『結婚式を中止せよ。さもなくば、惨劇が起きる』。警備保障会社に勤める二ノ宮舜は、アダルトグッズ会社社長の義娘、風間小麦の警護を任された。社長夫妻が挙式した数時間後、同会場で花嫁が脳幹をライフルで撃ち抜かれ死亡する。式の後、小麦は舜の目をかいくぐり、義父の経営する工場に潜入しようとする。その翌朝、小麦の自宅に一発の銃弾が撃ち込まれた。江戸川乱歩賞作家入魂のボディガード・ミステリー!(「BOOK」データベースより)
本書は、二ノ宮舜というボディガードを主人公とするエンターテインメント小説ですが、この主人公は『エグゼクティブ・プロテクション』に出てきた女性ボディガード八木薔子の会社の同僚であるという設定です。つまりは、八木薔子シリーズオンスピンオフ、といったところでしょう。
本書雰囲気はどことなく大沢在昌の描くアクション小説の雰囲気を感じます。主人公がボディーガードということで、舞台の共通性を感じるからでしょうか。大沢在昌の作品世界ほどのアクション場面はないのですが、それでも本書でも発砲シーンはあり、主人公も銃器の知識はそれなりに有しています。
大沢在昌の小説に、「本名はもちろん、素性も不明な孤高のボディガード・キリ」という男を主人公とする『獣眼』という物語があります。残念ながら、ボディーガードというよりは普通のヒーローの活躍するアクション小説としての面白さはありましたが、それ以上ものではありませんでした。
ボディーガードという点では今野敏の『ボディーガード工藤兵悟シリーズ』のほうがより楽しめたかなという気はします。
ただ、ボディーガードをきちんと仕事として捉え、描き出したのは八木薔子シリーズの第二作目『エグゼクティブ・プロテクション』が一番で、仕事の内容面に至るまで緻密に描写してありました。本書は、そのスピンオフ作品として、八木薔子の物語よりもアクション性をまいたものとして描かれているのではないかと思います。
ただ、本書の場合、ボディーガードが脅迫状を出した犯人探しまで行います。本来であれば本来は警護対象者の安全を図ることが任務であり、犯人探しは警察の仕事である筈です。しかし、そこはフィクションとして許容範囲ということにしましょう。
ただ、今回の警護対象者とは偶然の出会いから始まります。小説の技法としてはあるのかもしれませんが、個人的にはこうした偶然は受け入れがたいのです。更には、高校生である警護対象者に、主人公が恋愛感情を抱くという点も受け入れにくいものでした。かりに認めるとすれば、恋愛に陥るだけの状況をきちんと描いて欲しかったと思うのです。