凪良 ゆう

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東京創元社

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あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい―。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。(「BOOK」データベースより)

 

誘拐犯とされた小児性愛者の男とその被害者の女の独特なありようを通して、人間同士や社会との関係性のあり方を描きだした、2020年本屋大賞にノミネートされた長編の現代小説です。

 

個人的には、読み通すことが苦痛、とさえ感じられた苦手な分野の作品でした。

しかし、本書が第41回吉川英治文学新人賞候補作や2020年本屋大賞の候補作に選ばれていることや、各種のレビューで高い評価を得ていること見ると、私の感想は普通とは異なるようです。

つまりは私の感覚は多くの人とは異なることになります。

 

でも、本書での主人公の更紗という女性やという男の描かれ方を見ていると、どうにも落ち着きません。それは彼らの他者に対する主張が、全くと言っていいほどになされていないことからくるいらだちにあると思われます。

この作者の流れるようなタッチの文章、表現力は確かに素晴らしいものだと思います。しかしながら、表現されている登場人物の心象表現は私の良しとするところではないのです。

 

これまでにも個人の内面を詳細に描写する作風の作品に対して好みではない、と書いてきました。

例えばそれは 西加奈子の『i(アイ)』という作品や、 藤崎彩織の『ふたご』という作品がそうでした。

i(アイ)』は2017年本屋大賞のノミネート作品で、自分の出自などから自分自身の存在自体に不信感を持つ女の子で、この主人公の内面を執拗に描き出す作品でした。

次の『ふたご』は第158回直木賞の候補作であり、「SEKAI NO OWARI」という人気バンドのメンバー藤崎彩織が書いた小説という点でも話題となった作品です。

この『ふたご』という作品は、主人公の夏子と一つ年上の月島という男との物語である第一部と、月島を中心としたバンドの物語である第二部とからなっています。つまりは、夏子の内心を通して表現される月島の行動と、その行動に振り回される夏子自身の姿が描かれています。

 

 

本書がこれらの作品と違うとすれば、それは作品が特定の人物の内心に拘泥するという点だけではなく、登場人物の、他者へのかかわり方の消極性の描写も加わっているということでしょうか。

他者は言葉をつくしても自分を理解してはくれない、という思いで自己主張ができなくなっていった登場人物たちの姿は、読んでいて苦痛を感じてしまいます。

 

それでも、本書で取り上げている、社会が「レッテル」を貼ることの怖さというものは否定できるものではありません。

そのことを、本書のような特殊な状況を設定した上で、レッテルを貼られた側の人間の目線で当事者の苦悩を描いているという点は見事だと思います。

私は文に恋をしていない。・・・けれど、・・・、文と一緒にいたい。・・・私と文の関係を表す適切な、世間が納得する名前はなにもない。

という更紗の思いなどはうまい表現だと感心するしかありませんでした。

主人公の感情は社会から未定義の、未だ承認されていない感情であり、他者には理解できない感情だということを端的に表現していると思います。

そして、こうした表現が多くあり、そのことは感心するしかないのです。

 

ただ、疑問に思う表現もあることはありました。例えば、

これが自由なのかと、ふと疑問がよぎった。
ぼくがここにいることにも、いないことにも、なんの意味もない。
どこにいこうが、ここに居続けようが、誰も気にしない。

という文の思いは特別なものではなく、大多数の人間が抱く思いそのもではないか、人間は他者の存在にそれほど気をとめてはいないのではないか、とも思ってしまいます。

勿論、前後の文脈を考慮することなく、この箇所だけを取り上げて論じてもあまり意味はないことなのでしょうが。

こうした疑問も含めて、私の好みではなかったのです。

 

結局は、これまでも当ブログで何度か書いてきた、良い本だとは思うけれど、私の好みとは異なる作品だった、というしかないようです。

[投稿日]2020年02月03日  [最終更新日]2020年2月3日
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