『月の影 影の海』とは
本書『月の影 影の海』は『十二国記シリーズ』の第一弾で、2012年6月に上下二巻で540頁を超える文庫本として出版された長編のファンタジー小説です。
古代中国を参考にした独特な雰囲気と、堅牢に構築された世界観を持つ世界を、主人公の女子高生が一人生き抜く物語は魅力的でした。
『月の影 影の海』の簡単なあらすじ
「お捜し申し上げました」-女子高生の陽子の許に、ケイキと名乗る男が現れ、跪く。そして海を潜り抜け、地図にない異界へと連れ去った。男とはぐれ一人彷徨う陽子は、出会う者に裏切られ、異形の獣には襲われる。なぜ異邦へ来たのか、戦わねばならないのか。怒濤のごとく押し寄せる苦難を前に、故国へ帰還を誓う少女の「生」への執着が迸る。シリーズ本編となる衝撃の第一作。(上巻 : 「BOOK」データベースより)
「わたしは、必ず、生きて帰る」-流れ着いた巧国で、容赦なく襲い来る妖魔を相手に、戦い続ける陽子。度重なる裏切りで傷ついた心を救ったのは、“半獣”楽俊との出会いだった。陽子が故国へ戻る手掛かりを求めて、雁国の王を訪ねた二人に、過酷な運命を担う真相が明かされる。全ては、途轍もない「決断」への幕開けに過ぎなかった。(下巻 : 「BOOK」データベースより)
『月の影 影の海』の感想
本書『月の影 影の海』は古代中国風の世界観を持つ異世界を舞台にした、一人の少女の冒険活劇風のファンタジーです。
主人公である女子高生の中嶋陽子は、突然ケイキと名乗る男に異世界へと連れられますが、途中ケイキとはぐれ、一人置き去りにされてしまいます。
ここがどこで、どういう所かもわからないままに放り出された陽子は、ただ我が家に帰りたいというその一心だけで、ケイキから渡されたひと振りの剣だけを抱え、生き抜いていくのです。
このシリーズは『十二国記シリーズ』の項でも書いたように、古代中国の讖緯(しんい)思想が基本にあり、また物語に登場する妖魔などの生き物は『山海経(せんがいきょう)』を参考にしているそうです。
そのため、この物語では陽子は虚海を越えてきたものとして海客と呼ばれているように、世界の成り立ちに関した事柄や、土地や人の名前などに難しい漢字が多用されていて、独特の世界観が構築されています。
また、同じ異世界ファンタジーの雄である上橋菜穂子の紡ぎ出す『鹿の王』のような物語もまた物語世界がきちんと構築されていて、読んでいて何の違和感も感じることなく物語世界に浸っていることが可能であるように、本シリーズもまた独特の世界が構築されているのです。
そして、本書『月の影 影の海』の特徴と言えば、上記の中国の古代思想を基本にしている独特な世界が舞台であることがまず一番に挙げられると思います。
四角形の世界に存在する十二の国の十二人の王と麒麟。そして、人間も麒麟も木に生り成長し、王は麒麟に選ばれ、不死の命を得るというるという不思議な世界です。
この世界で先の読めない物語が展開しているのです。
主人公の陽子が異世界で一人気丈に生き抜いていく姿が描かれていることが二番目に挙げられます。
普通の少女が、生きる、そのことためにひたすら強くなっていきます。ただ家に帰ることを信じて、死ぬことではなく、生き抜くことを選び戦って行く姿は感動的ですらあります。
その陽子の生きざまは、別な見方をすれば一級の冒険小説であり、物語も後半になるとクライマックスへ向けてひた走ることになります。
『月の影 影の海』は、そんな主人公を中心とした登場人物も様々であり、またユニークです。
まず、主人公の中嶋陽子は普通の高校生でしたが、異世界へ放り込まれ強くなっていきます。
その陽子を異世界へと導いたのは霊獣である麒麟のケイキ即ち景麒であり、陽子をこの世界へ導いたのはいいのですが、すぐにはぐれてしまいます。
その陽子を助けたのが、ネズミの姿をした半獣の楽俊であり、陽子を雁国へと連れて行ってくれます。
他にも多くの人物、妖獣が登場しますが、まずは本シリーズの物語世界の紹介を兼ねたこの物語を堪能することが先でしょう。
本書『月の影 影の海』の舞台は巧州国から雁州国へと移り、陽子がこの世界へ招かれた理由も明らかになります。そして、この世界の成り立ち、構造も順次説明されていき、読者は本シリーズの世界観に慣れ、物語世界へ取り込まれることになります。
本書のあと、巻ごとに主人公は変わり、舞台となる国もまた変化するようで、その途中でまた本書の主人公も再び登場することでしょう。
これまで読んでこなかったことを残念に思うほどに引き込まれてしまいましたが、でも、そのことはこれから続巻を読む楽しみがあるということでもあります。
ぼちぼち読み進めたいと思います。