砂原 浩太朗

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霜月記』とは

 

本書『霜月記』は、2023年7月に講談社から284頁のハードカバーで刊行された長編の時代小説です。

「神山藩シリーズ」の三作目であって、親子三代にわたって町奉行職を継ぐ親子の物語ですが、砂原浩太朗のこれまでの作品の中ではストーリーの面白さには欠ける部分があるかと思います。

 

霜月記』の簡単なあらすじ

 

18歳の草壁総次郎は、何の前触れもなく致仕して失踪した父・藤右衛門に代わり、町奉行となる。名判官と謳われた祖父・左太夫は、毎日暇を持て余す隠居後の屈託を抱えつつ、若さにあふれた総次郎を眩しく思って過ごしている。ある日、遊里・柳町で殺人が起こる。総次郎は遺体のそばに、父のものと似た根付が落ちているのを見つけ、また、遺体の傷跡の太刀筋が草壁家が代々通う道場の流派のものではないかと疑いを持つ。さまざまな曲折を経て、総次郎と左太夫はともにこの殺人を追うことになるが、果たして事件の真相と藤右衛門失踪の理由とは。(「BOOK」データベースより)

 

霜月記』の感想

 

本書『霜月記』は、『高瀬庄左衛門御留書』『黛家の兄弟』に続く、砂原浩太朗の「神山藩シリーズ」の第三弾目となる作品です。

あいかわらずにこの人の文章はとても読みやすく、心に迫るものがあります。

場面ごとの背景描写が非常に落ち着いた筆の運びと結びついて物語の印象を優しいものとし、人物の心象を表現するための情景描写ともあいまって落ち着いた読書ができるのです。

そうした静謐な文章は、藤沢周平や近年で言えばを葉室麟などの文章を思い出させるものでもあるのですが、何よりも自分を律し生きていくことを常とする侍の生き方そのものに結びついているような気がします。

そのような文章が、時おり挟まれる箴言めいた言葉と相まって心に残るものとなっているのでしょう。

 

本書『霜月記』は神山藩にあって代々家職の家老職を継いできた草壁家の物語であり、なかでも十年ほど前まで長きに渡って町奉行をつとめた佐太夫とその孫の総次郎を中心とした物語になっています。

具体的には、項が変わるごとに佐太夫と総次郎との二人の視点が変化していくなかで、総次郎の父草壁藤右衛門が、周りが知らないうちに隠居届を出し失踪した事実が明らかになっていきます。

何もわからないなかで町奉行職を継いだ総次郎は、名奉行と謳われた祖父佐太夫もあまり相談相手にならないままに慣れない奉行職を継いでいくのです。

そんななか起きた一件の殺人事件が失踪した父藤右衛門への疑惑を呼び、さらに父の失踪の理由などの謎が提示されます。

こうして、総次郎と佐太夫という現職と元職の町奉行が互いに力を合わせて父の、そして息子の失踪の謎と、神山藩の派閥の争いに巻き込まれていくのです。

 

ただ、本書は親子三代にわたって町奉行職を継ぐ親子の物語であり、「神山藩シリーズ」の三作目となる作品ですが、砂原浩太朗のこれまでの作品の中では書き込みが少し足りなく感じられ、またストーリーがこじんまりとした印象です。

例えば、主人公の総次郎は若干十八歳にして町奉行職を継ぐことになりますが、その町奉行という職務に就いた総次郎の戸惑いが今一つ伝わってきません。

いや、唐突に裁きの場で判断を下さなければならない総次郎の様子を描写してはあります。しかしながら、その苦労が今一つ分かりにくく感じたのです。

 

同じことは、総次郎の幼馴染の日野武四郎についても言え、よく分からない性格のまま、総次郎を随所で助け、総次郎の力になります。

この物語の中で結構重要な位置を占めているにもかかわらず、結局はあまりその人となりが分からないままに終わった感じです。

 

これらの登場人物の曖昧なあり方のまま、物語は冒頭に起きた殺人事件の影に隠された真実を探るための総次郎や佐太夫の姿が描かれていきます。

ただ、どうしてもこれまでの他の二作に比べ、その謎が小ぶりです。

作者砂原浩太朗の紡ぎ出す物語として、大きなテーマであるあるべき親子の姿を描く作者の文章の美しさ、巧みさ、情景描写のうまさなど、長所はいくらでもあげることはできます。

しかしながら、どうしても作品全体の印象が小ぶりに感じてしまったのですが、本書に対する多くの感想は賛辞であり、私のような印象はあまりないようです。

私も本書を読むことを勧めることはあっても否定するものではありません。十分な面白さを持っている作品であることに反対するものではないのです。

それどころか、是非読んでみることをお勧めします。

[投稿日]2023年09月28日  [最終更新日]2024年11月27日

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