気もします。