米澤 穂信

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文藝春秋

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「ある人文科学的実験の被験者」になるだけで時給十一万二千円がもらえるという破格の仕事に応募した十二人の男女。とある施設に閉じ込められた彼らは、実験の内容を知り驚愕する。それはより多くの報酬を巡って参加者同士が殺し合う犯人当てゲームだった―。いま注目の俊英が放つ新感覚ミステリー登場。(「BOOK」データベースより)

非常にゲーム性の強い、本格派の推理小説です。

十二人の男女が時給十一万二千円というアルバイト広告に魅かれて集まります。地下に設けられた「暗鬼館」というゲーム用の専用部屋で、一週間の間ただ何もしないでいれば千八百万円を超える金が各自に入るというのです。

しかし、自分以外の者を殺害した者は報酬が二倍、などと設けられたルールは異常としか言いようのないものでした。事実、三日目に入ると参加者の一人の射殺死体が見つかり、残された者は恐怖の時を迎えることになります。




本書のような頭脳ゲームを「本格派」の推理小説と読んでいいものかどうか、私にはわかりません。しかし、ある事件の起きた理由や、誰によって、どのように為されたかなどの、犯行結果に至る過程のロジックを重視する小説作法が本格派というのであるのならば、論理を追及して犯人を探すという本書の流れは「本格」と呼ぶにふさわしいと思います。

謎ときのための謎、そのための物語環境の設定ということに違和感を感じ、「本格派」を物語としては不自然なものと思っていた私です。しかし、本格派の推理小説を忌避していたとは言っても、よく考えてみると横溝正史の『金田一耕介シリーズ』はほとんど読んでいますし、高木彬光や泡坂妻夫なども好んで読んでいたのでした。

そこであまり作品世界に入れなかった作品を思い出してみると、綾辻行人の『霧越邸殺人事件』や東野圭吾の『仮面山荘殺人事件』などが挙がります。とすれば、いわゆる「クローズド・サークル」というミステリ用語で表される作品が苦手だったのかもしれません。

でも、同様にゲームそのものと言ってもいい内容の 貴志祐介の『クリムゾンの迷宮』はとても面白く読んでいるのですから、自分でも曖昧だと思います。

結局、「本格」と「新本格」と呼ばれていた一連の作品との差異もよく分からない私は、「クローズド・サークル」という言葉云々の前に、感覚的に好きか、そうではないのかということだけのようです。

つまりは小説のジャンルではなく、個々の作品自体の持つ人間ドラマの展開の仕方、その描き方によって私の好みかどうかに分かれるのだろうという、至極普通の結論に至りました。

その点、本書はこの作者らしい論理を前面に押し出した物語で、十二人のゲーム参加者の行動を緻密に追及しつつ、現実に起きた殺人事件の謎を解くことと、極限状況に置かれた参加者たちがいかなる行動をとるかという点で興をそそられる作品でした。

この十二人の参加者のゲームという点では、 冲方丁 の『十二人の死にたい子どもたち』という作品があります。この作品も特定状況が作り出された、本格派の推理小説でした。

廃業し空き家になった病院に、ネット上で知り合った十二人の子供たちが安楽死をするために集まりますが、安楽死の予定の場所には既に一人の少年の死体が横たわっていました。十二人の少年少女たちの、このまま安楽死を続行し続けるべきかどうかの話し合いが始まります。

この作品も、登場人物たちの行動を緻密に追いかけて発生した殺人事件の犯人を捜し出すとともに、それぞれの行動に関心が集まるような仕掛けになっていて、私の好みとは少しずれはしたものの、それなりに面白い作品でした。

[投稿日]2017年11月17日  [最終更新日]2017年11月17日
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