『なんとかしなくちゃ。 青雲編 』とは
本書『なんとかしなくちゃ。 青雲編』は、2022年11月に376頁のハードカバーで刊行された長編の青春小説です。
これまでの恩田陸作品とはかなり(と言っていいと思います)異なる毛色の作品で、私の好みとはちょっと外れた印象の作品でした。
『なんとかしなくちゃ。 青雲編 』の簡単なあらすじ
「これは、梯結子の問題解決及びその調達人生の記録である。」
大阪で代々続く海産物問屋の息子を父に、東京の老舗和菓子屋の娘を母に持つ、梯結子。幼少の頃から「おもろい子やなー。才能あるなー。なんの才能かまだよう分からんけど」と父に言われ、「商売でもいけるけど、商売にとどまらない、えらいおっきいこと、やりそうや」と祖母に期待されていた。その彼女の融通無碍な人生が、いまここに始まるーー。(内容紹介(出版社より))
『なんとかしなくちゃ。 青雲編 』の感想
本書『なんとかしなくちゃ。 青雲編 』は、著者自身が「梯結子の問題解決及びその調達人生の記録」と記しているように、一人の女主人公梯結子の成長の記録を描いた小説です。
一言で言えば、本書はこれまでの恩田陸の作品とは異なる傾向を持つ物語であり、残念ながら私の好みではない作品でした。
これまでの恩田陸作品は、例えば直木賞と本屋大賞とを同時受賞した『蜜蜂と遠雷』という音楽作品や、『ネクロポリス』のようなホラー作品でのイマジネーション豊かな作品が主だったように思えます。
ところが、本書『なんとかしなくちゃ。 青雲編 』は、主人公の成長を語りながらも近所の砂場の混み具合の変化を原因から突き詰めて解消したり、友達の間の誕生日会に参加する余裕のない友達の問題を一気に解決したりと横道へのそれ具合が半端ないのです。
ただ、砂場問題や誕生日会問題などはまだ主人公の分析力、調整力を示しつつ、その解決方法もまた読者の関心の内にあると言えないこともないでしょう。
しかしながら、主人公が大学で加入した城郭愛好研究会で行われた、八王子城など実在した城の成り立ちから個々の武将まで調べ挙げた上で仮想の戦いを展開する攻防のシミュレーションは、単なる道草の域を超えています。
申し訳ないのですが恩田陸のこの手の作品に時代小説の醍醐味は求めていないのです。
たしかに、本書には作者恩田陸本人が「私」として登場し、この物語の裏話などを語り出したりといつもの恩田作品とは違うことは分かります。
しかし、主人公の生涯を描こうとするこの作品において、戦国時代の城をめぐる攻防戦の検証についての文章を読もうはならないのです。
さらに著者本人が登場するという流れは、最終的に物語も最終盤に突然「おわび、なのである。」と作者本人が割り込んできて、の結末は非常に駆け足での紹介となってしまっています。
登場人物も主人公の梯結子の人生を大学卒業まで駆け足で追いかけているので多数に上り、全部を紹介することもできませんし、そもそも、紹介することにあまり意味が無いように思えます。
あらすじにしても、一人の女性の一代記というには内容が伴っていないように感じてなりません。
繰り返しますが、本書は私の好みとはかなり異なる物語となっており、その印象の他に語るべきことはない、というのが本当のところであって、残念な作品という他ありません。