リーグ戦四連覇を目指す強豪・城陽大ラグビー部が初戦に大勝した夜、監督が急死。チームはヘッドコーチから昇格した七瀬に引き継がれた。彼は従来の城陽ラグビーと相反する戦術を試みるが、亡き監督の息子でキャプテンの進藤は反発。OBも介入し、チーム内に不協和音が。新たな戦術にこだわる七瀬の真意とは。そして、最後に栄冠をつかむのは誰か!?(「BOOK」データベースより)
スポーツ小説の第一人者だといえる堂場瞬一がラグビーをテーマに描いた長編小説です。
ヘッドコーチの七瀬は、リーグ戦の途中で急死した進藤監督のあとを継ぐことになります。
現在の城陽大ラグビー部は、フォワードの突進力こそ鍵であり、現チームのキャプテンで進藤前監督の息子である進藤はその戦術こそ進藤前監督の意思だと信じて疑いません。
しかし七瀬は選手自身が自分の頭で考えてその場でゲームメイクをする、それこそが自分の高校時代の恩師だった進藤前監督の意思だと信じていました。
理不尽なOBたちの圧力や、前監督の亡霊に縛られているように思える選手たちとの壁に拒まれ、なかなか自分の意思を実行できずにいた七瀬ですが、リーグ戦もあと数試合を残すまでになっていました。
本書は、この七瀬と進藤現キャプテンとの対立を中心に、現在のチームがどのように変貌していくかを描いてあります。
そして、試合の進め方が問題になっているのですから、当然ラグビーの試合の様子を描くことになります。ラグビーというあまりルールも知られていないスポーツを紹介しながらの描写ではありますが、蹴り上げられたボールを確保すべく飛び込む選手の恐怖感やぶつかりう肉体とその痛みなどが実に真に迫っているのです。
スポーツ小説である以上、クライマックスとなる試合の描写などは一番の見せどころであり、それは陸上でも野球でも変わりません。
ただ、ラグビーの場合一般にルールが知られていないこともあり、更にはやはり道具を使わない肉体の闘いであるチームプレイという特殊性から、その描写は困難だっただろう思います。
その壁を超えたところで描き出してある本書の描写は見事です。
先般読んだこの作者の『二度目のノーサイド』という作品よりもより、ラグビーというスポーツそのものを描いてある小説といえます。
池井戸潤の経済小説が人気です。その作品の要は『陸王』にしろ『下町ロケット』にしろ、主人公による胸のすく終盤の逆転劇にあります。思いもよらない反撃により敵をたたきつぶし凱歌を挙げるのです。
本書も同様のカタルシスがあります。ただ、本書では勝負の結果は二次的です。結果はどうあれ、悔いのない戦い方をしたという事実のもたらす爽快感は明確に残り、感動の余韻に浸ることができます。
ラグビーの試合をそう何度も描くことができるとは思えません。仮に描いたとしても新たな仕掛けを用意する必要はあるでしょう。でなければ本書のような試合の感動は描けないと思います。
ということは本書のような小説は最早読めないのかもしれません。再度の機会を待ちたいと願うばかりです。