『あきない世傳金と銀(三) 奔流篇』とは
本書『あきない世傳金と銀(三) 奔流篇』は『あきない世傳 金と銀シリーズ』の第三弾で、2017年2月に角川春樹事務所から297頁の文庫書き下ろしとして出版された、長編の時代小説です。
大坂天満の呉服商「五鈴屋」に奉公して十四歳になった幸が五鈴屋の危機に立ち向かう姿は、この物語の定番とはいえ惹き込まれ読んだ作品でした。
『あきない世傳金と銀(三) 奔流篇』の簡単なあらすじ
大坂天満の呉服商「五鈴屋」の女衆だった幸は、その聡明さを買われ、店主・四代目徳兵衛の後添いに迎えられるものの、夫を不慮の事故で失い、十七歳で寡婦となる。四代目の弟の惣次は「幸を娶ることを条件に、五代目を継ぐ」と宣言。果たして幸は如何なる決断を下し、どのように商いとかかわっていくのか。また、商い戦国時代とも評される困難な時代にあって、五鈴屋はどのような手立てで商いを広げていくのか。奔流に呑み込まれたかのような幸、そして五鈴屋の運命は?大好評シリーズ、待望の第三弾!(「BOOK」データベースより)
『あきない世傳金と銀(三) 奔流篇』の感想
本書『あきない世傳金と銀(三) 奔流篇』では、次から次へと降りかかる難題に立ち向かわざるを得ない幸の姿があり、読者は否が応でも惹き込まれてしまう物語になっています。
卒中のため番頭の治兵衛が店を辞めた後、四代目徳兵衛の妻となった幸ですが、突然阿呆ボンが逝ってしまいます。
その後、店のために四代目の弟である惣次が跡を継ぐことになりましたが、惣次は自分が跡を継ぐためには幸が自分の妻になることを条件としてきたのでした。
やっと町内にも認めてもらい晴れて「五鈴屋」のご寮さんとなった幸に、惣次は、五鈴屋を日本一の店にするために力を貸してほしいと言います。
しかし、お家さんの冨久には、奉公人を怒鳴りつける惣次の姿は心のない商いとしか思えません。
五鈴屋の商売は順調に進みます。しかしながら「商いは情でするもんやない」と言う惣次は、幸に感謝をしつつも「私の陰に居ったらええ。」として、商いの上での戦国武将になるつもりの幸の心とは異なる道をすすむのでした。
「五鈴屋」にも幸自身の身の上にも大きな変化が訪れています。「五鈴屋」の主人が四代目から五代目へと変わり、そのことは幸の夫が変わることを意味します。
そうした中にも幸の考えを五代目徳兵衛の惣次が実行し、商いの上での戦国武将になるという幸の思いが次第に現実のものになっていくのです。
商いの道に踏み出した幸の姿がそこにはありました。
しかしながら、女としての幸をみると決して幸せだとは言えず、四代目には泣かされ、その弟の惣次もまた結局は自分についてくればいいという夫だったのです。
その上、商売上でも幸を超えようとする惣次、つまり五代目徳兵衛は本巻の終わりには大きな問題を抱え込むことになってしまいます。
そしてそのことはまたまた幸の身の上にも大きな変化をもたらすことになるのです。
商売人として大きく成長しようとする幸、そのことと幸の女としての幸せとは相いれないのでしょうか。
幸の波乱に満ちた人生を描いてありますが、高田郁の筆は決して暗くはありません。もちろんコミカルというのではありませんが、この人の書く小説の主人公は常に未来を見つめています。
厳しい人生のなかにも一定の目的、生きがいを見つけ、そのことに邁進する主人公の姿は感動的です。人気があるのもよくわかる作家さんです。