『キングダム』とは
本書『キングダム』は2015年8月に幻冬舎からハードカバーで刊行され、2018年9月に幻冬舎文庫から597頁の文庫として出版された、長編の冒険小説です。
『キングダム』の簡単なあらすじ
岸川昇は、リストラにあい失業中。偶然再会した中学の同級生、真嶋は「武蔵野連合」のナンバー2になっていた。真嶋に誘われ行った六本木のクラブでは有名人たちが酒と暴力と女に塗れ…。そんな中、泥酔し暴れる俳優に真嶋が「自分で顔をナイフで切れ」と迫るー。絶叫と嬌声と怒号。欲望を呑み込み巨大化するキングダム。頂点に君臨する真嶋は何者か。(「BOOK」データベースより)
組対四課所属の高橋剛宏は暴力団員の平田則之の殺害事件を担当していた。しかし、平田は別件の増田健治殺害の被疑者でもあったのだが暴力団関連での動きを見出せないでいた。
そこに、相方の植草がネットで半グレ集団「武蔵野連合」のナンバー2である真嶋貴士という男の情報を見つけてきた。
その真嶋は、偶然に中学時代の同級生である岸川昇と出会い、自分が開催する「フリーライド」のパーティーに岸川を誘うのだった。
『キングダム』の感想
本書『キングダム』は、半グレ集団「武蔵野連合」のナンバー2の真嶋という男と、その中学時代の同級生の岸川という二人の生き方を中心に描いた長編のピカレスク小説です。
登場人物としては、主人公として「武蔵野連合」と呼ばれる集団のナンバー2の真嶋貴士を中心的な主人公として、真嶋の中学時代の同級生の岸川昇が二次的に描かれます。
また真嶋を追及する刑事として警視庁組織犯罪対策第四課の高橋剛宏がおり、モデルになろうとする高橋の娘の月子の人生が絡んでくるのです。
これら四人の視点が入れ代わり話は進みます。
他に真嶋の後ろ盾である夷能会の松中や、松中の知り合いの講壬会の鷲見というヤクザや、真嶋の仲間である日枝や本間といった脇役が登場します。
「武蔵野連合」のナンバー2であり実質的な支配者である真嶋は、暴力団夷能会の松中の力を背景に振り込め詐欺や闇金などで強大な資金力を有していました。
かつては真嶋のことを「お前」と呼び、真嶋は「岸川君」と呼ばねばならなかった筈でしたが、今は真嶋が岸川と呼び捨てにしてもそのことを指摘できない自分に気付きます。
リストラにあい失業中の身の岸川は、「武蔵野連合」のナンバー2だという真嶋の現在の姿を知り強烈な嫉妬を覚えます。
一方、警察は「武蔵野連合」などの半グレ集団の壊滅を目指し捜査を始めており、その中心にいると目されている真嶋の動向にひそかに関心を持っていたのでした。
近年「半グレ」という言葉を耳にするようになりました。
半グレは暴走族あがりの者が多く、暴力団には属さない。そのため彼らには暴力団対策法も暴力団排除条例も適用されない。法的には逮捕、起訴するにも一般人と同じ扱いになる。
有効な法規制を受けない状況
のもと、違法行為を繰り返してる存在のようです。
本書『キングダム』は、そうした「半グレ集団」のリーダーを主人公に、彼らの「振り込め詐欺」や「闇金融」、「資金洗浄」などによる集金力と暴力を背景に、暴力団さえも恐れずに更なる力を得ていく姿を描いています。
ここで描かれていることは勿論虚構であり、エンターテイメントとしての小説です。しかし、現実に似たような事件があり、そうした事件をモデルに書かれており、単なる虚構と切り捨てることもできない怖さがあります。
でも、エンターテイメント小説としては、そこそこに面白く読みました。
ただ、岸川の存在が薄く、彼を登場させた意味がよく分からなかったのも事実です。
また、全体的にメリハリが今一つで、平板な印象だったのは残念でした。
真嶋貴士という人物像はよく書き込まれていたように思います。存在感があるかは別で、ここまで無軌道に生きられるものか、は疑問ではありました。
とはいえ、こうした裏社会を描いた小説としてまず思い出すのは馳星周の『不夜城』という作品です。
第15回日本冒険小説協会大賞大賞や第18回吉川英治文学新人賞を受賞している作品で、中国人の勢力争いが激化している、不夜城と言われる日本一の歓楽街新宿の街を舞台に、日本と台湾のハーフ・劉健一の姿を描き出しています。
また、若者の暴力、暴走という観点から見ると『このミステリーがすごい!』大賞銀賞・読者賞受賞作の東山彰良の『逃亡作法』という作品もあります。しかし、この作品はまさにバイオレンス小説と言うべきであり、本書とはかなり傾向が違います。
いろいろ不満は書いてきましたが、エンターテイメント小説としての面白さは否定できません。人によっては受け入れられないという人もいるかもしれませんが、ピカレスク小説としてそれなりの面白さを持っていることは否定できないと思います。
本書『キングダム』には続編が出ています。『ヘブン』という作品で、できるだけ早く読んでみたいと思います。