『警察庁から来た男』とは
本書『警察庁から来た男』は『北海道警察シリーズ』の第二弾で、2006年12月に新刊書が刊行され、2008年5月に文庫化された作品で、文庫本は細谷正充氏の解説まで入れて346頁の長編の警察小説です。
前巻の『笑う警官(「うたう警官」改題)』でメスが入った筈の北海道警察に再び疑惑が生じ、警察庁から職員が派遣されてくるとことになり、再び佐伯や津久井たちが活躍することになる、面白さは保証付ののサスペンス感満載の作品です。
『警察庁から来た男』の簡単なあらすじ
北海道警察本部に警察庁から特別監察が入った。監察官は警察庁のキャリアである藤川警視正。藤川は、半年前、道警の裏金問題の為に百条委員会でうたった(証言した)津久井刑事に監察の協力を要請した。一方、札幌大通署の佐伯刑事は、ホテルでの部屋荒らしの捜査を進めていた。被害者は、すすき野の風俗営業店で死んだ男の父親だった。大通署に再捜査の依頼の為、そのホテルに泊まっていたのだという。佐伯は、部下の新宮と事故現場に向かうのだが…。『笑う警官』に続く道警シリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)
札幌の繁華街である薄野の派出所に、ボランティアで女性の駆け込み寺を運営している酒巻純子と共にタイ人の十六歳の娘が暴力団の手から逃がれて逃げ込んできた。
タイ人の娘は酒巻が電話をかけている間に迎えに来た車に乗せられたが、その車は暴力団員の男が運転をしていたのだ。
同じ年の冬、薄野のキャッチバーの客が転落死するという事件がおきた。
薄野特別捜査隊の河野春彦巡査部長が駆けつけたものの、事件性の調査をする前に別の警官の不手際のために事故として処理するしかなくなってしまっていた。
翌年、北海道警察本部に警察庁長官官房監察官室の藤川春也警視正と種田主査という二人がやってきた。
『警察庁から来た男』の感想
久しぶりに佐々木譲の『道警シリーズ』を読んだのだけれど、やはりこの人の警察ものは面白いと再認識させられた作品でした。
シリーズ第二巻の本書では、シリーズ第一巻の『笑う警官』で北海道警察の膿をすべて切除しあるべき警察の姿をとり戻したはずだったのですが、どうもそうではない気配があるとして監察が動くこととなったのです。
本書の構造は、大きく二つの流れがあります。
まず、北海道警察の正面から乗り込んですべての情報を洗い直し調査をする警察庁から派遣されてきた監察官が、前巻での主人公の一人である津久井巡査部長の力を借りて捜査するという話です。
もう一つが、薄野のキャッチバーで昨秋に起きた酔客の落下死亡事故の裏を暴くもう一人の主人公である佐伯らの捜査の様子です。
二組の捜査が次第に接近していく様子が描かれているときの緊張感は心地よく、道警の腐敗の残滓を暴いていく過程は十分な読み応えのあるものでした。
本書の登場人物は、シリーズ第一弾の『笑う警官(「うたう警官」改題)』に登場した津久井巡査部長や、佐伯宏一警部補を始め佐伯と組んでいる新宮昌樹巡査部長、小島百合巡査といった津久井を救い出すために力を貸してくれた仲間も登場しています。
そして、本書のキーマンである警察庁長官官房監察官室所属の監察官である藤川春也警視正と種田主査がいます。
佐伯警部補は部下である新宮巡査部長とともに、前巻での報復人事をうけることなく現在も大通署刑事第一課盗犯係にいますが、大きな事件は担当させてもらえず、大手柄をあげることのできるような大きな事件は担当させてはもらえません。
津久井はいわゆる懲罰人事のために警察学校で雑用係を命じられている毎日ですが、藤川監察官が北海道警察の闇を暴こうとした津久井ならば役に立ってくれると手伝いを頼むことになります。
本書は警察小説の雄である佐々木譲らしいリアリティーに満ちた、そしてストーリーの面白さが光った作品です。
シリーズ第二巻の本書は、第一巻の『笑う警官』で北海道警察の膿をすべて切除し、真っ白なあるべき警察としての姿をとし戻したはずだったのですが、どうもそうではない気配があるとして監察が動くこととなったのです。
そこに佐伯と津久井がかつて従事し、失敗した潜入捜査に隠された謎まで絡んで佐伯らの活躍が読めるのですからたまりません。
佐々木譲には『廃墟に乞う』という北海道を舞台にした第142回直木賞を受賞した作品がありますが、他にも北海道を舞台とした作品が少なからずあります。
佐々木譲の故郷が北海道であり、北海道という土地に愛着があるのでしょう。
この『廃墟に乞う』という作品は、まさにハードボイルドであり私の最も好きな小説の中の一冊でもあるのですが、『道警シリーズ』にも『廃墟に乞う』の匂いを感じるのですが、私だけの印象だと思われます。
作者が同じなので当然と言えば当然でしょうが、北海道警察の闇に立ち向かう佐伯と津久井という二人の警察官に、『廃墟に乞う』の主人公の仙道孝司という腕利き刑事の影を見てしまうのです。
いずれにしろ、本シリーズはまだまだ続きます。
続編を読むのが楽しみです。