南新堀の廻船問屋『渡海屋』の若旦那である巳之吉は、家業には目もくれず、遊興三昧。気ままな日々を過ごしていたが、業を煮やした祖父の儀右衛門から、見聞を広げるため東海道を一人で旅するよう命じられる。そんなのはごめんだと拒否した巳之吉だが、とある事情から、泣く泣く江戸を離れざるを得なくなり―。愛嬌たっぷりの若旦那が繰り広げる、笑いと涙の珍道中!時代劇界の超大物脚本家が贈る、期待のシリーズ第一弾!(「BOOK」データベースより)
世間知らずの若旦那の、江戸から京までの一人旅の様子をユーモアたっぷりに描き出す、若旦那道中双六シリーズの第一巻目の長編人情小説です。
江戸は霊岸島の南新堀にある廻船問屋『渡海屋』の若旦那の巳之吉は、家業を顧みることなく放蕩三昧の日々を送っていました。そこで「渡海屋」の跡取りである巳之吉の将来を心配した祖父の儀右衛門は、巳之吉を一人旅に送り出すことにします。
なにかと一人旅を渋っていた巳之吉でしたが、義右衛門の仕掛けにはまり京都へと旅立つことになりました。
しかし、出立したのはいいものの、世間知らずの巳之吉は早速かどわかしに会い、二百両という身代金を渡海屋に請求される羽目に陥ってしまいます(第一話)。
何とか助かったものの、富士川の川止めの間に鬼火が出る赤沼という村に出かけたり(第二話)、旅の途中で知り合った加倉井源蔵という浪人の顛末を見届けたり(第三話)、知り合った女に騙されたりしながら旅を続ける巳之吉です(第四話)。
とはいえ、儀右衛門も世間知らずの巳之吉の一人旅を心配し、巳之吉の旅を見守るようにと伊左蔵という男に頼みます。実際、随所に登場して巳之吉が陥った危険から巳之吉を助けていくのです。
こうして、章ごとに巻き起こる様々な人間模様に巻き込まれる巳之吉の様子を面白おかしく展開してあります。
この巳之吉に関しては、巳之吉の妹のおるいが、巳之吉は悪運が強いから大丈夫、いつの間にか悪運も良運になると言いきっています。
巳之吉という人間は、自分にとって嫌なことを頭から追い出したらそれはもうあにさんにとってはなかったことになるし、輝かしい思い出だけが残るんだ、というのです。
実際、旅の途中で知り合った人間に適当な話を面白おかしく話聞かせ、事件に書き込まれたりもしますが、伊左蔵の手助けもあって何とか窮地から脱出しています。
このように各章ごと事件を巻き起こす巳之吉ですが、その合間に儀右衛門やおるいらの江戸の様子を息抜きのように描いてあります。
人気の『付添い屋・六平太シリーズ』の当初からすると、物語の進め方がかなりテンポよくなってきている気がするのは私の気のせいでしょうか。
本書はお調子者の巳之吉の様子を軽妙なタッチで読ませてくれる、そうした物語として仕上がっています。
とりあえずはしばらくこのシリーズに付き合った見ようと思わせられるのです。