冲方 丁

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「なぜあの男を自らの手で殺めることになったのか」老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎でその経緯と己の生涯を綴り始める。父・頼房の過酷な“試練”と対峙し、優れた兄・頼重を差し置いて世継ぎに選ばれたことに悩む幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れる中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて文事の魅力に取り憑かれた光圀は、学を競う朋友を得て、詩の天下を目指す―。誰も見たことのない“水戸黄門”伝、開幕。(文庫版 上巻「BOOK」データベースより)
「我が大義、必ずや成就せん」老齢の光圀が書き綴る人生は、“あの男”を殺めた日へと近づく。義をともに歩める伴侶・奏姫と結ばれ、心穏やかな幸せを掴む光圀。盟友や心の拠り所との死別を経て、やがて水戸藩主となった若き“虎”は、大日本史編纂という空前絶後の大事業に乗り出す。光圀のもとには同志が集い、その栄誉は絶頂を迎えるが―。“人の生”を真っ向から描き切った、至高の大河エンタテインメント! (文庫版 下巻「BOOK」データベースより)

まず、本書は通常のエンターテインメント小説とは異なり、軽く読み飛ばせる小説ではありません。文章(単語)が非常に難しく、一読しただけではその意味が汲み取れない個所が随所にあります。その上、文庫版で上下二巻併せて千頁を超える大作なのです。

ところが、文章が理解しにくい大部の物語でありながら、読みにくくはありません。それどころか読み始めたらなかなか本を置くことが難しいほどに引き込まれました。文章の意味が取りにくいところは勿論再読、三読をし、ときには無視をしたのですが、それでもなお物語の面白さは損なわれないのです。

意味の汲み取りにくい文章も、漢詩などに造詣の深い光圀という人物を描いた作品としての本書の性質を物語るものであり、物語の背景を構築するに役立っているのでしょう。

本書で描かれている水戸光圀は、テレビドラマでよくある黄門様ではありません。大日本史を編纂し、名君と謳われた光圀像です。「義」に重きを置き、兄がありながら自分が世継ぎとなったことについて、常に「なんで、おれなんだ」という問いかけを持ち続けている光圀なのです。

歴史小説である本書も、他の多くの物語がそうであるように、虚実ないまぜにした物語になっています。冒頭での藤井紋太夫が殺されることも史実であるようで、講談などでは光圀失脚を図る柳沢吉保に内通したために殺されたなどとされているそうです( ウィキペディア : 参照 )。

ですから、物語に描かれる出来事も殆どは歴史上の事実であるのでしょうし、そこに光圀がかかわっていく部分こそが読み応えのあるところで、作者の腕の見せ所なのでしょう。



また、脇を固める登場人物たちも魅力的です。父徳川頼房や兄頼重、妻となる泰姫については勿論、特に妻の侍女の左近、親友となる林読耕斎らは彼らを主人公に一編の小説が出来そうな感じさえします。

その上、宮本武蔵や山鹿素行といった歴史上の著名人たちも配置してあり、彼らの存在の大きさが光圀に影響を与えていて、エンターテインメント小説としての魅力も増しているのです。そして、『天地明察』の安井算哲も少しだけですが登場しています。

水戸黄門に関しては山岡荘八(山岡荘八歴史文庫)や村上元三(人物文庫全三巻)などの大御所も書かれているようですが、私は読んでいないので何とも紹介のしようもありません。また、『機龍警察』の 月村了衛も『水戸黄門 天下の副編集長』という作品を発表されています。

この本は、どうも『大日本史』の編集の遅れに業を煮やした光圀が、自ら原稿を取り立てようと覚さん介さんをお供に旅立つ物語のようです。惹句には「爆笑必至、痛快時代エンターテインメント開幕! 」とありました。月村了衛という作家が光圀をどのように料理されているのか、私としてはこちらの方が気にかかります。是非読んでみましょう。

[投稿日]2017年12月10日  [最終更新日]2017年12月10日
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