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船戸 与一 雑感

ロバート・ラドラムやクィネルといった骨太の冒険・アクション小説を読んでいた私は、日本の冒険小説といわれる分野のものは、作家が日本人というだけでスケール感においてかなう筈もないものと、食わず嫌いをしていました。

ところがこの船戸与一という作家の「山猫の夏」という作品に出会い、それまでの私の狭量な先入観は吹き飛ばされました。物語の舞台は世界であり、その舞台や背景についても豊富な情報量で読者を引き込むのです。世界の巨匠といわれる人たちの作品にも引けを取らないその物語は、本格的で重厚な作品を好む方にも十分こたえる作品だと思います。

その後、この作家は豊浦志朗名義でルポルタージュを発表しており、更にはあのゴルゴ13の原作者の一人でもある、ということを知り納得したものです。

それまでにも例えば「落合信彦」のように、世界を舞台に綿密な取材をもとに書かれた小説が無かったわけではありません。しかし、その小説としても面白さはこの人が群を抜いていると感じます。

その取材力を基に書かれた作品は濃厚です。軽く読める小説を探している方には向きません。しかし、読み応えのある小説をお探しの方には一番の作家です。

ただ一点心配なのは、私がこの作家の近年の作品を読んで無いことです。作風が若干変わったとも聞いたような気もしますが、この作家の基本は変わっていないでしょう。多分・・・・。

[投稿日] 2015年04月19日  [最終更新日] 2015年5月23日
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おすすめの小説

おすすめの冒険小説作家(国内編)

読み応えのある作品ばかりです。
福井 晴敏
スケール感の大きな作品を書かれる作家さんです。それでいて、ディテールまでこだわり、実に細かなところまで書き込まれた作品を多数著しておられます。「亡国のイージス」などの作品は映画化もされています。
月村 了衛
機龍警察」を始めとする機龍警察シリーズは、SF小説でもあり、ハードアクション小説でもある、重厚感にあふれた小説です。そして、どの作品も、テロルの背景や少年兵の問題など、訴えかける問題には大きなものがありながら、しかし、エンターテインメント小説としてしっかりと仕上がっているのです。
高村 薫
警視庁捜査一課・合田雄一郎警部補が登場する最初の作品が「マークスの山」で直木賞を受賞しています。重厚と言っても間違いではないと思われる、よく書き込まれた小説です。
大沢 在昌
種々のジャンルを書き分ける多作の作家ではありますが、エンターテインメント小説の書き手として抜群の面白さを持つ、職人的な作家さんの一人であることは間違いありません。中でも「新宿鮫」はシリーズ化され、4作目「無間人形」では直木賞を受賞していますし、9作目「狼花」、10作目「絆回廊」では日本冒険小説協会大賞を受賞しています。
藤原 伊織
船戸与一とは少々趣は異なりますが、格調高い文章と、軽快で歯切れのいい会話で構成される作品群は、とても心地良い読書時間をもたらしてくれます。「テロリストのパラソル」は、新宿中央公園で起きた爆発をきっかけに、主人公は自らの過去と向き合う。史上初の江戸川乱歩賞、直木賞の両賞受賞作品です。