島本 理生

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文藝春秋

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なぜ娘は父親を殺さなければならなかったのか?多摩川沿いで血まみれの女子大生が逮捕された。彼女を凶行に駆り立てたものは何か?裁判を通じて明らかにされる家族の秘密とは?(「BOOK」データベースより)

本書は、第159回直木賞を受賞した長編のミステリー小説です。

本書は前半と後半とで物語の印象が全く異なります。

 

主人公は真壁由紀という臨床心理士で、父親を刺し殺したとして逮捕されている聖山環菜という二十二歳の女子大生についての本を書くように依頼されており、環菜との接見を通じて環菜のことをよく知ろうとしている人物です。

調べていくうちに、被疑者の聖山環菜は父親との間には勿論、母親との間にも問題を抱えていたことを知ります。

一方、由紀自身も母親との間に確執を抱えていました。そして、環菜の国選弁護人庵野迦葉は、由紀の夫である真壁我聞の弟であり、由紀が学生時代に付き合っていた相手でもあったのです。

こうした登場人物の関係性を前提に、それぞれの家庭の問題や親子の葛藤の様子、更には由紀と迦葉との関係などが、内心をえぐるかのように描き出してあります。

 

由紀にしても環菜にしても、自己主張が下手で流されていく人間です。そして私は、このような人物を、こだわった心象描写で描きだす物語は受け入れ難く、苦手としています。

先日読んだ 藤崎彩織の『ふたご』という作品でも環境に流され、自分を主張できない女性が描かれていましたが、どうも読んでいて苦痛すら感じてしまいました。

また、 西加奈子の『i(アイ)』という作品の場合は、「流される」という点では逆に自己主張が強いとも言えそうな人物ですが、人物の内心への切り込み方があまりにしつこすぎて受け入れ難いとまで感じまったものです。
 

 

そのことの良し悪しは分かりませんが、つまりは人間自体を描くことが主であり、物語性が従になっている作品が苦手なのでしょう。

そしてこの物語の前半にもそういう印象を持ったのです。

 

ところが、後半に入ると別な物語のように印象が変わります。それはまるで法廷小説であり、まさにミステリーの醍醐味を満喫させてくれる構造になっていました。

環菜の父親殺害の真の理由が明かされる過程では、極端に言えば物語の主人公も由紀から迦葉へと移っています。迦葉のの印象も前半の皮肉屋のとは違う、敏腕弁護士として一面が出ています。

そして、物語も意外性をもったサスペンスミステリーとして展開されるのです。

私が苦手とした前半部分も、この後半の意外性を引き立てるための構成であったようで、全体を通してやはり直木賞をとった小説なのだと納得したものでした。

 

法廷ものといえば近年では 柚月裕子の『最後の証人』などがあります。この作品は「佐方貞人シリーズ」の一巻目であり、圧倒的不利な状況にある被告人を意外な事実を提示することにより救い、かつ、事件の真実の姿を暴き出すという話であり、法廷ものでは当然のことかもしれませんが、本書に似たところもある話でした。

 

 

ほかにも 佐々木譲の『沈黙法廷』などがあります。この作品は、ある殺人事件の捜査と、その捜査を受けて為される裁判の様子を緻密に描き出した長編のミステリー小説であり、後半に真実を見出す場面として法廷場面を設けているという点では本書と同様の構造です。

 

[投稿日]2018年09月21日  [最終更新日]2018年9月21日
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