ガリレオシリーズ

ガリレオシリーズ』とは

東野圭吾の『ガリレオシリーズ』は、物理学者の湯川学を主人公とした推理小説シリーズです。

『ガリレオシリーズ』初の長編作品である『容疑者Xの献身』は第134回直木三十五賞を受賞し、またアメリカ探偵作家クラブのエドガー賞の候補ともなったそうです。

ガリレオシリーズ』の作品

ガリレオシリーズ(2025年10月現在)

  1. 探偵ガリレオ(短編集)
  2. 予知夢(短編集)
  3. 容疑者Xの献身
  4. ガリレオの苦悩(短編集)
  5. 聖女の救済
  1. 真夏の方程式
  2. 虚像の道化師 ガリレオ7(短編集)
  3. 禁断の魔術 ガリレオ8(短編集)
  4. 沈黙のパレード
  5. 透明な螺旋

ガリレオシリーズ』について

本『ガリレオシリーズ』の主人公の湯川学は帝都大学物理学准教授であって、シリーズ長編第四作の『沈黙のパレード』では教授に昇進しています。

シリーズ第一作の『探偵ガリレオ』で大学時代の友人の草薙俊平の依頼により、解決困難な事件を解き明かしました。

というのも、事件が非科学的な超常現象とも取れそうな現象を伴っていたために科学的な知見が必要と湯川の意見が求められたのです。

そうした経緯で、その後解決困難な事件となると湯川に謎解きの依頼が来るようになりました。

 

こうして警察側の窓口が草薙俊平となったのですが、その草薙は当初は警視庁捜査一課所属の巡査部長でしたが、『沈黙のパレード』では係長として班長と呼ばれています。

そして、草薙の後輩として『ガリレオの苦悩』から登場するのが内海薫巡査長(後に巡査部長)です。

内海はテレビドラマからの派生人物らしく、ドラマ版からの要求で原作にも登場するようになったそうです。

そのほか、草薙の上司として間宮慎太郎が捜査一課係長として登場し、以降の定番メンバーとなっています。

ほかに一課メンバーとして牧田刑事岸谷刑事弓削刑事ほかの刑事、多々良管理官(後に理事官)などが登場します。

 

また、テレビドラマ化もなされており、湯川学を福山雅治が演じており、好評だったようです。

テレビドラマは第1シーズンが2007年10月から、第2シーズンが2013年4月から放映され、他にスペシャル版も数本作成されています。

加えて、同様に福山雅治を主役として劇場版も作成され、2008年10月に『容疑者Xの献身』が、2013年6月に『真夏の方程式』が公開され、2022年9月16日には映画第3弾『沈黙のパレード』が公開されました。

クスノキの女神

クスノキの女神』とは

本書『クスノキの女神』は『クスノキ神シリーズ』の第二弾で、2024年5月に実業之日本社から320頁のソフトカバーで刊行された、長編のエンタメ小説です。

若干都合がよすぎるという印象を持ったことは否めないものの、それでも感動的な物語展開はさすがなものでした。

クスノキの女神』の簡単なあらすじ

神社に詩集を置かせてくれと頼んできた女子高生の佑紀奈には、玲斗だけが知る重大な秘密があった。
一方、認知症カフェで玲斗が出会った記憶障害のある少年・元哉は、佑紀奈の詩集を見てインスピレーションを感じる。
玲斗が二人を出会わせたところ瞬く間に意気投合し、思いがけないプランが立ち上がる。
不思議な力を持つクスノキと、その番人の元を訪れる人々が織りなす物語。
待望のシリーズ第二弾!(内容紹介(出版社より))

クスノキの女神』について

本書『クスノキの女神』は『クスノキ神シリーズ』の第二弾です。

若干都合がよすぎるという印象を持ったことは否めないものの、それでも感動的な物語展開はさすがなものでした。

 

ある日、玲斗のいる神社に一人の女子高生が詩集を置かせて欲しいと言ってきました。

一方、軽度認知障害を患っている玲斗の叔母の柳澤千舟が通う認知症カフェで、記憶障害を持った絵を描く才能のある少年と出会うのでした。

 

本書は、主人公である直井玲斗の叔母である軽度認知障害という病を持つ柳澤千舟を一方におき、他方に記憶障害のある針生元哉という少年をおいて展開される物語です。

自分の生活の履歴の一部が欠け落ちてしまうことの恐ろしさは想像がつきますが、現実にそうした事態に陥った場合の衝撃はたぶん想像を超えたところにあると思います。

歳を重ねてある程度の覚悟ができているなか、少しずつそうした事態に直面していく場合も怖いのですが、まだ若いうちに昨日の記憶が抜け落ちるなどの事態は想像すらつかないと思います。

そうした、それなりの歳をとった中での初期の認知症に直面した千舟と、病のために一晩眠った時に前日の記憶を維持できない少年とを物語の中心においた本書は様々なことを考えさせられます。

 

そこに、玲斗のいる月郷神社に詩集を置かせてほしいと頼んできた早川佑紀奈という高校生が絡み、佑紀奈と元哉という二人の共同作業の進捗を見守るという形でこの物語は進みます。

ちなみに、ここでの二人の共同作業が佑紀奈の文章に元哉が絵を添えるという絵本の作成作業ですが、ここでの絵本が現実に出版されることになりました。

それが、本書の作者である東野圭吾の文章に、絵本作家の吉田瑠美(よしだるみ)氏が絵を担当した『少年とクスノキ』という絵本です。

 

玲斗が中心になって、若い二人の夢をかなえさせる話を縦軸に、玲斗の叔母の千舟の認知症に対する態度を横軸に置いた物語だといえるかもしれません。

そして、玲斗は「記憶」という一点で共通する、軽度認知障害という病を持っている千舟と、記憶を一日しか維持することが出いない病を抱えている元哉のそれぞれの生き方を見つめています。

東野圭吾の描き出すファンタジー系統のシリーズ作品であり、やはり東野圭吾の感動的な物語である『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の系統に並ぶ作品だと言えます。

クスノキシリーズ

クスノキシリーズ』とは

東野圭吾の『クスノキシリーズ』は、東京郊外にある神社にあるクスノキの番人を主人公とするシリーズです。

そのクスノキに願うと願いが叶うと言われていて、番人の主人公とそのクスノキに祈念に訪れる人々との交流を描いた物語です。

クスノキシリーズ』の作品

クスノキの番人シリーズ(2025年07月29日現在)

  1. クスノキの番人
  2. クスノキの女神
  1. 少年とクスノキ

クスノキシリーズ』について

この『クスノキシリーズ』は、東京郊外の月郷神社にあるクスノキの番人とクスノキへの祈願を願う人たちににまつわる物語です。

このクスノキには、願い事をするとその願いが叶うという噂がありましたが、ただクスノキに対するお願いは、月のうちの特定の日の夜に祈念なければなりませんでした。

 

このクスノキの管理人を務めるのが主人公の直井玲斗です。

理不尽な解雇という仕打ちを受けたことへの反発から玲斗は罪を犯してしまいます。そこに弁護士が現れその危地から救い出してくれたのですが、条件として月郷神社のクスノキの番人となることが条件だったのです。

この弁護士の依頼人は玲斗の母親である美千恵の異母姉だという柳澤千舟という女性でした。

 

本『クスノキシリーズ』は、柳澤千舟を助言者として、直井玲斗が月郷神社にあるクスノキに願いを託す人々と関わっていきながら、彼が成長していく姿を描いた感動の物語です。

2025年7月の時点でシリーズは三作目まで出ていますが、その三作目は『少年とクスノキ』という絵本になっています。

この絵本は第二作目の『クスノキの女神』に出てきて重要な役割を果たしている『少年とクスノキ』という絵本がそのままに出版された体裁になっているのです。

シリーズ中でも独自の存在になると思われます。

文字通りに32頁しかない「絵本」ですが、その内容は作者の東野圭吾が自ら書き下ろした感動的な話になっています。

架空犯

架空犯』とは

 

本書『架空犯』は、2024年11月に幻冬舎から460頁のソフトカバーで刊行された、長編の推理小説です。

この作者の作品にしては感情移入のしにくい、どうにも物語の世界に入り込むことができにくい印象の作品でした。

 

架空犯』の簡単なあらすじ

 

誰にでも青春があった。被害者にも犯人にも、そして刑事にもー。燃え落ちた屋敷から見つかったのは、都議会議員と元女優夫婦の遺体だった。華やかな人生を送ってきた二人に何が起きたのか。『白鳥とコウモリ』の世界再びーシリーズ最新作。(「BOOK」データベースより)

 

架空犯』の感想

 

本書『架空犯』は、2024年11月に幻冬舎から460頁のソフトカバーで刊行された、長編の推理小説です。

この作者の作品としては感情移入のしにくい、どうにも物語の世界に入り込むことのできない作品となってしまいました。

 

本書は、2021年4月に出版された『白鳥とコウモリ』の続編という位置づけだそうです。

白鳥とコウモリ』の内容を覚えていなかったので、本書が何故シリーズの続編だと言われているのかよく分かりませんでした。

そこで、本サイトの『白鳥とコウモリ』の項をよく見なおして見ると、登場してくる刑事が本書と同じ五代努刑事だったのです。

この五代刑事の登場をもって同一シリーズということになったのでしょうが、前著では五代刑事は探偵役ではなかったところを見ると、若干強引という気がしないでもありません。

とすれば、今後五代刑事を主人公とする作品が刊行されるということかもしれません。


 

話を本書『架空犯』に戻します。

本書では冒頭で放火殺人事件が起き、すぐに被害者の都議会議員と元女優の妻夫婦は、誰に、そして何故殺されなければならなかったのか、が一人の刑事の努力で解明されていきます。

本書の登場人物を整理すると、本書の探偵役は『白鳥とコウモリ』にも登場していた五代刑事です。

この五代刑事が所轄の生活安全課の山尾陽介警部補と組んで被害者の人間関係を調べる艦取り捜査班に組み入れられることになります。

被害者は都議会議員だった藤堂康幸と元女優だった藤堂江利子という夫婦です。

この二人の間には榎並香織という妊娠中の娘がいます。その夫の榎並健人は榎並総合病院の副院長です。

そして、榎並香織から藤堂江利子の近況についての情報を知るためにと紹介されたのが今はシアトルにいるという本庄雅美という女性であり、本庄からの教えられたのが今西美咲という東都百貨店の外商の女性です。

そして、事件は過去の出来事へと結びついていき、そこで登場するのが永間和彦という高校生だったのです。

 

さすがに東野圭吾の作品らしく、過去の出来事が遠因となって数十年後にとんでもない事件を引き起こすこととなる様がうまいこと描かれていると思います。

でも、シリーズの前巻とされる『白鳥とコウモリ』でも思ったのですが、東野圭吾らしい物語の面白さを持っているかと言えば、普通でしかないと思ってしまいました。

 

本書『架空犯』では、冒頭から殺人事件が起き、その捜査の様子が逐一語られていくなかで、事件の裏に隠された真実が少しづつ明らかにされていきます。

しかし、この詳細な捜査の状況がしばらくの間続くので、物語のストーリー展開の面白さという点で私の好みとは違ってたと思われるのです。

つまりは、新事実が小出しにされ、そのことが新たな謎に結びついてまた新たな事実が提示されるということの繰り返しであって、一編の物語のストーリー展開としての醍醐味に欠けると感じたのです。

ただ、推理小説としては少なからずそうした展開は見られるところであり、なのに本書では受け入れ難く感じたのか、肝心なところがよく理解できていないのが残念です。

 

そしてかなり無茶な感想ですが、「誰にでも青春があった。被害者にも犯人にも、そして刑事にも。」という帯の文句自体が物語の展開を暗示していて、それは推理小説のネタバレにも近いことだと感じてしまいました。

そのため、推理小説の醍醐味である意外性に欠けるところが多くあった、と感じてしまったのです。

さらに言えば、事件現場の作出の一因とされる事柄も納得のいくものではなかったことも不満が残るところではありました。

 

こうしてみると、本書が感情移入のしにくい作品だった、という私の印象は、かなり個人的な好みを前提とした強引なものになったと思われます。

蛇足ですが、個人的読書感想ブログですので、それもありかとそのままに乗せることにしました。

真夏の方程式

真夏の方程式』とは

本書『真夏の方程式』は『ガリレオシリーズ』の第六弾で、2011年6月に文藝春秋からハードカバーで刊行され、2013年5月に文春文庫から463頁の文庫として出版された、長編の推理小説です。

長編としてはシリーズ第三作目であり、環境保護をテーマにした、相変わらずの面白さを持った作品でした。

真夏の方程式』の簡単なあらすじ

夏休みを玻璃ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年・恭平。一方、仕事で訪れた湯川も、その宿に宿泊することになった。翌朝、もう1人の宿泊客が死体で見つかった。その客は元刑事で、かつて玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは―。(「BOOK」データベースより)

真夏の方程式』の感想

本書『真夏の方程式』は、ガリレオシリーズの第六弾となる作品で、たまたま列車の中で一緒になった少年の恭平を中心にしたミステリー作品です。

やはり、さすが東野圭吾という作品でした。この作家さんにたまに見られる少々強引な設定という感じもあったけれど、でも、やはりこの人の作品は一級の面白さがあります。

 

海の美しい玻璃ヶ浦での開発の話が持ち上がります。学者としての意見を求められ現場に参加する湯川学でしたが、行きの列車で偶然一緒になった恭平少年と同じ宿に泊まることにしました。

ところが、翌日同じ宿に泊まり合わせた宿泊客が死体で見つかります。事故として片付けられようとした事件でしたが、亡くなった人物が元警官であることが判明し、身元確認のために来る夫人に同行してきた警視庁の管理官はそこに事件性を見出すのでした。

 

恭平と湯川が泊まったこの宿は、恭平の伯母一家の経営する旅館で、玻璃ヶ浦自体がさびれていくのに伴い老朽化している旅館でした。

その旅館で、恭平少年に湯川が物理学の面白さ、学問の面白さを少しずつ説いていき、恭平が、わずかずつ湯川に心を開いて行く過程が描写されています。

この二人の関係が謎解きとは異なる本書のもう一つの見どころになっていて、事件の背景のせつなさに一つの救いを与えているようです。

 

このシリーズにしては珍しく、湯川の方から事件の背景の調査に乗り出します。

その折に何時ものことながら草薙刑事との掛け合いもあるのですが、今回は草薙の方からの捜査依頼ではないので、この二人の会話も草薙の報告という形で終始します。

何となくこのシリーズの感じがこれまでと異なるのは、やはり、本作品が恭平少年を軸に据えた描写になっているからのようです。

結論にしても、恭平少年の存在があればこそ、としか考えられず、通常であれば違った結論になるのではないかと思われます。

 

この作家の作品はその殆どを読んでいるのですが、いかにも近年の作品らしく、人間ドラマを中心に据えた読み応えのある作品に仕上がっています。

結論のあり方に関しては異論も少なからずあるようですが、小説としての面白さはさすがのものです。

いつものことながら、それなりの水準の作品を発表し続けるその力量にはただ脱帽するばかりです。

 

ちなみに、本書は『容疑者Xの献身』に次ぐ、劇場版ガリレオシリーズの第二弾として、もちろん福山雅治主演で映画化されています。

ブラック・ショーマンと覚醒する女たち

ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』とは

 

本書『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』は『ブラック・ショーマンシリーズ』の第二弾で、2024年1月に352頁のソフトカバーで光文社から刊行された短編推理小説集です。

あるマジシャンを探偵役とするミステリーで、若干の心残りはあるものの心地よく楽しむことができた短編小説集です。

 

ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』の簡単なあらすじ

 

亡き夫から莫大な遺産を相続した女性の前に絶縁したはずの兄が現れ、「あんたは偽者だ」といいだす。女性は一笑に付すが、一部始終を聞いていた元マジシャンのマスターは驚くべき謎解きを披露する。果たして嘘をついているのはどちらなのかー。謎に包まれたバー『トラップハンド』のマスターと、彼の華麗なる魔術によって変貌を遂げていく女性たちの物語。(「BOOK」データベースより)

目次
トラップハンド | リノベの女 | マボロシの女 | 相続人を宿す女 | 続・リノベの女 | 査定する女

 

ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』の感想

 

本書『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』は『ブラック・ショーマンシリーズ』の第二弾となる、あるマジシャンを探偵役とする、小気味いい短編小説が収納された作品集です。

 

本書の感想を一言で言えば、長編の方が面白いという感想になるのでしょうか。本シリーズ第一弾の『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』のような長編作品の方が東野圭吾の良さを示すことができると思うのです。

また、東野圭吾の社会派の一面が前面に出た作品の方が私の好みには合致しているとも思います。

この点、前作は長編ではあるものの私の好みである社会派作品ではなく普通の謎解きメインの作品であり、その点は少々残念でした。

さらに本書に関して言うと、本書を先に読んだためか探偵役の神尾武史の背景描写や武史と神尾真世との関係性についての叙述が少なく、物語の背景描写が薄いと感じました。

ただ、本書の主役の神尾武史や神尾真世に関してはシリーズ第一弾の前作でその人となりや関係性などについては詳しく述べてあるため、第二弾である本書ではどうしても物語の背景が薄く感じるとは言えるでしょう。

 

とはいえ、さすがに東野作品であり楽しく読ませてもらったというのも事実です

本書が普通の推理小説と異なるところは、提供される謎が殺人などの事件ではないところです。本書で提供される謎解きはあのシャーロックホームズが見せたような、ある人の人となりや行動などからその場でその人の言動の嘘を見抜くことです。

 

本書の冒頭の「トラップハンド」は、ある男の言動からその男の嘘を見抜き、ある女性が毒牙にかかろうとするところを助ける話です。

この話は22頁と実に短く、それでいてこの女性が本書における他の話でも顔を見せたり、物語に関わってきたりとそれなりの役割を担った人物として登場しています。

 

次の「リノベの女」は、夫の財産を相続した上松和美は、生き別れになっていたという和美の兄の上松孝吉から偽者との指摘をうけます。しかし、ことの真相は意外なものでした。

この話は続編があり、それが「続・リノベの女」であって、再び隠された真相が明らかになるとき、そこに意外な事実が隠されていたのです。

 

マボロシの女」は、不慮の事故で亡くなった不倫関係にあった男のことを忘れることができないでいた火野柚希を何とか救いたいと思う親友の山本弥生との話ですが、少々無理があるのではないかと感じる話でもありました。

 

相続人を宿す女」は、ある老夫婦が息子の富永遥人が急死したため遥人が住んでいた部屋のリフォームを計画したのですが、リフォームを請負った真世に突然に工事の停止を言ってきたという話です。

遥人の死の直前に離婚した妻がお腹にいる子が相続する権利があると言ってきたためのことでしたが、一見不合理な主張の裏には読む者の胸を打つ話が隠されていました。

 

査定する女」は、「トラップハンド」やそのほかの話に少しずつ顔を見せていた陣内美奈という女性の話です。

それまで結婚相手の査定を武史に頼んでいたのですが、ついに栗塚正章という理想の男性と巡り合うのでした。しかし、この話も若干無理筋を感じた話でもありました。

 

何となく違和感を感じた話もありましたが、全体的には心地よく楽しむことができた作品集でした。

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』とは

 

本書『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』は『ブラック・ショーマンシリーズ』の第一弾で、2020年11月に光文社から刊行されて、2023年11月に520頁で光文社文庫から文庫化された、長編の推理小説です。

ミステリーとしての側面はその謎解きの過程をそれなりに楽しめたものの、探偵役のキャラクターは別として、東野作品の中では普通といわざるを得ない作品でした。

 

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』の簡単なあらすじ

 

故郷で父が殺害された。仕事と結婚準備を抱えたまま生家に戻った真世は、何年間も音信不通だった叔父・武史と再会する。元マジシャンの武史は警察を頼らず、自らの手で犯人を見つけるという。かつて教師だった父を殺した犯人は、教え子である真世の同級生の中にいるのか。コロナ禍に苦しむ町を舞台に、新たなヒーロー“黒い魔術師”が手品のように華麗に謎を解く長編ミステリー!(「BOOK」データベースより)

 

ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』の感想

 

本書『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』は『ブラック・ショーマンシリーズ』の第一弾となる長編の推理小説です。

ミステリーとしては楽しく読みましたが、個人的には東野作品は社会性を持った作品の方が好みであり、この作者の作品としては普通といわざるを得ない作品でした。

ただ、探偵役の神尾武史がなかなかにユニークな人物であって、その点では読みがいのある作品でした。

 

本書の主人公は、マンションのリフォームを手掛ける部門に勤務し、同じ会社の先輩である中条健太という男性との結婚を予定している神尾真世という女性です。

真世は郷里での中学時代の同窓会を間近にしていたのですが、突然、自分が通った中学校の教師でもあった父親の神尾英一が殺されたという連絡が入ります。

急いで郷里へ戻り警察に話を聞いていると、そこに真世の伯父の神尾武史という男が現れるのでした。

 

この神尾武史は、真世の父親英一の弟であり、かつてはサムライ・ゼンという名前でアメリカでかなり人気を博したマジシャンだった人物です。

今は「トラップハンド」というバーを営んでいる人物ですが、何故かアメリカでマジシャンとして活躍していた時代のことは語りたがりません。

しかし、彼の手先の器用さと、話術の巧みさはさすがのものがあり、その技を駆使して探偵役を果たしていくのです。

 

登場人物を見ると、中学の同級生としてまず何かと真世と連絡を取っていた池永(旧姓 本間)桃子がいて、歳上ではありますがやはり英一の教え子でもある桃子の夫の池永良輔がいます。

次いで、倒れていた英一の発見者でもある酒屋を営む原口浩平、IT企業経営者の杉下快斗、地方銀行の三つ葉銀行に勤務する牧原悟、漫画「幻脳ラビリンス」の作者針宮克樹、「幻脳ラビリンス」を利用しての町おこしを狙う柏木広大、釘宮のマネージャー的立場で動く九重梨々香他の人物が真世の中学の同級生として登場してきます。

 

謎解き自体は本格派推理小説に対する私の印象と変わらずに特別なものはありませんでしたが、探偵役である神尾武史のキャラクターこそが本シリーズの醍醐味だと思います。

姪っ子の真世にまで自分の飲食代や宿泊代を負担させ、挙句の果てには警察にまで負担させようとするそのキャラは独特です。

それでいてマジシャンとしての腕は超一流であり、スマホを盗み取り履歴を見て元に戻したり、相手がスマホで電話を掛けるその姿を見て押した電話番号を読み取るなど、器用という言葉では足らないほどの能力をも有しているのです。

ここで、主人公神尾真世の父親が殺され、さらに事件の関係者が神尾真世のかつての同級生たち、探偵役が主人公真世の叔父というという舞台が設けられることになります。

 

本『ブラック・ショーマンシリーズ』の項でも書きましたが、マジシャンが登場するミステリーとして忘れてならないのは泡坂妻夫という作家さんです。

中でも『11枚のとらんぷ』という作品は正直あまり覚えてはいないのですが、マジックを駆使した内容に驚いた記憶が残っている作品です。

 

本シリーズは続編の『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』も出版されています。

本書と異なり短編集ですが、やはりホームズのような活躍を見せる神尾武史がその魅力を発揮しています。

個人的には短編集である続編よりも本書の方が好みではあったかもしれません。

ブラック・ショーマンシリーズ

ブラック・ショーマンシリーズ』とは

 

本『ブラック・ショーマンシリーズ』は、あるマジシャンを探偵役とするミステリーシリーズで、第一弾作品が2020年11月に光文社から刊行されています。

東野圭吾の作品の中では謎解き重視のシリーズであって、社会性を抑えたタッチのシリーズとなっています。

 

ブラック・ショーマンシリーズ』の作品

 

ブラック・ショーマンシリーズ(2024年7月28日現在)

  1. ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人
  2. ブラック・ショーマンと覚醒する女たち

 

ブラック・ショーマンシリーズ』について

 

ブラック・ショーマンシリーズ』は、かつてサムライ・ゼンという名前でアメリカでかなり人気を博したマジシャンだった神尾武史という人物を探偵役とするミステリー作品です。

謎解き重視のシリーズであって、東野圭吾の作品としては社会性を抑えたタッチのシリーズとなっています。

 

本シリーズの主人公としては、一応は探偵役である神尾武史の姪の神尾真世という女性がいます。

この神尾真世は不動産会社でマンションのリフォームを手掛ける部門に勤務し、同じ会社の先輩である中条健太という男性との結婚を控えている女性です。

先に「一応は」と書いたのは、この女性はいわば狂言回しであり、物語で提起されている謎を解明する探偵役は先に述べた神尾武史というマジシャンだからです。

 

特に第一弾の『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』で発生する事件は、神尾真世の父親神尾英一が殺されるという事件であり、まさに神尾真世が被害者の娘として物語の中心になります。

そこに何年も音信不通だった叔父の神尾武史が現れ、事件の謎をとき、自分の兄を殺した犯人を見つけるという流れになっているのです。

第二弾の『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』は短編集であって、この神尾真世自身が持ってくる話や、神尾武史の店を訪れる客の抱える問題を解決するというのが基本的な流れです。

 

本シリーズのようなマジシャンが登場するミステリーと言えば、少し前の作品になりますが泡坂妻夫の『11枚のとらんぷ』という作品があります。

もう三、四十年も前に読んだ作品なので内容は覚えてはいないのですが、ただそのマジックを駆使した内容に驚いたという記憶だけが残っているほどの作品であり、作家さんです。

この泡坂妻夫という名前は杉井光の『世界でいちばん透きとおった物語』を読んだときにも、献辞の中で挙げられていた名前であって、マジックをテーマにしている作品では避けては通れない名前だと思います。

そこでも挙がっていた作品が『しあわせの書 迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術』という作品で、ミステリーの内容とは別に驚きが待っていた作品でした。


 

本『ブラック・ショーマンシリーズ』は、2024年7月28日現在までは第二弾までしか出版されていませんが、今後続編を期待したいシリーズです。

クスノキの番人

クスノキの番人』とは

本書『クスノキの番人』は、2020年3月に実業之日本社から刊行されて2023年4月に実業之日本社文庫から496頁で文庫化された、長編のエンタメ小説です。

東野作品としてはいつもの社会派のミステリーではなく、ミステリ要素を持ったファンタジーベースのヒューマンドラマというべき作品で、面白く読んだ作品でした。

 

クスノキの番人』の簡単なあらすじ

 

恩人の命令は、思いがけないものだった。不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。そこへ弁護士が現れ、依頼人に従うなら釈放すると提案があった。心当たりはないが話に乗り、依頼人の待つ場所へ向かうと伯母だという女性が待っていて玲斗に命令する。「あなたにしてもらいたいこと、それはクスノキの番人です」と…。そのクスノキには不思議な言伝えがあった。(「BOOK」データベースより)

 

クスノキの番人』の感想

 

本書『クスノキの番人』は、ミステリ要素のあるヒューマンファンタジー小説です。

東野圭吾の作品群の一つであるファンタジー系統の作品で、東京郊外の月郷神社にあるという願い事を叶えてくれるクスノキをめぐる人間模様が描かれています。

 

玲斗が管理人を務める月郷神社には、クスノキに願い事をするとその願いが叶うという噂があり、昼間からクスノキに願いをしに訪れる人が絶えませんでした。

しかし、クスノキへの願いは単純にお願いすればいいというものではなく、月のうちの特定の日の夜に祈念するしかなかったのです。

 

主人公直井玲斗は天涯孤独の身だと思っていましたが、とあることから母親の美千恵の異母姉だという柳澤千舟という女性が現れ、とある神社にあるクスノキの番人となることになります。

何の説明も受けないままに神社の、そしてクスノキの番人を続ける玲斗の前に、今クスノキに祈念をしに来た佐治寿明という男の娘の佐治優美と名乗る女性が現れます。

クスノキの祈念に関することについては何も話せないという玲斗ですが、娘はしつこく父親の秘密を探ろうとし、玲斗をその探索に引き込もうとするのでした。

そのうちに、玲斗にもクスノキに祈念することの意味がわかってくるのでした。

 

主人公の直井玲斗は、女一人で幼い玲斗を育てていた母親が夜の仕事をしていたため、きちんとした躾も受けたわけではありません。そこで、千舟は玲斗を管理人として育てるについて、敬語の使い方から教えることになります。

玲斗は千舟の期待に少しずつではありますが応え、次第にクスノキの管理人として成長していく姿がありました。

その管理人としての仕事の中で佐治寿明の祈念と、大場壮貴という青年の祈念を中心に物語は進みます。

さらに物語は、千舟が中心となって運営してきた柳澤グループにも関係してくることになり、更なる感動の展開に結びついて行くのです。

 

とはいえ、物語の中心となるのはクスノキへの祈念とは何か、佐治寿明や大場壮貴の祈念はどのように解決するのか、といった疑問の解明です。

また、疑問の解明に加え、玲斗が管理人として、また人間として成長していく姿を読ませるのはさすがに東野作品です。

 

著者東野圭吾のファンタジー系統の作品としては、まずは『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が思い出されました。

ほかに、辻村深月の『ツナグシリーズ』や川口俊和の『コーヒーが冷めないうちにシリーズ』なども同系列の作品だということができると思います。


ともあれ、東野圭吾の作品として惹き込まれて読んだ作品であることに間違いはありません。

 

ちなみに、本書の続編として 2024年5月には『クスノキの女神』が実業之日本社からソフトカバーで発売されています。

あなたが誰かを殺した

あなたが誰かを殺した』とは

 

本書『あなたが誰かを殺した』は『加賀恭一郎シリーズ』の第十一弾で、2023年9月に講談社からソフトカバーで刊行された、長編の推理小説です。

本書の大半が犯人探しの「検証会」の描写に費やされている、いわゆる本格派の推理小説にも似た構成の作品です。

 

あなたが誰かを殺した』の簡単なあらすじ

 

★★★ミステリ、ど真ん中。★★★
最初から最後までずっと「面白い!」至高のミステリー体験。

閑静な別荘地で起きた連続殺人事件。
愛する家族が奪われたのは偶然か、必然か。
残された人々は真相を知るため「検証会」に集う。
そこに現れたのは、長期休暇中の刑事・加賀恭一郎。
ーー私たちを待ち受けていたのは、想像もしない運命だった。(内容紹介(出版社より))

 

あなたが誰かを殺した』の感想

 

本書『あなたが誰かを殺した』は、社会派の作家と分類されると思っていた東野圭吾による、本格派の推理小説とでも言えそうな推理小説です。

物語は、終盤にいたってそれまで貼られていた伏線が次々と回収されていくのはもちろんのこと、犯人像も逆転に次ぐ逆転で意外性に富んでいて飽きることがありません。

誤解を恐れずに言うと、こうしたどんでん返しは物語の終盤だけに展開されるものではなく、探偵の加賀恭一郎が参加してからは常に意外性に満ちた展開をしているとも言えるかもしれません。

それほどに、惹かれる展開が待っているというとでもあります。

 

本書の特異な点は、そのほとんど全編が序盤で起きた殺人事件の解決編だけで成り立っている構成であることです。

本書全体が300頁強の作品であって、冒頭から30頁半ばあたりで事件が起きます。そして50頁になる前で探偵役の加賀恭一郎が登場して、70頁を越えたあたりからは「検証会」に参加する人たちとの会話が始まっています。

そして、その「検証会」の中での加賀恭一郎の考察は他の登場人物たちにとって新たな視点をもたらすものとなっていくのです。

 

本書『あなたが誰かを殺した』での物語の舞台は、序盤で鷲尾春奈と加賀恭一郎とが初めて会った場面などの数場面を除いて櫻木家山之内家飯倉家(グリーンゲーブルズ)高塚家栗原家の五軒の別荘がある別荘地の中だけです。

この舞台に個性豊かな人物たちが集まって恒例のパーティーを行うところから始まりますが、このパーティに集まる人物が櫻木家、山之内家、高塚家、栗原家の四軒の別荘の関係者達です。

個別にみると、まず櫻木家関係者としては、櫻木病院の院長である櫻木洋一、洋一の妻の櫻木千鶴、そして櫻木夫妻の娘で櫻木病院で事務員として働く櫻木理恵、理恵の婚約者で櫻木病院の内科医である的場雅也です。

次いで山之内家の関係者は、この別荘に一人で住んでいる山之内静枝という40歳すぎの女性と、静江のもとに遊びに来ている静江の姪である看護師の鷲尾春那と夫で薬剤師の鷲尾英輔で、共にパーティへと参加しています。

グリーンゲーブルズと呼ばれている飯倉家の別荘は静江が管理をしており、現在は誰も住んでいません。

次の高塚家関係者は、ある会社の会長職である高塚俊作とその妻の桂子、それに俊作の部下の小坂均七海夫妻とその息子で小学六年生の小坂海斗です。

パーティへの参加者は以上の人達ですが、そこに事件が発生し新たな人物が登場します。

それが、事件の犯人として自首をしてきた桧川大志であり、鷲尾春奈の依頼を受け「検証会」に同行することになった加賀恭一郎、それにパーティが行われた地元の刑事課長であるです。

 

事件の後、自首してきた桧川が何も話さないところから検察が未だ事件の詳細をつかめていないとして、事件の関係者たちで事件について話し合いたいという高塚俊作の提案で「検証会」が開かれることになったのです。

先に述べたように本書『あなたが誰かを殺した』は通常の推理小説とは異なり、そのほとんどが加賀という探偵役による事件解決のための事実の確定と犯人探しに費やされています。

そして、この犯人探しの場となったのが「検証会」であり、この場で当事者たちの証言により何があったのかが次第に明らかにされていくのです。

最後に明かされる意外な事実は読み手の推測をも裏切り、繰り返されるどんでん返しは驚きの連続です。

そうした意外性は本書の特徴の最大の魅力と言っていいと思われます。

 

著者の東野圭吾の魅力の一つは犯罪動機の解明を通して示される社会的な問題提起にもあると思うのですが、本書の場合はどちらかと言うとかつての本格派の推理小説にも似た謎解きに重きが置かれた作品です。

特に本『加賀恭一郎シリーズ』は東野圭吾の作品の中でも社会性が強いと言われているシリーズであって、謎解きよりも犯罪動機やストーリー自体の魅力が売りだと思っていたので一つの驚きではありました。

ただ、『加賀恭一郎シリーズ』の中には『どちらかが彼女を殺した』『私が彼を殺した』などの本格派的な作品もありますから、本シリーズを社会派のシリーズだと思うのは私の早とちりというべきなのかもしれません。

どちらにしろ、本書『あなたが誰かを殺した』が魅力的であり面白い作品だというのは異論のないところでしょう。

東野圭吾作品の中でも一番好きなシリーズであり『加賀恭一郎シリーズ』の最新作である本書は十分に楽しめるひとときを過ごすことのできる作品だと言えます。