ソウルケイジ

多摩川土手に放置された車両から、血塗れの左手首が発見された!近くの工務店のガレージが血の海になっており、手首は工務店の主人のものと判明。死体なき殺人事件として捜査が開始された。遺体はどこに?なぜ手首だけが残されていたのか?姫川玲子ら捜査一課の刑事たちが捜査を進める中、驚くべき事実が次々と浮かび上がる―。シリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)

 

『姫川玲子シリーズ』第二弾の長編推理小説です。

 

今回の作品は誉田哲也の作品にしては静かな作品でした。変な書き方ですが、警察小説としては王道の地道な捜査模様が文庫本で430頁を超えるボリュームで描かれています。

誉田哲也の作品としてはそれだけおとなしい物語だということです。強烈な暴力の場面も人体の解体場面も出てきません。ただひたすらに事件の解明へと向かう玲子らの姿が描かれています。

ただ一個所だけ手首を切り落とす場面がありますが、それもほかの作者の作品でも少々刺激的な場面としてありうる程度のものです。

 

そうしたバイオレンス場面の代わりに、玲子らの地道な捜査の過程が描かれているのです。

ただ、姫川玲子自身の捜査状況と、玲子がライバルと目している警視庁捜査一課日下班の班長である日下守警部補の捜査状況とを描くことで地道な捜査に変化をつけ、さらに、この二人の捜査方法を両立させることで物語に幅を持たせています。

その上で、玲子が苦手とし、何かと反目していると思っている日下との緊張関係を演出することで、事件の捜査に加え、この二人の関係性という観点を持ち込んで物語を興味深いものとしていると思えます。

 

そしてもう一点。何故か今回も玲子と組むことになった井岡博満との漫才のような掛け合いが非常にコミカルに描写され、それがなかなかに効いています。

何かと暗くなりがちな物語の進行ですが、そこに井岡という存在があり、井岡が場を読まない台詞を発することに対し、玲子が強烈な一発を返すことでその場面の空気感を一気に和ませてくれます。

この井岡に関しては、テレビドラマや映画で井岡役を演じた生瀬勝久という役者さんが演技も上手く、またあまりにもイメージがピタリと合っているので、読んでいていつも彼の顔が浮かんでいました。

そして、そのことが邪魔にならず、物語の世界に没入する手助けをしてくれるのです。

その他に、玲子と菊田との恋の駆け引きとまではいかない、恋心の芽生えのときのような会話の妙などもまた物語作家としての誉田哲也のうまさを感じさせてくれます。

 

本書でももちろんと言っていいものか、誉田哲也タッチともいうべき視点の転換が駆使されています。

三島耕介という青年の視点や、高岡賢一という男の視点が事件とどのように関わってくるものなのか、最後まで読者の関心を引き付けて離しません。

 

最後に、本書『ソウルケイジ』というタイトルの意味について、フリーランスライターのタカザワケンジという人物が「解説」において、スティングの「The Soul Cages」というアルバムについて書いておられます。

「父性」という言葉がそのカギになっていると書いておられるのですが、一度聞いてみたいものです。

ストロベリーナイト

溜め池近くの植え込みから、ビニールシートに包まれた男の惨殺死体が発見された。警視庁捜査一課の警部補・姫川玲子は、これが単独の殺人事件で終わらないことに気づく。捜査で浮上した謎の言葉「ストロベリーナイト」が意味するものは?クセ者揃いの刑事たちとともに悪戦苦闘の末、辿り着いたのは、あまりにも衝撃的な事実だった。人気シリーズ、待望の文庫化始動。(「BOOK」データベースより)

 

誉田哲也の人気シリーズ『姫川玲子シリーズ』の第一弾の長編推理小説です。

ジウサーガ』を全巻読み直し、更に『姫川玲子シリーズ』も再読しようと、ふたたび読み始めたところです。

 

 

物語のあらすじ自体は上記の『「BOOK」データベース』のとおりですが、本書の面白さは『姫川玲子シリーズ』の項で書いたように、第一にキャラクターの造形にあると思います。

そうしたキャラたちの軽妙な、それでいてポイントを押さえた会話があって、第二の面白さの理由である魅力的なストーリーが展開されるのです。

ただ、誉田哲也の作品ですからグロテスクな描写は避けては通れません。

本書も冒頭から糞尿絡みの殺人の場面が展開されます。その後に姫川玲子が登場します。

 

監察医の國奥と死体を焼く話をしながら食事をしているところに今泉十係長警部から殺人事件の電話がかかります。

葛飾区はずれの水元公園近くの現場に行き、地取り捜査のための割り当てをすると何故かそこには会えば姫川玲子を口説きにかかる井岡巡査長刑事がいて、この男と組むことになるのでした。

捜査が続く中再度殺人事件の現場へとやってきた玲子は、死体がこの場所に遺棄された理由や死体腹部の切創の理由が分かったと言い始め、事件は連続殺人へと移行します。

 

玲子は高校生の頃レイプにあった過去を持ち、そのトラウマに今でも苦しんでいます。その事件で立ち直るきっかけになったのが佐田という婦警さんの存在でした。

その婦警さんが殉職した際の殺害犯人の裁判で高校生の玲子が陳述する場面は本書での一つの山場でもあります。そして、玲子が警察官になったのもこの佐田婦警がいたからでした。

その後の玲子は若くして警部補試験に通り、今泉の引きもあって捜査一課十係の姫川班班長として四人の部下を持つまでになったのです。

 

姫川の暴走に近い捜査は華々しい結果をもたらしてくれますが、反面さまざまな軋轢も生みます。そうした手法を激しく非難するのがガンテツこと勝俣健作警部補でした。

「一課内公安」とも呼ばれるガンテツですが、ガンテツなりに玲子の手腕を認めてもいます。しかし、裏付けのない感覚に頼る捜査の危うさを気にかけていたのです。

 

そうした玲子の視点で描かれる捜査とは別に第三章までの冒頭に、後にエフと呼ばれることになる人物の視点での話が挿入されています。この人物が後に玲子の捜査と交錯してくるのです。

物語は浮かび上がってきた「ストロベリーナイト」という言葉を中心に、途中では大きな悲劇などを挟み、進んでいきます。

物語の進行の過程では再びグロテスクな場面などが挟まれ、エンディングへとなだれ込むのですが、まさにエンターテインメント小説としての面白さが詰め込まれた小説と言えると思います。

 

玲子の活躍とガンテツの策動などによって次第に明らかになる「ストロベリーナイト」という言葉の持つ意味、そのおぞましさなど、エンターテイメント小説としてのエッセンスが詰まった物語になっています。

特異な位置を占める警察小説としてこれからも続いていくことを願います。

 

ちなみに本シリーズは竹内結子を主演とし、菊田和男役西島秀俊、ガンテツ役として武田鉄矢などの豪華な配役でテレビドラマ化及び映画化もされており、共に好評を博しています。

本書を原作としてのテレビドラマ化としては2010年11月13日に『土曜プレミアム』特別企画として放映された『ストロベリーナイト』があり、その後姫川玲子シリーズの他の作品を原作としてドラマ化されています。

その後に同じく竹内結子主演で『ストロベリーナイト』というタイトルでの映画化がされていますが、その内容は『インビジブルレイン』を原作として作成されている作品です。

 

 

その後、2019年4月から二階堂ふみと亀梨和也とのW主演で再び『ストロベリーナイト・サーガ』というタイトルでテレビドラマ化されましたが、以前の竹内結子、西島秀俊のイメージが強く、なかなか視聴率には結び付きにくかったという話を聞きました。

 

ハング

警視庁捜査一課の堀田班は、宝飾店オーナー殺人事件の容疑者を自供により逮捕。だが公判では自白強要があったと証言され、翌日、班の刑事の一人が首を吊った姿で見つかる。そしてさらなる死の連鎖が…。刑事たちは巨大な闇から仲間を、愛する人を守ることができるのか。誉田作品史上もっともハードな警察小説。(「BOOK」データベースより)

 

本書はジウサーガの冒頭を飾る「ジウ三部作」および『国境事変』に続く第五巻目となる長編の警察小説です。

そして本書『ハング』に続いて『歌舞伎町セブンシリーズ』へと入っていくことになりますが、『国境事変』と本書『ハング』はジウサーガの中でもスピンオフ的な位置を占めるといえるでしょう。

 

特捜一係の「堀田班」がやっととることができた休暇の一日、薄曇りの中海で過ごす仲間の姿が描かれる「序章」からこの物語は始まります。

警察小説の書き出しにしては非常に珍しい幕開けですが、そこは本書の展開が暗く切ない展開になることの暗示というべき明るさです。青春小説を書かせても第一人者である作者の腕の見せ所でもあります。

その後、第一章の始まりでは、総理すらもその手の中で転がすことが可能な政界の大物の会話の場面へと移り、彼らの手の中で翻弄されるであろう現場の刑事たちの行く末が示されます。

警視庁刑事部捜査第一課の遊軍である第五強行犯捜査特別捜査第一係「堀田班」は、堀田次郎警部補を主任とし、植草利巳、津原英太、小沢駿介、大河内守という四人の巡査部長から構成されています。

この堀田班に迷宮入りした殺人事件の再捜査が命じられます。犯人と目される男の自供を得たものの、突然、堀田班のメンバーに異動の辞令が出、仲間はバラバラになるのでした。

 

本書の主人公といえば津原英太ということになると思います。

じつは、この人物は本書『ハング』に続く『歌舞伎町セブン』に正体不明の殺し屋ジロウとして再び登場してきます。このジロウの得意技として本書の殺し屋馳卓が使う吊るしの技を引き継いでいるのです。

最初に本書を読み終えた時点ではこの津原英太がジロウになったのだとは全くわかりませんでした。この津原英太、そして伊崎基子がそれぞれにジロウとミサキとして「歌舞伎町セブン」のメンバーとして復活することは『歌舞伎町セブン』の当初から決めていたという作者の言葉がありました(ダ・ヴィンチニュース : 参照)。

この事実が明確になったのは、『歌舞伎町セブン』に続く『歌舞伎町ダムド』においてです。ジウにあこがれる殺し屋の「ダムド」に絡む物語ですが、その中でジロウとミサキの背景が明らかにされています。

 

本書『ハング』に戻りますが、命じられた再捜査の過程において、堀田班のメンバー個々人の警察官としての未来は絶たれ、命すらも奪われてしまうに至ります。

生き残った者には怒りしか残されてはおらず、その矛先はこの事件を仕掛けた真の人間に対し向けられます。

 

直接的には顔を焼かれた男、すなわち殺し屋の馳を直接の犯人として追い、その上で馳の背後にいる真の敵に対して戦いを挑む一人の男の姿が描かれていくことになるのですが、そこにあるのは切なさです。

本書冒頭の底抜けの明るさからの落差が、いま生き残った男の悲痛な状況を際立たせ、そこに班長だった堀田のあたたかさが迫ります。

「ジウ三部作」から「歌舞伎町セブン」の物語への橋渡し的なこの物語ですが、その暗さにもかかわらず、『歌舞伎町セブン』から始まる新たな物語の序章として実に読み応えのある作品として仕上がっています。

 

今回、あらためて「ジウ三部作」からジウサーガを読み直してみて、当初は感じなかった大きな物語の流れの中に位置づけられるそれぞれの話、という印象を抱きました。

まだ再読の途中ではありますが、個々の小説が持つ意味が少し変化し、物語の世界が大きく広がっていることに気が付き、物語の舞台背景などが大きく意味を持ってきたりと変化しているのです。

読み手の意識次第で物語から受ける印象もかくも変わるものだと、印象付けられる体験でもありました。やはり誉田哲也の小説は面白い。

国境事変

新宿で在日朝鮮人が殺害された。“G4”の存在を隠匿しようとする公安は独自捜査を開始するが、捜査一課の東警部補は不審な人脈を探り始める。刑事と公安、決して交わるはずのない男達は激しくぶつかりながらも、国家と人命の危機を察し、銃声轟く国境の島・対馬へと向かう―警察官の矜持と信念を描く、渾身の長篇小説。(「BOOK」データベースより)

 

本書は「ジウ三部作」に続く、ジウサーガの第四巻目に位置づけられる長編の警察小説です。

 

新宿封鎖事件から二年後、新宿で通名を若松吉男、本名を呉吉男(オ ギルナム)という朝鮮籍の在日三世が殺された。

東警部補らは呉吉男の実弟である呉英男に事情を聞き、何となくの不審さを拭えずにいたところ、英男の身辺に不審な男の影を見つける。

一方、呉吉男および彼が代表取締役である東侑エンタープライズ貿易会社を監視下に置いていた警視庁公安部外事二課の川尻冬吾巡査部長らも呉吉男の死に衝撃を受けていた。

 

本作はメインの主人公こそ「ジウ三部作」で活躍した東弘樹警部補ですが、誉田哲也のお決まりの複数視点のもう一つの主として警視庁公安部外事二課四係の「アントン」というあだ名で呼ばれている川尻冬吾という三十五歳の公安警察員がいます。

そして、この川尻の存在こそが、北朝鮮という国を前にした日本という国のありようを見据えている本書の性格、つまり在日朝鮮人の苦悩や彼らに対する公安警察のかかわりを示しています。そしてまた国境の町である対馬の現状なども描かれているのです。

 

具体的には、本書では川尻冬吾らいわゆる“ソト二”と呼ばれる警視庁公安部外事二課所属の公安警察員による北朝鮮絡みの監視作業の一環としての協力者獲得の様子がそのままに描かれています。

実は最初にこの作品を読んだときはこの公安警察による協力者獲得作業の様子については何も思わず、ただそういうものかと読み流していただけでした。

しかしその後、 濱嘉之の『警視庁情報官シリーズ』や 竹内明の『背乗り ハイノリ ソトニ 警視庁公安部外事二課』、それに 麻生幾ZERO』などの公安警察を描いた作品群を読み、公安警察の実情などを知るにつれ、その作業実態に目が行くようになったものです。まさか誉田哲也の作品の中に公安警察の具体的な描写があろうとは思ってもみませんでした。

 

 

対象事案に対する知識の無さが読書の内容にも影響を与えるものだと改めて認識した次第です。

 

ただ、だからといって本書の内容についての評価は別の話です。

公安警察の状況についてはよく調べられており、北朝鮮との間の問題意識や、在日朝鮮人と言われる人々の苦労もよく調べられていると思います。

そこらは文庫版の巻末にも挙げてある三十冊を超える参考文献を見るだけでもよくわかります。

しかし、この物語のクライマックスで明かされる謎、呉英男の抱える荷物の秘密は現実味に欠けていて少々受け入れ難いものでした。また、その後に更にかぶせてくる意外な仕掛けもまた少しではありますが、首をひねってしまいました。

ちょっと、構想を膨らませすぎのように感じてしまったのです。私らの未知の事柄ではあるにしても、それなりのリアリティーをもって構築されてきた小説の謎としてはやはり安易かもしれません。

 

とはいえ、以上のことは本書を読んでいる途中では頭をかすめた程度のことでした。誉田哲也という作家の力技に引きずられ、読了後に改めて考えたときに上記のように思ったにすぎません。

それどころか、呉英男の抱える苦悩や呉英男を追う東警部補の警察官としての矜持それに、津島には遺贈されている自衛官の川口と気寺である桑島との会話など、興を惹かれる点は山積していました。

目の前で、誰かが殺されそうになったら、その時は助けろよ。手ぇ出し足出して、命懸けて守れよ。それが警察官ってものだ。

東警部補が川尻に向かって言った言葉です。こうした使い方によっては“クサい”とも言われかねない言葉の積み重ねが東警部補という人物を形作ってきており、読者が感情移入しやすくなっているのでしょう。

似たようなことは対馬の桑島警部補や陸上自衛隊「対馬警備隊」の川口隊長らの言葉にもあります。

この対馬での発砲は東京や大阪の繁華街での一発とは、まるで意味が違います。・・・事変です。これはれっきとした、国境事変なのです。

などという台詞は、心に迫ります。

 

会話も含めた文章のテンポや、スピーディーな物語展開といったエンタテイメント小説としてのポイントが抑えられている証なのでしょう。物語としては面白いの一点でした。読了後に改めて考えたときに難点が目についたといった方が正確かもしれません。

ジウ(3)新世界秩序【NWO】

新宿東口で街頭演説中の総理大臣を標的としたテロが発生。大混乱の中、伊崎基子らSAT隊員が総理の身柄を確保し、警察上層部は安堵する。だがそれは、さらなる悪夢の始まりに過ぎなかった。“新世界秩序”を唱えるミヤジと象徴の如く佇むジウ。彼らの狙いは何なのか?そして美咲と基子は―!?シリーズ完結篇。(「BOOK」データベースより)

 

前作の最後、城西信用金庫西大井支店への立て籠もり事件の現場の映像の中でジウの姿を見かけ、駆けつけた東警部補らの目の前で西大井支店は爆破され、特殊班一係長羽野警部は炎の中に消えてしまいます。

SATはこの事件で受けた被害の補充のため、伊崎基子巡査部長を新たな隊員で構成されるSAT制圧一班の新班長に抜擢するのです。

一方、前巻での新宿でジウを探す伊崎基子に対する目撃証言や美咲への匿名の手紙などから伊崎への疑惑が膨らむ中、東警部補らは警察上層部への疑いを抱くに至ります。

ところが、そうした事柄を一掃してしまう大事件、すなわち、新宿が封鎖され、近くで演説をしていた総理大臣が拉致されるという事件が発生します。

そして伊崎基子を心配する美咲は、SAT第一小隊隊長の小野警部補と共に新宿へと潜入するのでした。

 

本巻に至っては、新宿封鎖という荒唐無稽という言葉のさらにその上を行くような事態が起きてしまいます。“新世界秩序”という正体不明の団体が傍若無人の限りを尽くし、新宿の街は一瞬にして暴徒の町へと化してしまうのです。

ここまで行くと、現実とのあまりの乖離に物語も破綻を来しそうなものですが、誉田哲也という作家はそうした事態をも見事にまとめ上げてしまいます。

 

確かに、新宿封鎖という大事件ですから、ミヤジを中心とする一団が以前から計画を練っており、決して一夜にして決行したわけではないことは分かります。

また、封鎖された新宿の街への単純な突入作戦が不可能であることなども物語の中で説明されており、新宿封鎖がそれなりに効いていることもわかります。

それでもなお、やはり新宿の封鎖という事件は簡単には受け入れることはできない事件です。

 

ところが、物語を読み進めるうちは少々難ありと思いながらも、そのテンポの良さに引っ張られ、次々に展開するストーリーに引き込まれてしまうのです。

勿論、それはこうした物語が好きだという私の好みによるものでしょうが、やはり誉田哲也という作家の物語の構成力をも含めた意味での文章力によるところが大きいのだと思います。

 

本三部作を読み終えてみると、最終的にはジウの正体は判明はするものの、それまでこの物語を引っ張ってきた謎としてはあっけなく感じます。

また、一方のヒロインの伊崎基子のその時ごとの立ち位置についても、彼女の行動からすると少々軽く、また簡単に過ぎるような印象もあるにはあります。

しかし、それでもなお、こうした荒唐無稽な割に、その世界観の中ではきちんと構成され、各種疑問に対する一応の答えが準備してある作品は好感が持てるし、本作品はその期待に十分に応えうる世界観を持った作品だと思うのです。

ジウ(2)―警視庁特殊急襲部隊【SAT】

連続児童誘拐事件の黒幕・ジウを威信にかけて追う警視庁。実行犯の取り調べを続ける東警部補と門倉巡査は、“新世界秩序”という巨大な闇の存在に気づき、更なる事件の予兆に戦慄する。一方、特進を果たした伊崎巡査部長は特殊急襲部隊を離れ、所轄に異動したが、そこにも不気味な影が迫っていた。(「BOOK」データベースより)

 

前巻の終わりに起きた警視庁赤坂署管内で発生した誘拐事件、通称「紗也華ちゃん事件」は即日人質を保護するという結末を見ます。

その後、伊崎基子は昇進に伴い異動した先で現場を外され、フリーライターの木原毅と共に個人でジウを探し始めます。その過程で、ジウの背後にいたミヤジと名乗る男と出会いますが、雨宮もミヤジらの仲間だったことを告げられ、その仲間になってしまうのです。

他方、東と美咲は「紗也華ちゃん事件」の犯人の一人である竹内を尋問する中で、「新世界秩序」というキーワードを示されます。

そうした中、西大井駅前の城西信用金庫に立て籠もり事犯が発生し、最後に悲劇的な結末を迎えることになるのでした。

 

本書では正体不明の少年の奇妙としか言いようのない日常の描写の場面から物語が始まります。

彼らの生活は「一日の大半は裸で交わっているだけ」だというし、漁師たちにヒロポン、今でいう覚醒剤を売って生活の糧にしていました。勿論皆覚醒剤の中毒にかかっていたのです。

 

こうした、まさに誉田哲也という作家の一つの特徴であるエロとグロとが前面に出た場面が章が変わるごとに展開されます。

そして、この雰囲気はこの巻全体を覆う色合いとなり、この物語の本当の主役かもしれないジウという男の実像も次第に明らかになっていくのです。

とはいっても、「新世界秩序」という言葉の中心にいる“ミヤジ”という男が描かれる中で、ジウの姿も“ミヤジ”の影のような存在として浮かび上がってくるだけではあります。

そして、全く予想外の展開を見せる第三巻へとなだれ込んでいくのです。

 

そうした中、宮地がジウという少年に対する思いを吐露する場面があります。

「他者との係わりに興味を示さず、ごく最低限の空腹を満たす行動のみで生き長らえている。ああ、こんな世界観もあるのかと、目から鱗が落ちる思いだった。・・・私が見ていた世界は、光と闇、白黒の世界だった。」

このあと、宮地の「お前は自由だな。」という言葉に「ジウ・・・?」と反応する少年がいました。

“ジウ”という名前のもととなった言葉の持つ意味が明らかにされているのですが、その意味が分かりません。

「自由」という言葉から、片言ながらに聞き取って発した「ジウ」という言葉、これは、単に三部作のタイトルにもなった「ジウ」という言葉の由来を示したに過ぎないのか、それとも“新世界秩序”に連なる何らかの意味をも持たせているのか。

もし意味があるとして、それはどういうことなのか、わかりませんでした。

 

再読している今だから思うのですが、本ジウ三部作も、最初に読んだときは派手な展開を見せる、普通の警察小説とは異なったアクション小説くらいの認識しかありませんでした。

しかしながら、物語がずっと先まで進み、以降の展開を知ったのちに再読している今回は、この物語が全く異なった様相を見せる物語となっています。

作者が当初から「歌舞伎町セブン」に連なる展開を考えていたかどうかはわかりませんが、多分違うのではないでしょうか。それほどに、ジウ三部作とほかの作品との色合いが異なるのです。

 

誉田哲也という作家は、作品を時系列にまとめ、年表ともいえる資料を作成し、常にほかの作品との兼ね合いも捉えている意味の文章を読んだことがあります。

そうした資料を基に、既存の物語に描かれた事柄を伏線として新たな物語を構築しなおしたと考える方が筋が通ります。

そんな中で基子がふたたび登場し、ジロウという新たなキャラクターも生まれ、「ジウ三部作」に連なる物語として「新世界秩序」もいまだ生き延びている、そうした壮大な物語世界を再構築したと思うのです。

その観点で見ると、「ジウ三部作」も、それにこの後に続く『国境事変』や『ハング』といった物語も新たな意味を持ってくると思われます。

いずれにしろ、この物語の持つ面白さは私の好みにピタリとはまるものであり、今後のさらなる展開を期待したいものです。

ジウ(1)―警視庁特殊犯捜査係【SIT】

都内の住宅地で人質篭城事件が発生した。所轄署や機動隊とともに警視庁捜査一課特殊犯捜査係が出動し、門倉美咲巡査は差し入れ役として犯人のもとへ向かうが―!?篭城事件と未解決の児童誘拐事件を結ぶ少年、その背後で蠢動する巨大な事件とは?ハイスピード、未會有のスケールで描く新・警察小説。(「BOOK」データベースより)

 

先にはジウサーガと位置付けられることになる、ジウ三部作の第一作目の長編警察小説です。

 

「利憲くん誘拐事件」も決着を見ないままに、荻窪署管内で立て籠もり事案が発生した。門倉美咲は食事の差し入れをのために犯人の立て籠もる屋内へと入りさらなる人質となりますが、犯人逮捕の際に、下着姿とならされた姿をマスコミに撮られてしまいます。

ところが、この事件の犯人である岡村は未解決の「利憲くん誘拐事件」にも関与している疑いが浮上し、その岡村への訊問の中でジウという名前が浮かび上がってくるのでした。

 

本書の主人公は、カンヌと呼ばれる愛称からもわかる優しさを持った門倉美咲巡査と、幼い頃からレスリング・柔道・剣道を学び、実践的な格闘術に優れた孤高の一匹狼である伊崎基子巡査部長の二人です。

SITと称される警視庁特殊犯捜査係に所属するこの両極端な性格の二人を中心としてこの物語りは展開します。

 

他に重要な登場人物としては、東弘樹警部補やSATの雨宮崇史隊員らがいます。

マスコミの前に下着姿をさらした美咲は、碑文谷署生活安全課少年係へと異動になり、そこにいた東警部補と組んで連続児童誘拐事件の犯人と目される“ジウ”を追うことになります。

また、伊崎基子巡査部長は異動先のSATで雨宮という隊員と知り合い、さらに「紗也華ちゃん事件」の現場で美咲と邂逅することになりますが、そこでは雨宮をめぐる悲劇的な出来事が起きてしまうのでした。

 

本シリーズは推理小説とは少々呼びにくい気がします。発生した児童誘拐事件の犯人を追う刑事らの動向が描かれたり、事件の裏に隠された謎を追及することなど、形としては推理小説と言えるのかもしれません。

しかし、謎の追及は二番手であり、まずはストーリーの展開それ自体が主役だと思われます。

つまりは、このシリーズはエンタテイメント小説として、様々な要素が組み込まれていて、さまざまな楽しみ方ができる物語になっているのです。

 

当初に述べたように、この物語は連続して起きる児童誘拐事件を追う警察の姿が描かれていて、第一義には警察小説であることに間違いはありません。

ただ、その中で門倉美咲と井崎基子という二人の女性の描き方の違いがあり、この両極端な女性あり方だけを見ていくと、この作者の底抜けに明るい青春小説の『武士道シリーズ』という作品に出てくる攻撃的な磯山香織と温厚な西荻早苗という二人の女性が思い起こさせ、遠くに青春小説の香りを漂わせています。

 

 

次に、伊崎基子という女性だけを見ていくとSATでの訓練の様子などは格闘小説のようでもあります。

そして、シリーズが二巻三巻と続いていく中では、エロスとバイオレンス以外の何物でもないいかにも誉田哲也らしい描写があり、その先には単なる警察小説の枠を超えたアクション満載の冒険小説としての流れが待っているのです。

つまりは、このシリーズは誉田哲也の作品世界を構成するあらゆる要素が詰まっていると思われ、さまざまな読み方ができると思われ、エンタテイメント小説としてのどこまでも楽しむことができる作品として仕上がっているのです。

ジウサーガ

最初の三作は「ジウシリーズ」としての新宿事件になだれ込む、一連の事件を扱った物語です。

次の『国境事変』は、「ジウシリーズ」で中心的な役割を担った東警部補の物語で、公安警察とのかかわりを描いたシリアスな作品です。

ハング』は、『歌舞伎町セブン』の重要メンバーである“ジロウ”にまつわる話で、かなり重く、暗い話となっています。

つまり『国境事変』と『ハング』とは、ジウサーガの中のスピンオフ的な作品として位置づけられ、『歌舞伎町セブン』から始まる、現代の「仕事人」の物語である『歌舞伎町セブンシリーズ』への橋渡し的な意味を持っています。

こうしてこれらの物語は単なる「ジウ三部作」に連なる物語としてではなく、それよりも大きな意味合いを持つものとして、長編の武勇伝とか冒険談などの意味を有する<サーガ>と言われるようになったと思われます。

 
ジウ三部作 登場人物

門倉美咲 (二巻)警視庁特殊班捜査係【SIT】 巡査 優しく穏やかで、犯人への交渉にも優しさを持ってあたる犯人と話す際に思わず涙してしまう事を名演技と称され、まるでカンヌ映画祭の女優のようだということから、他の隊員たちからカンヌと呼ばれる隊のマスコット的な存在。
     (三巻)碑文谷署生活安全課少年係巡査。27歳。連続児童誘拐事件の黒幕ジウを追う。
伊崎基子 (二巻)警視庁特殊班捜査係【SIT】 巡査部長 幼い頃からレスリング・柔道・剣道を学び、実践的な格闘術に優れた伊崎基子。その性格は沈着冷静で孤独、群れることを嫌い自分の高い戦闘能力に自信を持ち、犯人を逮捕すると言うよりも敵を倒すという感覚で行動する一匹狼。
     (三巻)女性初の特殊急襲部隊【SAT】隊員となるが、特進を果たし。現在、上野署交通捜査課巡査部長。二十五歳。独自にジウを追い、謎の男・宮地と接触する。

東 弘樹 捜査一課殺人犯捜査三係主任警部補。美咲と共にジウを追う。
麻井憲介 第一特殊班捜査(SIT)二係長。警部。美咲と基子の元上司。
西脇吾郎 刑事部部長。警視監。警備部長の太田とは対立関係。
太田信之 警視庁警備部部長。警視監。出世街道を突き進むキャリア。
松田浩司 警備部警備第一課課長。警視正。SATの積極的な実践投入を画策。
和田 徹 捜査一課課長。警視正。
小野茂夫 SAT第一小隊隊長。警部補。
橘 義博 SAT部隊長。警部。
雨宮崇史 SAT第一小隊隊員。
竹内亮一 「紗也華ちゃん事件」の実行犯グループの一人。元陸自レンジャー。

木原 毅 チンピラまがいのフリーライター。基子と共にジウを追う。
宇田川舞 「利憲くん事件」「紗也華ちゃん事件」の裏で発生した誘拐事件の被害者。

宮地忠雄 謎の男。ジウと共に行動している。
ジウ   正体不明。一連の児童誘拐犯事件の黒幕?

 

今回、ジウサーガを再度読み直しています。

当初「ジウ三部作」として、普通の警察小説とは異なった毛色を持つ物語として読み始めたシリーズでした。

ジウ三部作を読んでいるときは、まさか歌舞伎町シリーズのような話の展開になるとは想像もできず、毛色の変わった警察小説として軽く読んでいたのです。

その物語がさらには『姫川玲子シリーズ』とのコラボレーションを成功させるほどの物語として成長するとは露ほどにも思っていませんでした。

その後の『国境事変』も『ハング』も、東警部補や歌舞伎町セブンのメンバーのジロウの物語として位置づけられると知り、だからこそ、再度このシリーズを頭から読み直しているのですが、将来の展開を知りながらの読み直しは一段とその面白さを掻き立ててくれました。

 

歌舞伎町セブンシリーズ中の『歌舞伎町ダムド』という、ジウにあこがれを抱いた若者の物語にしても大きな物語の流れの中で読み返してみるとエンターテインメント小説としての更なる面白さを確認することができました。

その上での『姫川玲子シリーズ』との『硝子の太陽』という作品での表裏二作を駆使してのコラボレーションという試みはファンにとってはたまらないものでした。

その後、この二つのシリーズはそれぞれにまた進み始めています。今後またこの二つのシリーズの交錯が見られることになるのかもしれません。でも、毛色は異なる二つのシリーズですので、合体することまではないと思いますが、コラボはまた読みたいものです。

こうしてみると、『姫川玲子シリーズ』もまた当初から読み直してみようと思っています。

歌舞伎町ゲノム

他人の人生を踏みにじり、生き血を吸う毒虫ども。享楽と喧騒の中に垣間見えた奇妙な友情。愛すれば愛するほど、壊れていく男と女。歌舞伎町には、この街なりの秩序というものがある。法では裁けない非道、そして現代の卑しき心の病魔を始末する。それが、伝説の歌舞伎町セブン。(「BOOK」データベースより)

 


 

『歌舞伎町セブン』シリーズの前巻『ノワール-硝子の太陽』で仲間の上岡慎介というフリージャーナリストを失ってから二か月が経った歌舞伎町セブンを描く短編集です。

 

兼任御法度
帝都大学ラグビー部OBらが惹き起こした強姦事件がなぜか揉み消しにあっていた。たまたま事件現場から出てきた掃除屋のシンちゃんを巻き込んでセブンの動き始める。

揉み消されようとしている強姦事件は単純に世の悪を懲らしめるという単純な作品です。

凱旋御法度
エジプトに帰ることになったテルマの運転手のアイマンが水道道路で交通事故で死んだ。何故そんな場所にいたのか誰も知らない。またまたアイマンらしき男が車に押し込められるのを見ていたシンちゃんの情報をもとにセブンが活躍する。

誉田哲也らしいと言っていいものか、少々グロい描写のある暴力信奉者に殺された外人の恨みを晴らします。

売逃御法度
杏奈が門脇美也子から相談を受けた三上亮の殺害依頼。被害者の田嶋夏希の視点と、加害者三上亮の視点で語られ、最終的に待つのは意外な展開だった。

依頼人の隠された秘密という意外な結末が待っている作品です。

改竄御法度
掃除屋のシンちゃんのもとにひょんなことからICレコーダーが飛び込んできた。小遣い稼ぎだと騙されて連れていかれた陽奈が、コウキが助けに来てくれた隙に盗ってきたらしい。ところが、そのコウキはシンちゃんが既に掃除をしてしまった男らしかった。この陽奈を助けるためにセブンが、主に市村が相手のヤクザである辻井を相手に動きます。

今回は逆に、依頼人が知らない隠された真実が悲しい作品です。

恩赦御法度
陣内の店「エポ」にやってきた東が帰り、ジロウと話しているところに土屋昭子から「たすけて」というメールが入った。添付されている画像ファイルに移っているのはニュースで報道している茨城の庄田満らしかった。

新世界秩序(NWO)の姿がかすかにうかがわれる土屋昭子の物語です。

 
今回の歌舞伎町セブンは短編集です。

作者が「いつか作品にしたいと思っていました。」という『必殺仕事人』シリーズ(歌舞伎町が再び血に染まる : 参照)を念頭に書いた現代の「仕事人」である「歌舞伎町セブン」ですが、本書では本来の仕事人としてのセブンが描かれています。

ただ、前作の『ノワール-硝子の太陽』の出来があまりにも素晴らしくて、その印象をもっての本短編集でしたが、前作のような凝った物語というわけにはいかなかったようです。

本書は、誉田哲也の作品としては普通の出来というしかありませんでした。

 

 

とはいっても、ストリーテラーとしての誉田哲也の描く世界ですからそれぞれに物語が凝った作りとして語られています。

冒頭の作品は仕事人の物語として単純であり、あと四話これが続くのは避けてほしいと思っていました。しかし、さすがに誉田哲也の作品であり、読み進むにつれ物語の色を変えてあって、なかなかにバラエティに富んだ作品集でした。

 

本書では新しいメンバーとなるかもしれない掃除屋のシンちゃんが三話にわたりキーマンとして活躍します。また、死んだ上岡の同業者であり新世界秩序(NWO)の関係者である土屋昭子もたびたび顔を見せ、セブンのメンバーに入れるべきかと話題になったりと、それなりの面白さは持っています。

ただ、『ジウサーガ』の一環としてみた場合、どうしても前述のような物足りなさを感じてしまいます。単純な「仕事人」としての物語ではなく、新世界秩序との対決として位置づけられる「歌舞伎町セブン」の物語をじっくりとよみたいものです。

ボーダレス

なんてことのない夏の一日。でもこの日、人生の意味が、確かに変わる。教室の片隅で、密かに小説を書き続けているクラスメイト。事故で失明した妹と、彼女を気遣う姉。音大入試に失敗して目的を見失い、実家の喫茶店を手伝う姉と、彼女との会話を拒む妹。年上の彼女。暴力の気配をまとい、執拗に何者かを追う男。繋がるはずのない縁が繋がったとき、最悪の事態は避けられないところまで来ていた―。(「BOOK」データベースより)

 

誉田哲也の遊び心に満ちた長編のサスペンスミステリー小説です。

 

本書は、誉田哲也の「私は真面目に嘘をつく」という『ボーダレス』についてのエッセイを読んでもらうのが一番いいと思います。

そこには、本書は誉田哲也という作家の描いてきた青春、音楽、格闘技などの様々なジャンルの物語が「全部交ざったらどうなるのか」と書いてあります。

また、過去に書いた事件のその後はどうなっているか、たとえば「ストロベリーナイト事件」とも書いてあります。

そんな誉田哲也の遊び心にあふれた作品が本書です。

 

しかし、誉田哲也の小説の中では、それほど出来がいいとは思えませんでした。

たしかに、著者である誉田哲也本人が言うような物語として仕上がっています。青春小説や、音楽小説、そして格闘小説にエロチックミステリーと全く関係のないような話が別個に展開され、それが次第にリンクしていき、一つの物語としてまとまるのです。

それはそれとして面白く読めた物語ではありました。しかしながら、誉田哲也らしいインパクトを持った物語だったとは言えません。

それは、例えばエロチックミステリーに出てくる正体不明の女や、八辻姉妹の父親孝蔵などの人物像が今一つ見えてこないことなどがあると思います。

 

誉田哲也の小説の魅力は、良く練り上げられた人物像が、その設定された人物らしい台詞を話すことを前提に、これまた良く練られたストーリーに沿って動き回るところにあると思います。

その人物像が今ひとつ見えにくいのです。

更には、本書の結末が妙に落ち着きません。中途半端に感じてしまいます。誉田哲也という作家ならば、もう少しインパクトのある結末を用意できたのではないかと、贅沢な思いを持ってしまうのです。

読み手の勝手な要求であることは十分承知の上でなおそう思ってしまいます。