本書『氷菓』は、米澤穂信氏のデビュー作で、文庫本で224頁の連作短編の形を借りた長編の青春ミステリー小説です。
ネットでも面白い青春ミステリ小説だと紹介してあった作品で、第五回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しています。
『氷菓』の簡単なあらすじ
いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。(「BOOK」データベースより)
神山高校の折木奉太郎は、姉の勧めで部員ゼロであった古典部に入部しますが、そこには先に入部していた千反田えるがいました。
そして奉太郎の親友の福部里志や、長年の付き合いの伊原摩耶花も入部することになります。
千反田えるの好奇心をきっかけに日常の細かな謎を解き明かしていく奉太郎は、失踪した千反田えるの伯父が絡んだ謎の解明を頼まれます。
ところがその謎は、古典部の『氷菓』という題名の文集に隠された秘密につながっていくのでした。
『氷菓』の感想
確かに、本書『氷菓』の舞台は高校であり、主人公も仲間もその高校の一年生で青春小説であることに間違いはありません。
しかし、本書は普通の青春小説とは違います。
例えば、殆ど冒頭での「俺は鼻を鳴らすことで肯定を示した。」などという文章がそうであるように文章は硬質ですし、最初に示される千反田が閉じめられていた謎の場面のように、謎ときも若干ご都合主義的なところがあります。
こうしたことから違和感を感じながら読み進めていたのですが、中盤を過ぎるあたりから本書のわざとらしさや、大時代的な言い回しは、登場人物の名前も含めて作者の計算だと思えてきました。
本書の主題である古典部の三十三年前の秘密も若干時代がかった舞台設定を前提としていて、少なくない場所で本書が推薦されていることにも納得がいきました。
1969年の第61回芥川賞を取っている庄司薫の『赤ずきんちゃん気をつけて』は、一見誰にでも書けそうな普通の文章で主人公の日常が綴られていました。
それと同様に本書『氷菓』でも、硬質ではありながらも、主人公目線の文章は自然で違和感がなく、読みやすい文章でした。
著者本人による「あとがき」には、「六割くらいは純然たる創作で」あり、「どうにもご都合主義っぽい部分が史実だ」とありました。
つまり、作者自ら「ご都合主義」ということを書いているわけで、私が感じた違和感も作者の思惑の中だったようです。
読了後に改めて考えると、序盤に出てくる千反田の言葉の中にさらりと出てくる「格技場の古さ」など、ちゃんと伏線も張ってあるではないですか。
やはり作者の計算が行きとどいている物語だと思わされました。