昭和二十年、日本が滅亡に瀕していた夏。崩壊したナチスドイツからもたらされた戦利潜水艦・伊507が、男たちの、国家の運命をねじ曲げてゆく。五島列島沖に沈む特殊兵器・ローレライとはなにか。終戦という歴史の分岐点を駆け抜けた魂の記録が、この国の現在を問い直す。第22回吉川英治文学新人賞受賞。(1巻 : 「BOOK」データベースより)
この国に「あるべき終戦の形」をもたらすと言われる特殊兵器・ローレライを求めて出航した伊507。回収任務に抜擢された少年兵・折笠征人は、太平洋の魔女と恐れられたローレライの実像を知る。米軍潜水艦との息詰る死闘のさなか、深海に響き渡る魔女の歌声がもたらすのは生か死か。命の凱歌、緊迫の第2巻。(2巻 : 「BOOK」データベースより)
その日、広島は核の業火に包まれた。人類史上類を見ない大量殺戮の閃光が、日本に定められた敗北の道を歩ませ、「国家としての切腹」を目論む浅倉大佐の計画を加速させる。彼が望む「あるべき終戦の形」とは?その凄惨な真実が語られる時、伊507乗員たちは言葉を失い、そして決断を迫られた。刮目の第3巻。(3巻 : 「BOOK」データベースより)
「ローレライは、あなたが望む終戦のためには歌わない」あらゆる絶望と悲憤を乗り越え、伊507は最後の戦闘へ赴く。第三の原子爆弾投下を阻止せよ。孤立無援の状況下、乗員たちはその一戦にすべてを賭けた。そこに守るべき未来があると信じて。今、くり返す混迷の時代に捧げる「終戦」の祈り。畢生の大作、完結。(4巻 : 「BOOK」データベースより)
第二次世界大戦も末期、日本への移送中に米軍から逃れるために日本近海に投擲されたドイツの秘密兵器「ローレライ」を回収するための戦いを描く、長編の冒険小説ですた。
とにかく長い物語です。文庫本全四巻で千七百頁を超えます。
それでも、かなり面白く読みました。『亡国のイージス』でも「国家」について考えさせられましたが、本作でもまた、先の戦争を通じて国家の在り方について問いかけられています。
福井晴敏という人は、とにかくディテールにこだわる作家さんだと思われます。
登場人物も多数に上るのですが、それぞれについて人物の背景を説明し、更に舞台の背景を説明するのですから物語が長くなるのも当たり前でしょう。
凄いのは、冗長になるであろうこの長い物語を読み手の興味を惹いて飽きさせないその筆力です。山崎豊子の作品も、例えば『不毛地帯』 (新潮文庫 全五巻)のように決して上手いとは思えない文章でいながら、長大な物語を引っ張っていきますが、その感覚に似ているのでしょうか。
かように、もう少し簡潔に描写出来るのではないかと思わせる個所が少なからずあるのですが、それよりも物語を読ませる力が強いと感じさせられます。
場合によっては政治色が強くなり、読者の興を削ぎかねないテーマなのですが、エンターテインメント性が強いためかこの点も負担にはなっていないようです。
日本には珍しい骨太のスケールの大きい作品の一つだと思います。軽く読める本ではありませんので、そうした本を好みの方以外の大半は面白いと評価されるのではないでしょうか。
第二十四回吉川英治文学新人賞、第二十一回日本冒険小説協会大賞日本軍大賞を受賞した作品です。
ちなみに、本書は役所広司、妻夫木聡らの出演で映画化されています。かなり見ごたえのある作品として出来上がっていたと思います。