『付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女』は、『付添い屋六平太シリーズ』第十三弾の、文庫本で282頁の連作短編小説集です。
変わらずに読みやすく、面白さ自体は維持していますが、あまり変化を感じない話となっているようです。
『付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女』の簡単なあらすじ
浪人・秋月六平太が付添い屋として稼ぐ手当てを得てからそろそろ十年になろうとしていた。ある夜、頬被りをした男に刃物で寝床を襲われて以来、只ならぬ殺意が六平太の身辺を漂いはじめる。訝しみつつも、『飛騨屋』のお内儀・おかねの咳止め願掛けの付添いや、日本橋堀江町の湯屋『天津湯』での見張り番など、慌ただしい日々を送っていた。一方江戸では「行田の幾右衛門」一味による残忍な手口の押し込みが頻発していた。その幾右衛門の素性に心当たりを得た六平太は盗賊の捕縛に助力し始めるが…。伝説のドラマ脚本家が贈る、王道の人情時代劇十三弾!(「BOOK」データベースより)
第一話 幽霊息子
ある夜、刃物を手にした何者かに襲われた六平太。知らず知らずのうちに恨みを買ったかと思案するも、心当たりが見つからない。そんな折、音羽の顔役・甚五郎から、一人息子の穏蔵に婿養子の口がかかったと告げられる。
※ なお、この話のタイトルはAmazonには「幽霊息子」とありましたが、文庫本では「幽霊虫」とあります。そのままに載せておきます。
第二話 願掛け女
六平太に湯屋での見張りの仕事が舞い込むも、居眠りをし、盗っ人に入られてしまう。一方で、「市兵衛店」の弥左衛門の家に通う女中・お竹から、殺された弟の敵打ち成就の為、願掛けの付添いをしてほしいと依頼される。
第三話 押し込み
六月の晦日、六平太は妹の佐和と亭主の音吉たちに連れられ、橋場にある明神社に参拝に訪れていた。賑わう境界を歩いていると、背後から女の悲鳴と男の怒鳴りが聞こえ、振り返ると見覚えのある女が包丁を持って立っていた。
第四話 疫病神
六平太が足繁く通う料理屋「吾作」の料理人・菊次と、お運びのお国が所帯を持つことになった。六平太とおりきで二人の家移りを手伝っていると、佐和と伜の勝太郎が人質に取られたと知らせが届く。色めきたつ六平太は一人覚悟を決め、助けに向かう!(「内容紹介」より)
『付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女』の感想
今回の物語『妖狐の巻 願掛け女』でも、おりきとの中も含め六平太自身の暮らしぶりに特別な変化はありません。
今回の物語では、少し前から市兵衛長屋に移り住んできた弥左衛門こと行田の幾右衛門との話が中心になります。
と同時に、六平太の息子である穏蔵に養子の話が起こり、親代わりである音羽の甚兵衛や竹細工師の作蔵、養い親の豊松らが穏蔵のために奔走します。
幾右衛門が絡んだ話と穏蔵の養子の話が本書の全編を貫き、他に音羽の「吾作」の菊次とお国との話や木場の「飛騨屋」の娘登世のいかず連の話なども息抜きのように語られます。
どうもこのところこの『付添い屋・六平太シリーズ』にはあまり変化がありません。
長尺のテレビシリーズのようにその回での中心人物の活躍だけが取り上げられて、痛快時代小説のシリーズ物としての面白さがマンネリ化しているように思えます。
それは一つには、シリーズ物としては各巻での細かなエピソードの積み重ねがあるにしても、そのエピソードが現実感を欠いている場面が少なからず感じられるようになってきたことがあるのでしょう。
例えば、本書『付添い屋・六平太 妖狐の巻 願掛け女』でそのことを最も感じた個所として、お竹自身が六平太を衆人環視の中で襲い殺そうとした点です。
いくら何でも六平太の剣の腕が立つことを知っているはずのお竹が、人ごみの中を書き分けつつ六平太を殺しに来るとは設定が荒いと感じられます。
また、六平太がしくじった湯屋での盗難事件の解決にしても偶然に頼っており、あり得ない話だと思ってしまいました。
確かに、先に述べた行田の幾右衛門の登場などはそうしたマンネリを避けるための仕掛けの一つなのでしょうが、このシリーズに変化をもたらしたとまでは言えないようです。
こうした違和感が積み重なり、この物語への感情移入もしにくくなり、面白味を失ってくる、そんな危惧を感じてしまうのです。