本書『キラキラ共和国』は、2018年本屋大賞の第10位となった作品で、文庫本で330頁弱の長さの長編小説です。
また、2017年本屋大賞で第4位となった小川糸の『ツバキ文具店』の続編でもあります。
亡き夫からの詫び状、憧れの文豪からのラブレター、大切な人への遺言…。祖母の跡を継ぎ、鎌倉で文具店を営む鳩子のもとに、今日も代書の依頼が舞い込みます。バーバラ婦人や男爵とのご近所付き合いも、お裾分けをしたり、七福神巡りをしたりと心地よい距離感。そんな穏やかで幸せな日々がずっと続くと思っていたけれど。『ツバキ文具店』続編。(「BOOK」データベースより)
鎌倉で代書屋を営む主人公の鳩子は、後ではミツローさんと呼ぶことになるモリカゲさんと結婚をし、QPちゃんという五歳の女の子の母親となっています。
モリカゲさんの店のこともあっていまはまだ別居生活ですが、鳩子の家の近くに店を移し、三人で鳩子の家で暮らすことになっています。
本書『キラキラ共和国』でも、ほとんど目の見えないタカヒコという男の子のお母さんに対する感謝の手紙や、交通事故で死んでしまった身勝手な夫からの謝罪の手紙が欲しいという女性の依頼、離婚したい妻と別れたくない夫との双方から頼まれてしまった代書など、前巻と同じく、色々なお客の色々な人生のお手伝いのための手紙の代書をする鳩子の姿が紹介されています。
もちろん心あたたまる話であり、感動的な挿話でもあります。しかし、今ひとつ心に迫りません。前巻を読んだ時のような胸を打つ印象はあまり無いのです。
それは、一つには前巻『ツバキ文具店』を読んだときは代書という仕事について知識が無かったため、その仕事自体に対する興味、関心が多いにあったことがあります。
加えて、本書には鳩子と先代との心の交流についての描写がほとんど無いということが大きいと思います。
若い頃には分からなかった先代の厳しさ、鳩子に対する愛情が、自分が先代と同じ仕事をするようになって初めて分かるようになり、先代の心情を思いやることができるようになった鳩子の心の動きが、読み手にはかなり印象的に伝わったように思うのです。
それが本書『キラキラ共和国』では描かれてはいない、というよりも前巻で描いた事柄を再び描くことはできないのですから、それは仕方のないことなのです。ですが、小説としては物足りなく思ってしまいます。
たしかに、今回本書『キラキラ共和国』では、新しくミツローさんの家族と鳩子との、「家族」についていやでも感じさせられる出来事が次から次へとわいて出てきます。
特に、ミツローさんの前の奥さん、QPちゃんのお母さんの面影がずっとつきまとう場面では、鳩子の心を思わずにはいられません。
でも、そうした新しい仕掛けがあるとしても、どうしても前巻の驚きはもうないのです。
残念ながら、本書の印象はそこに尽きると思います。
本書『キラキラ共和国』のポイントは、ミツローさんとQPちゃんとの新しい生活、新しい親子関係の構築にあるのでしょう。
そのことは、ミツローさんの故郷の家族と関係でも言えることですし、更には男爵とパンティーとの結婚、妊娠という出来事にも表されていると思います。
いずれにしろ、本書は本書で個々と良い小説であることは間違いありません。ただ、前巻『ツバキ文具店』で感じた強烈な印象は本書では感じなかったのです。
そうすると、善人しかおらず悪人が全く出てこない本書のような平凡な日常を描く物語は、例えば畑野智美の『ふたつの星とタイムマシン』がSFとしてのアイデアで読ませる作品であるように、何らかのプラスアルファがないと、読書にそれなりのインパクトを欲しがる私のような人間は物足りないと感じてしまうようです。