冲方 丁

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本書『アクティベイター』は、新刊書で520頁というかなりの長さの長編の冒険小説です。

時代小説や推理小説など、様々な分野の作品を世に出してきた冲方丁という作者の、今度は謀略の世界を舞台にした冒険小説に挑んだ作品です。

 

アクティベイター』の簡単なあらすじ

 

下記掲載の「日販商品」データベースの文章で本書の内容がほとんどまとめられていますので、簡単なあらすじの代わりとして掲載させてもらいました。

 

標的は、日本国民1000万人――。
羽田空港に突如、中国のステルス爆撃機が飛来した。
女性パイロットは告げる。「積んでいるのは核兵器だ」と。
核テロなのか、あるいは宣戦布告なのか。
警察庁の鶴来(つるぎ)は爆撃機のパイロットを事情聴取しようとするが、護送中に何者かに拉致されてしまう。
囚われた彼女を助けたのは鶴来の義兄で警備員の真丈(しんじょう)だった。
真丈は彼女に亡き妹の姿を重ね、逃亡に手を貸す決意をする。
核起爆の鍵を握る彼女の身柄をめぐり、中国の工作員、ロシアの暗殺者、アメリカの情報将校、韓国の追跡手が暗闘する。
一方、羽田には防衛省、外務省、経産省の思惑が交錯する。
いったい誰が敵で、誰が味方なのか。なぜ核は持ち込まれたのか。
爆発すれば人類史上最大の犠牲者が――その恐怖の中、真丈と鶴来が東京中を奔走する。
『天地明察』、『十二人の死にたい子どもたち』、「マルドゥック」シリーズ等数々のヒット作を生み出した著者が、作家生活25年のすべてを込めた極上の国際テロサスペンス。
冲方丁デビュー25周年記念作品。(「日販商品」データベースより)( オンライン書店【ホンヤクラブ】

 

アクティベイター』の感想

 

本書『アクティベイター』は謀略小説であり、アクション重視の冒険小説だとも言えます。

各国の思惑が入り乱れ、主人公の一人は知的側面を担い、もう一人はアクション面を担当し、両面で日本国民を人質にする敵からこの国を守るのです。

そして、後に述べるような難点は感じるものの、これまでの謀略小説とはちょっと異なるテイストの物語として面白く読むことができた作品でした。

 

本書の登場人物は多数に上りますが、中表紙の次の頁に紹介一覧があるのでそれを見てもらうと分かり易いと思います。

でも中心人物だけを簡単に紹介すると、まずはアネックス綜合警備保障の警備員である真丈太一がいます。この男こそ本書のタイトルになっているアクティベイターであり、格闘術なども含んだ戦闘のプロです。

そして、もう一人の主人公ともいえる、警察庁警備局の鶴来誉士郎警視正がいます。この男は真丈太一の妹の真奈美を妻としており、つまりは真丈の義弟にあたります。

そして、日本に亡命を求めてきてこの騒動の原因となった、中国人民解放軍空軍パイロットの楊芊蔚(ヤン・チェンウェイ)などがいます。

他に経済産業省の産業調査員である淳鳩守、外務省在外公館警備対策官の辰見喜一、防衛装備庁長官官房装備官の香住甲太郎、中国大使館の周凱俊(チョウ・カイジュン)、それに影法師(クリムジャ)と名乗る韓国人などがいるのです。

彼らが真丈太一を中心としたアクション満載の場面と、鶴来誉士郎を中心とした楊芊蔚が乘ってきた機体にまつわる駆け引きなどを担当する場面とが交互に描写されていきます。

 

本書の作者の冲方丁という作家は、第31回吉川英治文学新人賞や第7回本屋大賞の受賞作で第143回直木賞の候補作にもなった『天地明察』も、著者初の長編ミステリー小説である『十二人の死にたい子どもたち』も、その文章が非常に論理的に構築されている点を特徴としています。

 

 

そしてそれは本書『アクティベイター』も同様で、それはまた論理的であると同時に、分析的だとも言えるのです。

例えば本書の冒頭すぐに、主人公の一人である警備員の真丈太一が六頁にわたって侵入者と戦う場面がありますが、この挌闘の場面で、ひとつひとつの動作ごとに力学的な意味、合理的な説明をしてあります。

その説明が正確かどうか、理にかなっているかどうかはともかく、いかにも本当らしくは聞こえ、そしてこの場面では本当らしく聞こえればそれで目的を達しています。

同じことは会話の場面でも言えます。

鶴来誉士郎の登場の場面からして部下に対する言葉の裏の意味を解説したり、後には言葉の裏を読み取りながら、いかにして会話の主導権を握り相手を自分のコントロール下に置くか、などの説明が出てきます。

 

こうした手法は、読み初めのうちはいかにもその道のプロが解説していて、当該場面での対象者の行動の意味を正当化しているように思え、感心ばかりしていました。

しかし、それも毎回のことになると何となく慣れてきたのか、読書のテンポを微妙に狂わしていると感じるようになりました。

アクション小説としてのテンポを壊している一面があることは否定できないのです。

ところが、本書のような書き方は迷惑であり好みでないと言い切ることができればいいのですが、決してそうではありません。

本書のような描写もそれなりに魅力的にも思う側面もあり、殆ど肯定的にとらえているところが難しいところです。

 

ともあれ本書『アクティベイター』は、いまだ真丈の妹で鶴来の妻の真奈美の死の詳細も明らかになっておらず、何より、主人公二人の背景もはっきりしていません。

多分ですが、この二人を主人公にした続編が書かれるのではないかと思っています。楽しみに待ちたいものです。

[投稿日]2021年04月30日  [最終更新日]2021年4月30日
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