長年離れて暮らしていた穏蔵が、音羽の顔役・甚五郎の身内になって一月足らず、倅との微妙な間合いに、いまだ戸惑う、付添い屋稼業の秋月六平太。ある夜、仕事の帰り道で鉢合わせた賊を斬り伏せて以来、謎の刺客に襲われはじめる。きな臭さが漂う中、六平太は日本橋の箔屋から依頼を受け、千住の百姓家で暮らす幸七のもとへ、娘のお糸を送り届けることに。ひとり宿に泊っていた六平太だったが、ふと、お糸の父・新左衛門の「なんとしても娘を連れ帰って下さい」という一言が思い浮かび、急ぎ表へ飛び出した。嫌な胸騒ぎが…。王道の人情時代劇第十二弾!(「BOOK」データベースより)
付添い屋六平太シリーズの第十二弾です。
第一話 負の刻印
六平太は、行きつけの飯屋・吾作で、包丁鍛冶の政三と知り合った。吾作の主・菊次によれば、政三は三年前から雑司ヶ谷の鍛冶屋で働いているというが、詳しい身元は分からない。その政三に、殺意を向ける青年が現れた。六平太は音羽の顔役・甚五郎に呼び出され……。
第二話 夜盗斬り
ある夜、箱崎町で逃走中の盗賊一味と出くわし、一人を斬り伏せた六平太。襲われた鰹節問屋を調べた同心・新九郎によれば、数年前から関八州取締出役が行方を追っている、行田の蓮兵衛の手口と似ているらしい。数日後、謎の刺客に襲われた六平太は?
第三話 裏の顔
六平太は、根津に住む高名な絵師・仙谷透水に付添いを頼まれた。破門した男・相馬林太郎につけ狙われていたのだ。どうやら破門には、女弟子の川路露風が関わっていると見え――。そして透水には絵師のほかに、なんと、もうひとつの意外な顔があった!?
第四話 逢引き娘
日本橋に建つ箔屋の娘・お糸の付添いを請けた六平太は、千住へ足を向けた。お糸を幼馴染の幸七に会わせるためだった。翌朝早く、逃げ出そうとするふたりを止めた六平太が事情を聞くと、幸七が江戸払いになり、夫婦になれなくなったとお糸が訴え……。
本書での六平太はあまり大きな事件はありません。平凡な日常が、淡々と過ぎていく印象です。
そうした中、実は六平太の倅で今年十五歳になる穏蔵が、音羽の顔役である毘沙門の甚五郎のもとで皆に可愛がられながらもまっすぐと育っている様子が随所で描かれているのは、読んでいて心地よいものです。
もちろん、一時は身を隠していた髪結いのおりきとの仲も何の変わったこともありません。
付き添い屋の仕事も順調で、相も変わらずに依頼人の人生が横道にそれないように手を貸している六平太であり、まさに人情小説ここにありという仕上がりになっています。
ただ、町中で盗賊一味と出くわし、その一人を斬り伏せたことが気になる事件ではあります。この事件と、日々の暮らしの中で六平太が何者かに襲われることが続いたことが関係があるのかは何も書いてありません。
また六平太は、前巻から登場してきた新たな隣人である弥左衛門が、細かなことで長屋の住人に真実とは異なることを告げていることに気が付き、妙に気になっています。
今後の展開はこの弥左衛門が一つの柱となるのかもしれません。
とはいえ、本シリーズも順調に進んでいるようです。
今後どのように展開するかは分かりませんが、本シリーズを追いかけたいと思っています。