新野 剛士

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講談社

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レイプ・スキャンダルで引退したお笑い芸人・笠原雄二。今は孤独に生きる彼を、元相方の立川誠が五年ぶりに訪ねてくる。だが直後、立川は失踪、かつてスキャンダルを書き立てた記者が殺された。いわれなき殺人容疑を晴らすため、笠原は自らの過去に立ち向かう。TV・芸能界を舞台に描く江戸川乱歩賞受賞作。(「BOOK」データベースより)

 

今は引退しているかつての芸人が、行方不明になったかつての相方を探し、過去の自分に向き合う姿を描いた、1999年の第45回江戸川乱歩賞を受賞したハードボイルドタッチの長編ミステリ小説です。

 

かつてレイプスキャンダルで芸能界を辞めざるを得なくなった芸人笠原雄二のもとを、元の相方の立川誠が訪ねてきた。

しかし、そのまま立川の行方は分からなくなり、今度はかつて笠原のスキャンダルを暴いた記者の片倉義昭が殺されるという事件が起きる。

笠原は行方不明になった立川を探すため、また自らに降りかかってきた記者殺しの疑いを晴らすためにも立川の行方を捜すのだった。

 

久しぶりに小気味のいい文章に出逢った印象でした。短文を重ね、リズミカルに繰り出される文章は私の感覚に合致するものでした。

というのも、日本のハードボイルド小説の第一人者の一人である『飢えて狼』などの作品で知られる 志水辰夫を思い出させるタッチだったのです。

ただ、 志水辰夫の文章は「シミタツ節」といわれるほどに情感があるのですが、本書の文章にそこまでのものは感じませんでした。

とはいえ、主人公の心象を追いかける場面などは読み手の気持ちに迫るものもあったと思います。

 

 

「猫は目だけを動かし、視線をよこした。」という文章から本書は始まります。本人の「格好いい小説を書きたい」という思いはかなり実現されていると私は思ったのですが、どうでしょう。

この一文で私の本書への期待は増し、そして、読み終えてからもこの作者に対する好感度は変わりませんでした。

 

ただ、ミステリーとしての本作品を見た場合、少々ストーリーをひねりすぎな印象と、設けられた動機が犯行に至るには弱すぎるのではないかという若干の危惧はあります。

読後に江戸川乱歩賞での選評を読んでみると、選者も同様の印象を持った人がいたようで、素人の私が思うことなので文章のプロは当然指摘するだろうと思ったものです。

とはいえ、『八月のマルクス』というタイトルに隠された意味など、素人ながらに感心したものです。

 

作者の 新野剛士が、本書『八月のマルクス』を書き上げたのはホームレス生活をしている最中だったそうです。

会社を失踪中に何か身につけようと江戸川乱歩賞を目指し、三度目の応募の本書『八月のマルクス』で受賞したと言うのですから、そもそもの地力があったのでしょう。

そのホームレス中に読んだ本が 藤原伊織の『テロリストのパラソル』などのの作品であり、先に述べた 志水辰夫だったそうです( 作家の読書道 : 参照 )。

 

 

共に私の大好きな作家であり、彼らを参考にした 新野剛士の作品が私の好みに合致するのは当然のことだったのです。

 

全体的に本書の持つ雰囲気が私の好みであり、他の作品も是非読んでみたいと思う作家さんでした。

[投稿日]2019年07月31日  [最終更新日]2019年7月31日
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