湊 かなえ

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双葉社

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「こんにちは、章子。わたしは20年後のあなたです」ある日、突然届いた一通の手紙。
送り主は未来の自分だという……。『告白』から10年、湊ワーールドの集大成!
待望の書き下ろし長編ミステリー!!(「BOOK」データベースより)

 

本書は「湊ワールドの集大成」と銘打たれた長編のミステリー小説で、2018年上期の直木三十五賞の候補となった作品です。

 

湊かなえというベストセラー作家の作品を読むのは初めてでした。

この作者の作品を原作とする「告白」と「北のカナリアたち」という映画を先に見てしまい、その重さ、暗さに原作を読む気がしなくなったのです。

「告白」では自分の生徒に対し自分の一人娘を殺したと復讐を誓う教師が、「北のカナリアたち」では夫を事故で亡くした教師が、のちに生徒たちから告白を受け真相に迫っていきます。

「告白」はそのまま『告白』という作品を、「北のカナリアたち」は短編集『往復書簡』に所収された「二十年後の宿題」を原作(原案)とした映画です。共にテーマが重く、いい映画だとは思うのですが、そのトーンの暗さにあえて原作に手を出そうとまでは思わなかったのです。

それが今回、直木賞の候補作となったことから一応は読んでみようと思い立ちました。

その結果、やはり私の好みではありませんでした。

 

 

本書では、子供同士では陰湿ないじめがあり、大人からは理不尽な暴力を受ける子供がいて、大人同士でもまたDVや騙し合いなどが描かれています。まるで人間のダークな部分を掘り起こしてあえて見せつけてくるような、どうにもついていきにくい世界がそこにはありました。

湊かなえという作家が「イヤミス」の女王と呼ばれていることは知っていました。そして「イヤミス」という言葉が「読んだ後に嫌な気分になるミステリー」という意味だということも知ってはいました。

まさにその言葉の通りで、読んでいる最中に「嫌な」感じを受けるのです。どうして本書のように読んでいることが苦しくなるような作品を書くのだろうと思いつつ読み進めるほどでした。

 

本書は「序章」のあとに「章子」という章があり、続いて「エピソードⅠ」「エピソードⅡ」「エピソードⅢ」「終章」と続きます。

「章子」の章で主人公の章子に、未来の自分からの手紙が届きます。章子はこの先に待っているつらい人生をこの手紙の文言を糧に耐え、生き抜いていくのです。

この章で紡がれた物語に続いて、文字通りエピソードとして、視点が変わりながら「章子」の章で張られた伏線が回収されていくのですが、そのそれぞれの章でも「嫌な」感じは続きます。

 

本書では異なる形の親と子の話があり、教師と生徒の話があり、男と女の話があります。そのそれぞれに痛ましい物語があり、それに加えて、子供同士のいじめが加わり、嫌な感じはさらに増していきます。

こうした悲惨な出来事をつい重ねていく意味はどこにあるのか、わかりません。ここで描かれている母親像は何を言いたいのか、私の理解の範疇外なのです。

凄惨な物語としては 平山夢明の『ダイナー』という作品があります。暴力とエロス、グロさ、そして愛までも加味された、インパクト十分の長編のエンターテインメント小説です。

この手の物語は現実を超えたところにある物語として私の理解の範囲内なのですが、本書『未来』のような作品は、現実の延長線上にある物語として直視できないのかもしれません。

 

 

湊かなえという作家の作品、確かミステリーだったはずですが、本書は普通のミステリーとは言えません。ただ、未来の自分からの手紙の存在が謎と言えば謎でしょうか。

しかしながら、小説としては未来からの手紙の存在があり得ないアイテムではない以上、この手紙の存在自体を謎というには無理があると思います。

ただ、章を変わるごとに、「章子」の章の意味が次第に明らかになるという意味ではやはりミステリーというべき作品でしょう。

 

最終的に描かれている子供たちの姿は、明るい未来を暗示すると言えるのでしょうか。個人的にはそうは捉えられず、かといって悲惨な結末とも言えず、微妙な感じのままに読み終えてしまいました。

読後で本書の評判を見ると非常に高いものが多く、私の感覚はやはりこの手の作品にはついていけないと、あらためて思うばかりの作品でした。

[投稿日]2019年03月23日  [最終更新日]2019年3月23日
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