建設コンサルタント・二宮の菩提寺で起きたトラブルに、ヤクザの桑原が喰いついた。鎌倉時代から続く伝統宗教の宝物「懐海聖人絵伝」。その絵柄を染め抜いたスカーフを作るために住職が振り出した約束手形を使い、ふたりは本山に返却されていない三巻一組の絵巻物を狙う。極道、美人画商、悪徳刑事が入り乱れ、渾沌とする争奪戦の行方は―。ミステリ史上最凶コンビ再び!直木賞受賞作『破門』へ続く、「疫病神」シリーズ!(「BOOK」データベースより)
ヤクザの桑原と建設コンサルタントの二宮とが活躍する「疫病神」シリーズの第四作目となる長編小説です。
就教寺住職の木場は、伝法宗本山から借りた宗派宝物の絵巻物『懐海聖人絵伝』三巻をもとにひと儲けを企むが果たせず、桑原の手元に二千万円の手形がまわって来た。
金になると目星をつけた桑原は、就教寺の檀家である二宮を引きいれてひと儲けを企むが、東京のヤクザも絡んでくる騒動になるのだった。
今回桑原が目をつけたのは、宗教界です。シリーズの他の作品も長めなのですが、本書も文庫本で746頁という長編です。しかし、その長さをほとんど感じさせないほどに引き込まれてしまいました。
これまでの作品と同様に、作品の根底には綿密な取材が為されています。だからこそ細かなところにも目が届いていて、舞台設定に破たんが無く、物語に奥行きが出てリアリティーが増すのでしょう。
本巻以前の作品の舞台背景を見てみると、一作目『疫病神』は産業廃棄物処理事業にまつわる利権、二作目『国境』では北朝鮮を舞台にした追跡劇、三作目『暗礁』は「宅配業者と警察の癒着に絡む裏金」です。そして本書の宗教界ということになるのです。
相変わらず、桑原と二宮とのやり取りはコミカルです。しかしながら、背景設定が丁寧に描写されているので、二人の掛け合いも生き生きとしながらも物語にきれいに溶け込んでいき、違和感を感じることもないのだと思われます。
今回は、二蝶会の若頭の嶋田という桑原の兄貴分に焦点が当たる場面があります。この嶋田の、敵対するヤクザとの駆け引きの場面が迫力満点です。
本書は極道の桑原を主人公の一人にしている点ではピカレスク小説の一面もあるのでしょうし、この桑原の魅力、迫力が本書シリーズが人気のある一因でもあるのでしょう。しかし、嶋田のような男がもう少し活躍する場面も読んでみたいと思いました。
東映映画で健さんや文太に、また尾崎士郎が描いた『人生劇場 残侠篇(上・下)』の飛車角に魅せられたように、「侠(おとこ)」の物語を見たい、読みたいとも思います。
なお、上記『螻蛄』の文庫本画像及び「Amazon」の書店リンク文字は「角川書店」にリンクしていますが、本書は「新潮社」からも文庫本が出ています。下の画像をクリックしてください。