本書『千里眼 ミドリの猿』は、『千里眼 クラシックシリーズ』第二巻の、文庫版で「著者あとがき」を除いて353頁の長編のエンターテインメント小説です。
純粋に物語を楽しむ痛快活劇小説であり、単純に楽しく読めた作品でした。
『千里眼 ミドリの猿』の簡単なあらすじ
きみも緑色の猿を見たのかい?嵯峨敏也と名乗る男にそう聞かれた瞬間から、女子高生の知美の存在は周囲から認識されず、母親からも拒絶されてしまう。彼は敵か味方か?折しも国内では岬美由紀のある行動が原因で中国との全面戦争突入のタイムリミットが迫っていた。公安に追われながらメフィスト・コンサルティングに立ち向かう美由紀の活躍が、改稿の域を超えほぼ新作となり生まれ変わったクラシックシリーズ第2弾。(「BOOK」データベースより)
須田知美は、赤羽精神科で診察を終えて出てきたところでいつもの浮遊感に襲われ、保護を求めて派出所に行っても拘束されそうになり、母親に電話しても知美を知らないと言われてしまう。
一方岬美由紀は、内閣官房直属の主席精神衛生官という立場にいて、アフリカのジフタニア共和国にODAの視察団の一員として訪れていた。
ところが、内戦状態を隠すジフタニアの担当官の嘘を見抜き、子供たちを助けるために戦闘用ヘリを奪取して政府軍に挑み、これを撃退するという事件を起こしてしまう。
なんとか日本へと帰ると、中国国民が日本に対し急激に反感を抱くようになり、戦争を仕掛ける機運が盛り上がっている事実を知る。
事件の背後には恒星天球教がいると考えた美由紀は、新宿にある公安の前哨基地の公安調査庁首都圏特別調査部へと乗り込む。
そこには公安調査庁首席調査官の黛邦雄という男が待っていて、そのビルの地下で見たのは監禁されている須田知美の姿だった。
何とか須田知美を助けて脱出した美由紀らは、須田知美が隠れていた嵯峨敏也と名乗る男のマンションへとたどり着き、そこにいた嵯峨と合流し、ともに行動を始めるのだった。
『千里眼 ミドリの猿』の感想
本書『千里眼 ミドリの猿』では、前巻『千里眼 完全版』での恒星天球教という存在とは異なる、メフィスト・コンサルティング・グループ日本支社ペンデュラムという存在が敵役として前面に出てきています。
恒星天球教はペンデュラムとどのような関係にあるのか本書の時点ではまだよく分かりません。
そして、前巻でも少なからずツッコミどころはあったのですが、本書においてはそれ以上に疑問点が山積しています。
美由紀が他国へ行ってその国の戦闘ヘリを奪取し、そのままその国の航空機と戦闘行為に入ったり、その行為に対してはなんのお咎めもなく日本に帰っています。
また、普通に日常生活を送っているはずの美由紀が、中国と日本との間で戦端が開かれそうになっていることを全く知らなかったりもしていて、かなり不自然な場面が多いのです。
上記は疑問点のほんの一端ですが、本書『千里眼 ミドリの猿』は痛快エンタテイメント小説でもあり、かなりの場面は容認して読み進めました。
本書の場合は少々世界観に無理があると思いつつ、全体としてまだ許容範囲だと自分に納得させての読書だったのです。
今回『千里眼 ミドリの猿』では、新たな敵役としてメフィスト・コンサルティング・グループという存在が出てきます。
具体的にはメフィスト・コンサルティング・グループ、ペンデュラム日本支社常務取締役で実質的に極東地域を統括する立場にあり、表の顔として公安調査庁では黛邦雄を名乗っている鍛冶光次という男がそれです。
この男の行動もツッコミどころ満載なのですが、それを挙げていたらきりがありませんのでここでは書きません。
またその部下として芦屋という精神科医もいますが、これはいわば雑魚キャラでしょう。
このメフィストグループは、「全知全能の知識と実行力によって歴史を操る闇の組織」であり、その実体は心理学を駆使した扇動で物証を残さないプロ集団です。( ウィキペディア : 参照 )
こうした敵役の設定は、物語の規模を壮大にはするでしょうが、ホラ話にはホラ話なりの理由付けが必要です。本書にその世界観を支えるだけの理屈があるかと言えば、若干の疑問があります。
一方、美由紀にも味方ができます。それが著者松岡圭祐の別作品『催眠シリーズ』の主人公で東京カウンセリングセンターの催眠療法科長の臨床心理士である嵯峨敏也です。
正体不明のキャラクターとして登場しますが、美由紀と共に須田知美を助ける手伝いをします。
そして、前巻『千里眼 完全版』からの登場人物である警視庁捜査一課の警部補の蒲生誠が今回もまた美由紀を助けます。
『千里眼 ミドリの猿』のシリーズ特性
本書『千里眼 ミドリの猿』では物語が完結せず、「千里眼 運命の暗示 完全版」につづく、とされています。
多分ですが、シリーズ内の他の著作は単巻でそれなりに独立しているものと思われます。
ここで、本書の「著者あとがき」で「小説『催眠』の正当続編として新たに書き下ろすことにし
」たと明記してありました。
そして、「本作以降、角川『千里眼』クラシックシリーズは、旧・小学館のシリーズとはまったく別の作品となります
」と、明言してあるのです。
こうした言葉もあって、『千里眼シリーズ』の項でも書いたように、本稿では角川版を読むことにしているのです。