鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。すっかり常連の賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。人々は懐かしい本に想いを込める。それらは予期せぬ人と人の絆を表出させることも。美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読みとっていく。彼女と無骨な青年店員が、その妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?絆はとても近いところにもあるのかもしれない―。これは“古書と絆”の物語(「BOOK」データベースより)
「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの第三作目です。
第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)
第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』
第三話 宮澤賢治『春と修羅』(關根書店)
エピローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)II
本書『ビブリア古書堂の事件手帖3 〜栞子さんと消えない絆〜』では、今後のこのシリーズで重要な役割を果たすことになる篠川智恵子についての情報が、噂話だったり、篠川智恵子が書いたカードであったりと様々な形で少しずつ明らかにされていきます。
篠川智恵子についての情報は、最初は智恵子に憎しみさえ抱いているようにも見える「ヒトリ書房」の井上太一郎によりもたらされます。古本業者の古本交換会で、井上が落札した筈の絶版文庫から『たんぽぽ娘』という作品が盗まれており、栞子が盗ったと決めつけてきたのです。
結局、栞子の推理で事件は解決するのですが、その時に大輔は井上から智恵子の話を聞くのでした。この話には、栞子らも古くから付き合いのある「滝野ブックス」の滝野蓮杖も登場します(第一話)。
大輔は第一巻の第三話に登場した坂口しのぶから「タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいな」本を探し絵て欲しいと頼まれます。栞子も一緒にしのぶの実家を訪ね、捜しますが見つかりません。逆に、しのぶの母親からは追いだされてしまいます。(第二話)
智恵子と同級生の玉岡聡子という女性から、盗まれた宮沢賢治の『春と修羅』という本を取り戻して欲しいと頼まれます。亡くなった父親は『春と修羅』の初版本を二冊買っていたのであり、状態の悪い本が盗まれたというのです。この蔵書の処分をめぐり聡子の兄夫婦らともめていた話を聞き、犯人を見つけ、取り戻すのでした。(第三話)
本書『ビブリア古書堂の事件手帖3 〜栞子さんと消えない絆〜』では、栞子の母親智恵子にまつわる事実が少しずつ明らかになると同時に、母親の失踪の理由などの謎は一層深まっていく印象があります。
また、プロローグとエピローグは妹の文香の目線であり、ここにも小さな秘密があります。
相変わらずに古書に関する知識が豊富であり、その知識をミステリーとして仕上げる手腕も見事なものです。その上で、本書においては「家族」の関係が主軸になっているようで、二話、三話と栞子らの活躍で家族の対話が復活していく様は、少々都合がいい感じもありますが、それはそれとして心地よいものです。
また、本書に登場する古書では『春と修羅』しか知りません。この作品は高名であり本好きな人はほとんど知っている作品でしょう。特に、宮沢賢治については第158回直木賞の受賞作となった門井慶喜『銀河鉄道の父』という作品が出たばかりでもあり、印象的でした。
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四ずれにしろ、人の死なないミステリーの典型であるミステリー小説です。それも関心のある「書籍」が対象となっているシリーズ作品なので、残りの四冊を楽しみに読みたいものです。