『闇の守り人』とは
本書『闇の守り人』は『守り人シリーズ』の第二弾で、1999年1月に偕成社からハードカバーで刊行され、2007年6月に新潮文庫から著者のあとがきと神山健治氏の解説まで入れて387頁の文庫として出版された、長編のファンタジー小説です。
『精霊の守り人』に続く『守り人シリーズ』の第二弾である本書は、バルサの生まれ故郷カンバル国へと向かい、バルサの過去が語られます。
『闇の守り人』の簡単なあらすじ
女用心棒バルサは、25年ぶりに生まれ故郷に戻ってきた。おのれの人生のすべてを捨てて自分を守り育ててくれた、養父ジグロの汚名を晴らすために。短槍に刻まれた模様を頼りに、雪の峰々の底に広がる洞窟を抜けていく彼女を出迎えたのは―。バルサの帰郷は、山国の底に潜んでいた闇を目覚めさせる。壮大なスケールで語られる魂の物語。読む者の心を深く揺さぶるシリーズ第2弾。(「BOOK」データベースより)
『闇の守り人』の感想
シリーズ第一巻『精霊の守り人』では、「新ヨゴ皇国」がバルサとチャグムが活躍する舞台でした。
それに対し本書『闇の守り人』ではバルサの故郷であるカンバル王国が舞台となっています。バルサの短槍の師であるジグロの身内に会い、あらためて過去の自分と向き合うために戻ったのでした。
バルサの過去は『精霊の守り人』でも少しだけ語られていましたが、本書でその成り行きが詳しく語られることになります。
バルサは、本来であればカンバル王国へ戻るために通るべきはずの正式な門ではなく、<山の王>が支配するという迷路めいた洞窟を抜ける道を選んでいました。
そこで、ヒョウル<闇の守り人>に襲われていたカッサとジナ兄妹を助けたことからカンバルのある企みにまつわる騒ぎにまきこまれてしまいます。
この洞窟が本書の眼目であるカンバルの地の伝説と深くかかわる洞窟であり、カンバルという国の存続にもかかわる場所だったのです。
このカンバル王国の秘密にまつわる話が本書『闇の守り人』の魅力の第一点です。
まず、王国の秘密とはカンバルに伝わる儀式や伝承などにかかわるものであり、文化人類学者である著者上橋菜穂子の本領を発揮する分野です。
前巻の『精霊の守り人』のクライマックスでも同様に伝承が生きる場面がありましたが、日々の暮らしに溶け込んでいる言い伝えなどが持つ本来の意味を教えてくれ、それは私たちの現実の生活でも当てはまるものです。
『精霊の守り人』ではこの世(サグ)とは異なるナユグという異世界がこの世と隣り合わせにあるという物語世界の成り立ちが説明がありました。
本書では、それに加え山の王という存在が語られ、同時に、バルサが通ってきた洞窟には<闇の守り人>がいてカンバル王国を守っているという伝説の真の意味も明確にされていきます。
この山の王の話とナユグとの関連は未だ明確ではありませんが、今後明らかにされるのでしょう。
そしてもう一つ、本書『闇の守り人』ではバルサの師匠であるジグロの壮絶な生き方に隠された、バルサの父カルナの死の謎やカンバル王国の王の槍と呼ばれる武人たちの存在など、バルサの短槍使いとしての生き方の意味も明らかになります。
ジグロも、カルナを脅し当時の王ナグルを毒殺した王弟ログサムもすでにいないカンバルの地で久しぶりに会った叔母ユーカに話を聞くと、ジグロの弟のユグロが裏切り者とされていたジグロを討ち果たして国宝の金の輪を持ち帰った英雄として称えられていたのです。
バルサの人生はカンバル王国の秘密の上に積み上げられたものであり、今回の帰省によって父カルナや師匠ジグロなどの汚名を晴らすことにもなるのです。
こうして、バルサは故郷カンバル王国の危難に立ち合い、これを救うことになります。
一級のファンタジーであり冒険小説である本書『闇の守り人』は、さらに今後の展開をも期待させる物語の序章でもありました。