本書『千里眼 運命の暗示 完全版』は、『千里眼 クラシックシリーズ』第三巻の、文庫本の「解説」まで入れると全部で514頁にもなる長編のエンターテインメント小説です。
かなり冗長な物語であり、相変わらずツッコミどころ満載の作品です。
『千里眼 運命の暗示 完全版』の簡単なあらすじ
拉致監禁された岬美由紀を発見した蒲生誠と嵯峨敏也。しかし為す術もない3人を乗せた戦闘機は反日感情の渦巻く中国へと飛び立った。13億もの国民を洗脳し、戦争に向わせることなどできるのか?唯一の鍵を握る男を追って北朝鮮との国境から南京の刑務所へ、そしてディズニーランドにそっくりのテーマパークへと飛び回る美由紀たちに開戦が迫る!全く新しい緊迫のストーリーが炸裂するクラシックシリーズ第3弾。(「BOOK」データベースより)
前巻『千里眼 ミドリの猿 完全版』の終わりで、新たに登場してきた敵役のメフィスト・コンサルティング・グループに捕まってしまった岬美由紀だった。
一方、嵯峨敏也は敵の一味の次の行動をつかみ横浜の中華街へとやってきたところで、同様に岬美由紀を探している蒲生誠警部補と出会い猿島へと向かう。
猿島にあるトンネルをたどった先にあったヘリコプターに乗り込み、やっと岬美由紀を見つけた二人だったが、美由紀はなにも反応しない状態になっていた。
ぎりぎりで復活した美由紀だったが、ヘリコプターから逃げ出す前に二人と共に中国本土へと運ばれ、何故か日本に対し怒りをたぎらせている中国人民のただなかに放り出されてしまう。
何とかその場を逃れ、中国全土を舞台に逃げまどいながら、日本と中国との間の戦争の回避方法を探りながら、日本への帰還の道を探す三人だった。
『千里眼 運命の暗示 完全版』の感想
本来は『千里眼 ミドリの猿 完全版』上下巻の下巻部分となるべき作品です。
その設定にかなり無理があって文章も冗長であり、もっと短くできる作品だとの思いしかありませんでした。
同時並行して少しずつ読んでいるこの作者の『高校事変シリーズ』(角川文庫版 クラシックシリーズ)では、この『千里眼シリーズ』と同じような荒唐無稽な物語であるものの、その物語世界の中では一応の整合性は取れていると思われます。
しかし、『千里眼シリーズ』の場合はあまりに都合がよすぎます。
本書『千里眼 運命の暗示 完全版』でも、荒唐無稽に過ぎると思うしかない場面だけだと言っても言い過ぎではない、と感じるほどです。
例えば、最初の方では主人公の岬美由紀がメフィスト・コンサルティング・グループによって体の自由を奪われ、口もきけない状態でいたはずなのに、なぜかぎりぎりになって体が動き始めます。
また、なんとか逃げ出した岬美由紀と蒲生、嵯峨の三人は日本人を、特に岬美由紀を目の敵にしている中国国民の間をかなり長い間日本語でしゃべりながら移動しています。
簡単な変装をしているにしろ、蒲生、嵯峨の二人は中国語は話せないにもかかわらず、特に蒲生は他の二人とはぐれて一人になっても何とか生き延びて、そのうちに美由紀ら二人と連絡を取り再開します。
この点については、麻生幾の『ZERO』(幻冬舎文庫 全三巻)という作品の中でも主人公が中国大陸を縦横無尽に逃走し、何とか逃げ切る展開があります。
その場合でもかなり無理な設定という印象はあったのですが、本書に比べれば何と真実味に満ちた作品だったのかと思ってしまいました。
その中国で、中国の異変について何か知っていそうな、もうすぐ死刑になる日本人の窓原茂行を救出しようとしますが、その展開も無理筋です。
本『千里眼シリーズ』の主人公岬美由紀の博識ぶりについても、どんな銃器の扱いや格闘術にも長けており、そればかりか日本を越えて中国の法律までも知悉している姿もまた驚異的です。
この人の知らないことはないのだろうと思わせられてしまいます。
こうした点を挙げていけば、本書『千里眼 運命の暗示 完全版』で突っ込まないでいられる箇所はない、と言えるかもしれないほどです。
しかしながら、そうした荒唐無稽さを前提として『千里眼シリーズ』を読み続けているはずで、でなければ本書までたどり着いていないと思われます。
ただ、ちょっと荒唐無稽さ、ご都合主義が過ぎるという点は否めないにしても、その欠点を越えた魅力があるからこそ『千里眼シリーズ』を読み続けているのでしょう。
ここで、断言できないところが弱いのですがこればかりは仕方ありません。
とは言え、『千里眼 ミドリの猿 完全版』と本書とを合わせると850頁を軽く超える分量になります。
本書『千里眼 運命の暗示 完全版』が単純に痛快さだけを求める作品だとしても、この分量が必要だったのか、もっと簡潔に書けるのではないか、と思わざるを得ない作品でした。