辻堂 魁

イラスト1

介錯人別所龍玄始末シリーズ』とは

本『介錯人別所龍玄始末シリーズ』は、牢屋敷の首打役を務めながら切腹する侍の介錯を頼まれることもある一人の侍を主人公とする時代小説です。

主人公の生業が首打役であることもあり、このシリーズ自体は決して明るい物語ではありませんが、惹き込まれて読んだ作品です。

介錯人別所龍玄始末シリーズ』の作品

介錯人別所龍玄始末シリーズ(2025年10月29日現在)

  1. 無縁坂
  2. 川烏
  1. 乱菊
  2. 玉響(たまゆら)

介錯人別所龍玄始末シリーズ』について

本『介錯人別所龍玄始末シリーズ』は、牢屋敷の首打役を務めつつも、介錯の依頼を受けることもある別所龍玄という侍を主人公とする時代小説です。

作者の辻堂魁が介錯人について書いた一文がありました。

そこでは、介錯人とは「侍が侍としての責任を全うするための切腹の介添役」だが「介錯人という職業はない」とも書いてありました( 侍が侍であるための介錯人:参照 )。

介錯には、「首の骨の関節を切る」ことや、「首の皮一枚を残すなどいくつかの作法が存在する」そうで、そのためには剣の腕の立つ者である必要があったそうです。

介錯人別所龍玄始末シリーズ』の登場人物

シリーズの主人公は、牢屋敷の首打役を務める別所龍玄という浪人者で、シリーズ登場時は二十二歳とありました。

その妻が百合という名で、勘定吟味役でしたが今は百合の兄に家督を譲って隠居の身の丸山織之助の長女でした。二十三歳の時に一度は家禄千数百石の名門の旗本に嫁ぎましたが、数ヶ月の後離縁されています。その後、百合が二十五歳で龍玄が二十歳の時に無縁坂の龍玄のもとに嫁いだものです。百合が嫁いで三年後に杏子が生まれ、シリーズ登場時この秋で三歳になるそうです。

シリーズ第一弾『無縁坂』の第一話「龍玄さん」での百合が初登場の時は二十七歳で、龍玄とは五歳の差夫婦だったそうです。

龍玄の母親は静江といい、金融の才があり小金を貸し付け相応の財を成しています。

龍玄の父は勝吉、祖父は別所弥五郎といいます。

弥五郎は、摂津高槻領の別所一門と称していただけであり、自分の父親、即ち龍玄の曾祖父については摂津高槻領永井家の家臣・別所某という以外、一切何も話そうとしなかったそうです。

以上が別所家関連の登場人物ですが、それ以外に別所家の下女として静江が「心が明るく素直なのがいい」と気に入りきめたお玉という娘がいます。

また、龍玄の一刀流の師匠である、本郷にある一刀流の道場主の大沢虎次郎がいます。

介錯人別所龍玄始末シリーズ』の感想

前に述べたように、シリーズの主人公は牢屋敷の首打役であり、時には介錯人を依頼されることもあった別所龍玄という浪人です。

ただ、龍玄の父勝吉は介錯の経験はないものの、介錯の経験がある祖父の別所弥五郎を侍として誇らしく思っており、自らがさる譜代大名家からの殿様の差料の試し斬りと鑑定の依頼を承ってからは「介錯人・別所一門」を称し始めます。

つまりは、罪人の首切り人はあくまで不浄の御用、職務ですが、武士の切腹の場での介錯は、侍の死に際しての作法に組み込まれた儀式の担い手であり、誇るべき御用だったというのです。

勝吉は自らは介錯の経験はないものの弥五郎の経験を誇っており、自分が試し切りや鑑定の依頼を請けたこともあって浪人ではあっても侍としての矜持を持っていたのでしょう。

ついでに言えば、龍玄が介錯に使う刀は肥後正国の同田貫であり、爺さまの弥五郎の代から介錯にのみ使う一刀だったそうです。

 

辻堂魁という作者の作品は、当初は悪く言えば講談調の定番のお涙頂戴的なストーリーが散見されたように思います。

しかし、大ベストセラーとなった『風の市兵衛シリーズ』を始めとして人情活劇作品を中心に、独自のタッチを確立され、私も全作品を読むようになったものです。

そして、本シリーズに至り、単なる活劇小説ではない、しっとりと読ませる作品も安定してきたように思います。

首切り人という独特の世界を描いている作品だけに、ともすれば凄惨な場面を描く必要もあるでしょう。

しかし、そこは妻の百合や娘の杏子、そして母の鈴江や下女のお玉らの龍玄の家族が大きく助けになり、物語の雰囲気を優しく、暖かなものとしているのです。

また、「侍」という存在からすれば格下に見られる「首打人」という立場を、若干ステレオタイプ的な登場人物ではありますが、うまく配置し、面白い物語として構成してあります。

これまでの活劇小説とは色合いの異なる別所龍元の物語が確立されていると思います。シリーズの存続を願いたいと思います。

 

「首斬人」と言えば、まずは山田浅右衛門の名が浮かびます。「首切り浅右衛門」などとも呼ばれていました。

ただ、別所家同様に浪人ではあっても山田浅右衛門は将軍家御腰物御試しという御用があり、一方別所家は牢屋敷の首打人だったのです。

私が「首切り浅(朝)右衛門」に接したのは、小池一夫原作、小島剛石画の『首切り朝』というコミックが最初です。

このコンビの漫画はほかにもいろいろと読みました。高名なところでは『子連れ狼』があり、山田浅右衛門はこの作品にも登場していたと思います。


 

小説でも鳥羽亮の『絆 山田浅右衛門斬日譚』など多くの作品があります。私もかつて山田浅右衛門を描いた作品を読んだ記憶はあるのですが、残念ながら作者、タイトル共に覚えていません。

山田浅右衛門といっても、その名は代々受け継がれていたようで、先に述べた小島剛石画の『首切り朝』は三代目吉継が描かれており、鳥羽亮『絆 山田浅右衛門斬日譚』は七代目吉利を主人公としているそうです。

[投稿日]2025年08月27日  [最終更新日]2025年10月29日

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