『夜果つるところ』とは
本書『夜果つるところ』は、2023年6月に283頁のハードカバーで集英社から刊行された長編の幻想小説です。
単純に本書だけを見た場合、何とも評しにくいと感じた作品で、よく分からなかったというのが正直な感想です。
『夜果つるところ』の簡単なあらすじ
執筆期間15年のミステリ・ロマン大作『鈍色幻視行』の核となる小説、完全単行本化。
「本格的にメタフィクションをやってみたい」という著者渾身の挑戦がここに結実…!遊廓「墜月荘」で暮らす「私」には、三人の母がいる。日がな鳥籠を眺める産みの母・和江。身の回りのことを教えてくれる育ての母・莢子。無表情で帳場に立つ名義上の母・文子。ある時、「私」は館に出入りする男たちの宴会に迷い込む。着流しの笹野、背広を着た子爵、軍服の久我原。なぜか彼らに近しさを感じる「私」。だがそれは、夥しい血が流れる惨劇の始まりで……。
謎多き作家「飯合梓」によって執筆された、幻の一冊。
『鈍色幻視行』の登場人物たちの心を捉えて離さない、美しくも惨烈な幻想譚。(内容紹介(出版社より))
『夜果つるところ』の感想
本書『夜果つるところ』は、王様のブランチでも紹介があった『鈍色幻視行』を読もうと思っていたところ、Amazonで『鈍色幻視行』の核となる小説だという紹介があったため読んでみようと思った作品です。
ところが、『夜のピクニック』や『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎文庫 全三巻)などのような恩田陸の作品をイメージしていたため、読み始めは何とも理解しがたい内容の作品であったので戸惑ったというのが正直なところです。
というのも、本書はいわゆる幻想的な小説であり、これまで読んだ恩田陸の作品とはかなり印象が違っていたのです。
私が読んだ恩田陸の作品の中では『ネクロポリス』がホラーチックであるところから一番近い作品と言えるかもしれません。
ただ、明確にホラーと呼べる作品でもなく、幻想的・頽廃的な雰囲気をもった作品だということでゴシック調の小説だということはできると思います。
主人公の名前年齢も明かされないままに、ただ空っぽの錆びた鉄製の鳥籠を眺めている和江という女がおり、たまに奇声を上げるその女を怒鳴りつける莢子という女が登場し、異様な雰囲気を醸し出すところから始まります。
舞台はほとんどが夜で、女たちの嬌声が聞こえる遊廓「墜月荘」で、和江と莢子と文江という三人の母親と、母親たちにまつわる人々が棲む物語が始まるのです。
先に書いたように、本書『夜果つるところ』は著者恩田陸の作品である『鈍色幻視行』という作品の中に重要なアイテムとして登場している小説を現実に書いた作品であって、『鈍色幻視行』とあわせて読むべき物語だと思われます。
そこではこの『夜果つるところ』という作品の作者は飯合梓であり、「幾度となく映像化が試みられながらも、撮影中の事故によりそれが頓挫している“呪われた”小説とされてい
」いて、本書でも飯合梓の名が作者として印刷されています。
ですから、私が「よく分からなかった」と感じたのもあながち的外れではないかもしれないとは思うのですが、幻想小説が好きな人にとっては本書単体で読んでも面白いと思われます。
というのも、本書終盤にいたり、ある程度の謎解きがなされており、これまでの伏線回収が図られていて、それまで単に流されながら読んでいた私も思わず惹き込まれてしまったからです。
私の場合は、恩田陸作品だという先入観にとらわれていたこととがかなり大きかったようです。
やはり、本書の要である『鈍色幻視行』は読んでみようと思っています。