今年の1月16日に左目の緑内障の手術のために入院をしましたが、今回は右目の緑内障の手術のために入院、手術をしてきました。
2020年4月15日に退院しましたが、今回は新型コロナ騒動のために大学病院の図書室も閉鎖されており、家族の面会も禁止と、大変な入院となりました。
警視庁刑事総務課に勤める大友鉄は、息子と二人暮らし。捜査一課に在籍していたが、育児との両立のため異動を志願して二年が経った。そこに、銀行員の息子が誘拐される事件が発生。元上司の福原は彼のある能力を生かすべく、特捜本部に彼を投入するが…。堂場警察小説史上、最も刑事らしくない刑事が登場する書き下ろし小説。
惹句によれば「堂場警察小説史上、最も刑事らしくない刑事が登場する」長編の警察小説です。
さすがに物語巧者の堂場瞬一らしい、シリーズの他の小説も全部を読んでみたいと思うほどに惹き込まれて読んだ小説でした。
主人公の大友鉄は、元は警視庁刑事部捜査一課に在籍していたものの、今では小学二年生の息子優斗の子育てのために刑事総務課に勤務する男です。
妻に死なれ、自分の手で子供を育てようと頑張っていますが、大友の捜査一課時代の上司であり、現在は刑事部特別指導官という地位にある福原聡介の期待を背負いつつ、幼児誘拐事件の現場へと応援に入ることになります。
そうしたことは、結局は息子のために義理の母親の矢島聖子の手を借りなければならないことを意味します。ただ、その事態を嬉しく思っている自分がいることも認めざるを得ないのです。
そんな子育てに奮闘している主人公ですが、もちろん本書『アナザーフェイス』が警察小説としての面白さを十分に備えていることを認めた上での話です。
主人公大友鉄はひとりの捜査員として誘拐された子供の家へ行き、パニックに陥っている両親の応対をその人当たりの良さからうまくこなします。
また、誘拐犯の捜査の現場に駆り出され、現金受け渡しの際の張り込みで振り回される警察の一員として走り回ります。
捜査官として、捜査の過程で感じた違和感などを手掛かりに本事件の実態を解明していく姿は、警察小説の醍醐味をもたらしてくれる作品でもあります。
たしかに、惹句が言うように「堂場警察小説史上、最も刑事らしくない」刑事かもしれませんが、自分の感覚をもとに足で情報を稼ぎ、地道に事件の真相に迫っていくその様子はまさに警察小説の王道を行っていると言えます。
惹句で「刑事らしくない」というのは自分の生活を子育てを主軸に考えている男、という意味で言われただけでしょう。
主人公の実態は切れ者の刑事であり、その捜査手腕を十分に発揮していく物語でもあり、まさに警察小説です。
物語の要素として主人公の私的な部分を表に出している、それは家族であったり子育てかもしれませんが、プライベートな部分で思い悩む主人公という意味では今野敏の『隠蔽捜査シリーズ』の主人公もそうです。
特にシリーズの第一巻目の『隠蔽捜査』では、未だ大森署署長に飛ばされる前の竜崎伸也警視長の姿が描かれていますが、そこでは竜崎の息子の邦彦が事件に絡んできます。
この第一巻のみならず、シリーズを通して妻冴子ら家族との姿も描かれていて、それもまたシリーズの魅力の一つになっていると思われます。
また、吉川英梨の描く女性秘匿捜査官・原麻希シリーズもまた主人公の女性刑事の活躍と、その家庭の様子とが描かれています。
ここでも主人公原麻希の子らや夫がストーリーにからんだ展開も見られたり、一人の親としての原麻希の悩みなどが描かれています。
以上の他にも主人公の刑事としての活動と家庭との板挟みになって悩むという姿が描かれている作品は少なくないと思われます。そういう意味では、本書の主人公大友鉄の存在は警察小説としては珍しくは無いと思われます。
ただ、大友鉄という人間的な魅力という点では別です。運動神経は無いものの、演劇の経験者であるためか人のふところに入っていく能力がずば抜けていて、情報収集の上で非常な武器となっているのです。
そうした主人公の活躍する本シリーズは、多分前作を読み通すことになると思われます。