小野 不由美

十二国記シリーズ

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東の海神 西の滄海』とは

 

本書『東の海神 西の滄海』は『十二国記シリーズ』の第三弾で、まず1994年6月に講談社X文庫から発刊され、また2012年12月には新潮文庫から養老孟司氏の解説まで入れて348頁で刊行された長編のファンタジー小説です。

雁国の延王尚隆と延麒六太の物語であり、幼い麒麟が、自分が何ものであるかも分からないでいるところから王を選び、その後も自分の決断の是非に悩む姿が描かれています。

 

東の海神 西の滄海』の簡単なあらすじ

 

延王尚隆と延麒六太が誓約を交わし、雁国に新王が即位して二十年。先王の圧政で荒廃した国は平穏を取り戻しつつある。そんな折、尚隆の政策に異を唱える者が、六太を拉致し謀反を起こす。望みは国家の平和か玉座の簒奪かー二人の男の理想は、はたしてどちらが民を安寧に導くのか。そして、血の穢れを忌み嫌う麒麟を巻き込んた争乱の行方は。(「BOOK」データベースより)

 

ひとりは蓬莱国の少年の話であり、応仁の乱の昔、父親に山中に捨てられ死にかけていた少年は、麒麟であるとして助けられ常世国で暮らすことになる。

ひとりは常世国の少年の話であって、やはり母親に捨てられさまよい見知らぬ里の男に崖から突き落とされたものの妖獣に庇護されでいた。

それから二十年が経ち、一人は麒麟として王を探し出し、一人はある男に仕えることになり、異なった立場で出会うこととなる。

 

東の海神 西の滄海』の感想

 

本書『東の海神 西の滄海』は雁国再興の物語です。

応仁の乱の頃、親に捨てられ死にかけた六太が自分が麒麟であることを知り、やはり蓬莱で暮らしていた小松尚隆という男を王として選び、この二人を中心に荒廃した雁国を立て直す新たな国造りの物語です。

ちなみに、ここで蓬莱国とは私たちが済むこの世界のことであり、常世国とは本『十二国記シリーズ』の舞台となる世界のことです。

 

延麒である六太は親に捨てられ死にかけていたときに常世国から迎えが来て麒麟として生きていたのですが、蓬莱で村上水軍に滅ぼされそうになっている小松氏の跡継ぎである尚隆を王として選び出します。

一方常世国では、六太に更夜という名前を貰った、六太と同じように親に捨てられ妖獣に育てられていた少年は、雁国の斡由に恩を感じ斡由に忠誠を尽くしていました。

本書『東の海神 西の滄海』自体はこの二人の話から始まっているのですが、この物語の実際は、麒麟である六太と六太が選んだ延王尚隆との国造りの物語です。

尚隆と六太とが、延王と延麒として先王の梟王の圧政のため荒れ果ててしまっている雁国を緑豊かな国として再生する姿が描かれています。

 

この新たな国造りを目指す二人の前に立ちふさがるのが、雁国元州候の倅である斡由と、彼に優しくしてもらい心酔している更夜というコンビです。

斡由の決起は、未だ雁国の一地方である元州の治水等に手を付けることもできないでいる延王の政を糺すためのものであり、間違ったことは言っていないように思えます。

その斡由のために必死で働く更夜もまた純粋です。

ちなみに、この更夜は本シリーズのあとの物語の中で意外な形で登場してきます。名前が“更夜”ですので多分同一人物と考えていいと思います。

 

六太は、貧しく苦労しかなかった自分の幼いころのような目にあう民を無くすために働いているのですが、政というものはなかなかに思い通りには動かず、苦労しています。

自分が尚隆を王として選んだのは間違いではなかったか、常に悩んでいる姿は麒麟としての定番の悩みなのかもしれません。

それだけ国を治めるということは難しく、ましてや梟王が荒らしまくった後の雁国の建て直しは困難を極めているのです。

 

こうして本書『東の海神 西の滄海』は、二人の国造りの話として、「国」とは何か、などの問題を提起しながら展開していきます。

そんな中で、「王はしょせん、国を亡ぼすためにある」という六太の言葉は衝撃的です。

また、民の主は民自身だけでいいという六太の考えは、現在の世界が共通の価値として認める民主主義を言い表しているようでもあります。

私達の社会体制の一つである民主主義に対して、常世国の王制はまさに対立する概念です。

そもそも、全能の神である天主が存在し、天の意志のもと麒麟による王の選定が為されるという仕組みが確立している常世国ですから、民の主は民という考えは受け入れられるものではないと言えます。

そういう社会だからこそ民こそが主という考えは珍しく、また貴重であるとも言えそうです。

 

このような読み方ができる本書は、私達が生きているこの社会の体制をあらためて考察する、というきっかけにもなりそうであり、もともとは少年少女を対象とした物語であることがにわかには信じられないほどの内容を持った作品です。

物語の完成度がそれだけ高い作品だということができ、シリーズとして見ても、冒険小説、成長小説、青春小説などの様々な側面を見せてくれるシリーズでもあります。

シリーズを読み進め、巻を重ねるほどに物語の全体が丁寧に構築されているのが分かります。

一冊を読み終えると、早く次の巻を読みたいと毎回思わずにはいられないシリーズなのです。

[投稿日]2022年12月30日  [最終更新日]2022年12月30日
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