少々毛色の変わった警察小説で、全部で八話からなる連作短編集す。ただ、各話の間には全体で一つの長編と言ってもいい程の強いつながりがあります。
本書の主人公は戸柏耕史と陶山史香ということになるのでしょうか。二人は警察学校での同期で、警察学校の時代から今でもずっと互いに勤務成績を争っていて、最終話までそれらしき関係が続いて行きます。この最終話に至るまでの時間が長いのも特徴に挙げていいかもさいれません。なにせ、第一話と最終話との間では30年の年月がたっているのですから。
この二人の他に登場してくる人物も魅力的です。本書に登場時は十三、四歳位である新条薫や、登場時は刑事課の巡査部長であった布施など、魅力的であると同時に、物語の進行上も重要な役割を担っています。
普通の警察小説とは異なり、例えば殺人事件のような大きな事件は起きません。各話それぞれで自転車泥棒やストーカーなどの、日々の生活の中で起きうる“小さな”事件があり、あちこちに散りばめられた伏線をもとにそれなりの解決が為されていくのです。ただ、最後にはこの作家らしいひとひねりがあります。賛否は別として、長岡弘樹という作家なりの仕掛けの一つです。
問題は少々作者の独りよがりな点が見えることです。個別の文章の中でもそうなのですが、何よりも、貼られた伏線に基づく結末の経過及び理由付けが、一読しただけでは判りにくい。一連の行動の結末をきちんと書かないままに場面が変わり、そこで、結末のニュアンスだけが語られています。
うまくいけば余韻を残す手法なのでしょうが、少しのずれが読みにくさを招いてしまいます。本書は、その悪い方へ転んでいるのです。多くのレビューで若干の読みにくさを指摘されているので、これは私だけの感想ではないようです。
先に読んだ『教場』ではあまりそういう印象は強くはなかったので本書のみの問題なのでしょう。もしかしたら他の本でも同様の書き方をされているのかもしれませんが。
この点とトリックの若干の強引さを除けば、まあ、これらが大きなことではあるのですが、そこそこに面白い作品ではあります。今後更に違う作品も読んでみたいものです。