『君を乗せる舟』とは
本書『君を乗せる舟』は『髪結い伊三次捕物余話シリーズ』の第六弾で、2005年3月に文藝春秋から刊行され、2008年1月に文春文庫から331頁の文庫として出版された連作の人情時代小説集です。
『君を乗せる舟』の簡単なあらすじ
伊三次の上司である定廻り同心の不破友之進の嫡男、龍之介もついに元服の年となった。同心見習い・不破龍之進として出仕し、朋輩たちと「八丁堀純情派」を結成、世を騒がせる「本所無頼派」の一掃に乗り出した。その最中に訪れた龍之進の淡い初恋の顛末を描いた表題作他全六篇を収録したシリーズ第六弾。(「BOOK」データベースより)
『君を乗せる舟』について
本書『君を乗せる舟』は『髪結い伊三次捕物余話シリーズ』の第六弾の連作の人情時代小説集です。
第一話目 「妖刀」
このシリーズには珍しくオカルトチックな物語です。緑川平八郎が懇意にしている道具屋の「一風堂・越前屋」は怪談じみた話がやけに好きなのですが、その越前屋に件の刀が持ち込まれたのです。
第二話目 「小春日和」
この話はどうしようもない人間である六助の話から始まったので、やはり重い話かと思っていました。
しかし、逆に軽いユーモアを含んだ明るい話へと転換していきます。前半の六助の話は後半の話への対比のために描かれたのでしょうか。
第三話目 「八丁堀純情派」
この「八丁堀純情派」は、問題の「本所無頼派」が同じ六人組であるところから、教育掛補佐の片岡監物が「八丁堀純情派」と名付けたものです。
見習組は、龍之進や元町人から養子に入り同心見習いとなった古川喜六、そして緑川の息子で鉈五郎となった直衛らの、青春記ともいえる一編になっています。
第四話目 「おんころころ」
この話もまたこのシリーズには珍しいオカルトチックな話です。
事件のきっかけが怪談めいているというだけではなく、伊三次自身の周りでも不思議なことが巻き起こります。親の子に対する愛の深さを感じさせる話です。
第五話目 「その道 行き止まり」
「この話は、夜中に起きた火事から家族のことへと思いを馳せるようになった龍之進の話です。
あぐりと次郎衛のことを考えていた矢先、偶然出会った伊三次の弟子の九兵衛の言葉に意地を張り、入り込んでしまった行き止まりの小路が龍之進の状況をうまく現しています。
第六話目 「君を乗せる舟」
この話もまたあぐりのことで思い悩む龍之進の話で、龍之進の想いと物語の結末とが相まった哀しみに満ちた話です。龍之進の成長が垣間見える青春の一頁です。
本書では全六話中の半分、「八丁堀純情派」から以降の「おんころころ」を除いた三話が不破友之進の息子の龍之進の描写に軸足が移っています。それも父親のあとを継ぐべく同心見習いとなった龍之進の話です。
それはつまりは龍之進やその同僚らという若者たちの話であり、青春記です。竜之進の恋心や、将来に対する不安など、若者の心の動きをこまやかなタッチで描きだしてあります。
まさに伊三次を取り巻く人間模様として、さまざまな人々の状況を描きながら、江戸の人情話が展開されています。
やはり、再読ではあっても次を早く読みたいという気にさせられる物語です。
