黒川 博行

大阪府警捜査一課シリーズ

イラスト1

本書『雨に殺せば』は『大阪府警捜査一課シリーズ』二作目の320頁という長さの長編警察小説です。

前作の『二度のお別れ』に続いて第二回のサントリーミステリー大賞で佳作になった作品であり、やはり正統派のミステリー作品です。

 

大阪府警捜査一課の黒木と亀田、通称“黒マメ”コンビのもとに事件の報せが舞い込んだ。現金輸送車襲撃事件について事情聴取した銀行員が、飛び降り自殺したという。銀行員2名が射殺され約1億1千万円が奪われた襲撃事件と、死亡した銀行員の関係は?ふたりはやがて真相に近づいていくが、新たな犠牲者が出てしまい―。大阪弁での軽妙なやりとりと、重厚なハードボイルドの融合。直木賞作家が紡ぐ、傑作警察ミステリ。(「BOOK」データベースより)

 

本稿の冒頭に書いた通り、本書『雨に殺せば』は『大阪府警捜査一課シリーズ』の二作目であり、当然登場人物も「黒マメ」コンビです。

しかし、何か変だと思い前作の『二度のお別れ』を読み返しました。

すると、本書冒頭では、直属上司の“服部”から黒田に対し電話が入り、「・・・独身はよろしいな。」との台詞があるのですが、同様に黒田が電話に出るところから始まる前作で黒田は嫁さんと思われる人物の名を呼んでおり、更には直属の上司の名前は“村橋”となっていたのです。

何なのだ、と思いながらもとにかく読み終えたところ、「角川文庫版あとがき」と題した一文がありました。

そこには、前作『二度のお別れ』がサントリーミステリー大賞で佳作になったおりに、選考委員に「登場人物に華がない」と評されたので、「華がない」の意味が分からず、とりあえず黒田を独身にした、という意味のことが書いてあったのです。

作者本人も「なんと、ま、テキトーな解決であったことか。」と書いておられました。

以上のことは、本作品自体の中身には何の関係も無いことです。しかし、何も知らずに読むと上記のような疑問がわいてきますので、一応記しておきます。

 

 

本書では現金輸送車が襲われます。

港大橋のほぼ中間点、橋を登り切ったところに現金輸送車が停車していたのですが、よく見ると運転席と助手席の男二人ともに射殺されていました。

その後の捜査の中で、事情聴取された銀行員が飛び降り自殺をするなど、事件は混とんとしてきます。

現金輸送車は何故橋のうえに停まっていたのか。

銀行員はなぜ自殺したのか、

川添の未亡人が言った「ミムロ」と名乗る電話の人物は何者なのか。

そして、本書でもやは亀田の奇抜な推理が解決のきっかけを作るのです。

 

本書では銀行がかなりの悪役になっており、歩積・両建預金などの拘束預金の話が問題解決に大きな役割を果たします。

そこで、黒マメコンビは知能、経済犯罪担当の捜査二課の岡崎部長刑事と共に捜査をすることになります。

自殺した川添は、拘束預金を要求した相手の「碧水画廊」から訴えられそうになっていたというのです。

ここで拘束預金とは、歩積、両建預金のことであり、手形割引や貸付の際に、融資した金の一部を預金させることを言うそうです。(コトバンク : 参照)

 

本書は、こうした銀行の横暴を暴き出すとともに、絵画の世界の仕組みなども織り込んでいます。それも、黒川作品の特徴である詳細な調査に裏付けられた緻密な描写で描き出されているのです。

そして、前作以上に謎解きに重きが置かれているようであり、黒マメコンビの軽妙な掛け合いと共に、読みごたえのあるミステリーとして面白く読むことができた作品でした。

 

なお、本書『雨に殺せば』の「解説」は鈴木沓子氏が書いておられますが、下記サイトにぞの全文が掲載されています。

[投稿日]2020年11月17日  [最終更新日]2024年3月31日

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黒川博行くろかわひろゆきは、危険な作家だと思う。読み始めると止まらなくなる中毒性はもちろん、最前線の犯罪や不正を取材する嗅覚と胆力、そして事件を人間の目線で伝える筆力。

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