本書『二度のお別れ』は『大阪府警捜査一課シリーズ』の一作目の長編(214頁)の警察小説です。
第一回サントリーミステリー大賞で佳作になった作品であり、疫病神シリーズから黒川作品に入った私には意外ともいえる正統派の長編のミステリーでした。
三協銀行新大阪支店で強盗事件が発生。犯人は現金約400万円を奪い、客のひとりを拳銃で撃って人質として連れ去った。大阪府警捜査一課が緊急捜査を開始するや否や、身代金1億円を要求する脅迫状が届く。「オレワイマオコツテマス―」。脅迫状には切断された指が同封されていた。刑事の黒田は、相棒の“マメちゃん”こと亀田刑事とともに、知能犯との駆け引きに挑む。『破門』の直木賞作家のデビュー作にして圧巻の警察ミステリ。(「BOOK」データベースより)
本書『二度のお別れ』は、大阪府警捜査一課に所属する黒田憲造と亀田淳也の「黒マメコンビ」を主人公とする、正統派のミステリーです。
とはいえ、黒川作品の特徴の一つである大阪弁での軽妙な会話は既に描かれています。
つまり、亀田淳也刑事はその体型からくる「豆狸」と「亀田」とから「マメダ」と呼ばれていて、黒田とマメダの「黒マメ」コンビの会話がユーモラスなのです。
本書は1984年に出版されているので時代の古さを感じるところは否めません。
それでも、後の黒川作品につながるユーモアあふれる会話を基本としながら、捜査に当たる二人の刑事のコンビの物語は楽しく読むことができました。
黒さんこと黒田は三十代で、本書の視点の持ち主です。連日の捜査に帰宅もできず、五歳の娘ともなかなか会えないでいます。
マメちゃんこと亀田は二十代で、「色黒で童顔、背が低くてコロコロとした体形の持ち主。陽気な性格だが、マシンガントークを炸裂させ、時には奇抜とも思える持論も展開
」します。
そして、ミステリーの実質的な探偵役はマメちゃんです。いつも意外性に富んだ発想をしていながら、その発想が真実を見抜いていることがあります。
そのマメちゃんの意見について疑惑を抱きながらも受け入れ、その推論を前提に捜査を進める黒田です。
本書『二度のお別れ』においても黒田は「マメちゃんの推理は、私の思考範囲をはるかに超えていた」といいながらも、マメちゃんの推理に基づいて証拠を集めに走ります。
その推理の結果、犯人に振り回されながらも真実にたどり着くのです。
ただ、京都新聞記者の行司千絵氏による本書『二度のお別れ』の「解説」に作者の言葉としてあるように、本書での警察の描き方は間違っているそうです。
つまり、捜査本部で組まれる捜査員のコンビは所轄と本部それぞれの捜査員が組むことになっていること、これほどの事件で捜査一課のみの捜査本部ということはあり得ないこと、結局捜査本部での黒マメというコンビはあり得ないこと、などが指摘してありました。
そうした指摘はありながらも、私個人は読んでいる途中ではそうした事実には気付かず、それなりの面白さを感じながら読み進めていたのです。
私の不注意もありますが、それほどに本作品が面白く、デビュー作という印象はありませんでした。
しかしながら結末は違和感がありました。種明かしがあのようなことでいいのだろうかという疑問です。
そのことについても、「解説」の中で作者による告白があり、納得(?)したものです。
ともあれ、ミステリーとして水準以上の面白さを持っていて、なにより今の黒川作品につながる会話の面白さを堪能できる作品だったと思います。
なお、本書『二度のお別れ』の「解説」は京都新聞記者の行司千絵氏が書いておられますが、下記サイトにその全文が掲載されています。