黒川 博行

疫病神シリーズ

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本書『暗礁』は、『疫病神シリーズ』の第三弾の、文庫本で上下二巻、合わせて842頁にもなる長編のミステリー小説です。

今回の作品も、金の臭いに食らいついた桑原のために贈収賄事件に巻き込まれる二宮の姿を騒動が描かれる、読みごたえのある作品でした。
 

『暗礁』の簡単なあらすじ

 

疫病神・ヤクザの桑原保彦に頼まれ、賭け麻雀の代打ちを務めた建設コンサルタントの二宮啓之。利のよいアルバイトのつもりだったが、その真相は大手運送会社の利権が絡む接待麻雀。運送会社の巨額の裏金にシノギの匂いを嗅ぎつけた桑原に、三たび誑し込まれる契機となった―。ベストセラー『疫病神』『国境』に続く人気ハードボイルド巨編。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

警察組織と暴力団の利権の草刈場と化していた奈良東西急便。その社屋放火事件の容疑者に仕立て上げられた二宮に、捜査の手が伸びる。起死回生を狙う桑原は、裏金を管理する男を追って二宮とともに沖縄へ飛ぶが、二人を追い込む網はそこでも四方八方に張り巡らされていた―。超弩級のエンターテインメント大作。想定外の興奮と結末。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

本書『暗礁』は、二宮が桑原から頼まれた接待麻雀の代打ちから始まる。その面子は東西急便の本社営業一課長と大阪支社長、それに奈良県警交通部の現職幹部だった。

桑原から負け分は二蝶会が持ち、勝ち分は七:三で七が桑原がとるという話で六十万ほど設けたのだが、その後奈良県警から二人の刑事がその麻雀について話を聞きたいとやってきた。

桑原によると、新興の貨物運送会社はヤクザの標的になりやすいという。東西急便も二蝶会の本家筋が守っているという。数年前に東京の東西急便で起きた贈収賄事件は今でも記憶に新しいのだ。

奈良東西急便もトラックターミナルへのトラックの誘導に利便を図りたいと奈良県警交通部幹部の接待を東西急便の大坂支社長経由で接待麻雀を組んだということらしい。

その後、二宮は奈良東西急便奈良支店の放火事件の犯人に仕立てられたり、桑原と共に沖縄へと飛び、奈良東西急便がヤクザ対策費として貯め込んでいる数億円にもなるだろう裏金を手にすべく、奔走するのだった。

 

『暗礁』の感想

 

今回の二人が相手とする事件は、全国区の巨大運送会社の関西支店を舞台とした天下り警察官との癒着の構造です。

モデルは宅配便大手のS急便だと思われます。1990年代にS急便を舞台に現実に起きた大物政治家を巻き込んだ贈収賄事件がありました。本書はその一環の奈良の会社で起きた事件です。

ここらの事情については、ウィキペディアを見てください。

 

本書『暗礁』では、ヤクザと県警との間での利権争いの狭間を狙う桑原の活躍が描かれます。

よくもまあ、こんなストーリーを練り上げると思うほどに運送業界と暴力団、県警、そして政治家たちの思惑が絡み合った物語が構築されています。

そのストーリーの中心にあるのは金こそすべてという桑原の思惑であり、二宮は桑原に使われながらも彼の思惑の一端に食い込もうとせこく立ち回り、ドツボにはまっていくのです。

これが本シリーズでのパターンであり、本書『暗礁』もまた同様です。

桑原の「極道と警察は同じ人種や。向こうは菊の代紋を背負うてるだけによけい質が悪い。」などという言葉は彼の信念を端的に表しています。

その感覚で本書『暗礁』、更には本『疫病神シリーズ』が貫かれているのですからこの『疫病神シリーズ』が面白いのも納得するのです。

 

本書『暗礁』の魅力と言えば、シリーズとしての魅力の他に、桑原に狙いをつけられた金の所在、つまりは奈良東西急便に保管されているという数億円にも上る暴力団対策費を巡る攻防です。

その根底にはモデルとなった事件があるのですが、そのモデルとなった事件に関しては上記にも書いたようにウィキペディアを参照してください。

現実の事件はともかく、本書での裏金の処理に関しては奈良東西急便、大阪府警、奈良県警、そしてヤクザと皆が騙し合い、それぞれの組織とは別に桑原のように個人の思惑でこの裏金を狙ったり、裏金の周辺での余禄を狙ったりという思惑が入り乱れます。

そうしたストーリーを、現実の出来事とそう離れることもない(と思われる)物語として、破綻することなく組み立てるのですから黒川博行という作家の実力が推し量れます。

 

ヤクザの標的になりやすい新興の貨物運送会社として暴力団対策には金けるしかなく、奈良東西急便もまた本社から数億円の金を預かっていました。

桑原によれば、不特定多数を相手にしのぎをする企業はリスクマネージメントが難しいだけに弱い、のだそうです。

そのため、企業は極道から食われないように警察から天下りをとることになり、つまりはヤクザと警察の両方から食われ、そのあとに利権漁りの議員どもが杭に入るというのです。

 

このシリーズ全般に言えることですが、本書に登場する警察官も殆どはワルです。何とか表に出せない金を自分のふところに入れようと画策します。

その上、天下り先を確保し、警察官OBとしての力を保持すべく暗躍するのです。

こうした状況のもと、裏金の秘密を握る男を追って沖縄へも行き、現地の暴力団と諍いを起こす桑原です。

本書『暗礁』の終わりの場面での二宮の母親や嶋田がいるところでの二宮と桑原の会話など黒川作品の面白さが凝縮されています。

かなり長いこの物語ですが、その長さを感じさせないほどに面白い作品です。

[投稿日]2021年01月03日  [最終更新日]2021年1月3日
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第153回:黒川博行さんその3「デビュー後の読書&執筆」 (3/4)
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