小野 不由美

十二国記シリーズ

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白銀の墟 玄の月 十二国記』とは

 

本書『白銀の墟 玄の月』は『十二国記シリーズ』の第九弾で、2019年10月と11月に新潮社から全部で1600頁を越える全四巻の文庫として刊行されてた、長編のファンタジー小説です。

ファンタジー小説としても、また冒険小説としても第一級の面白さであり、私の好みにピタリと合致した作品でした。

 

白銀の墟 玄の月 十二国記』の簡単なあらすじ

 

戴国に麒麟が還る。王は何処へー乍驍宗が登極から半年で消息を絶ち、泰麒も姿を消した。王不在から六年の歳月、人々は極寒と貧しさを凌ぎ生きた。案じる将軍李斎は慶国景王、雁国延王の助力を得て、泰麒を連れ戻すことが叶う。今、故国に戻った麒麟は無垢に願う、「王は、御無事」と。-白雉は落ちていない。一縷の望みを携え、無窮の旅が始まる!( 第一巻「BOOK」データベースより)

民には、早く希望を見せてやりたい。国の安寧を誰よりも願った驍宗の行方を追う泰麒は、ついに白圭宮へと至る。それは王の座を奪い取った阿選に会うためだった。しかし権力を恣にしたはずの仮王には政を治める気配がない。一方、李斎は、驍宗が襲われたはずの山を目指すも、かつて玉泉として栄えた地は荒廃していた。人々が凍てつく前に、王捜し、国を救わなければ。──だが。( 第二巻「BOOK」データベースより)

新王践祚ー角なき麒麟の決断は。李斎は、荒民らが怪我人を匿った里に辿り着く。だが、髪は白く眼は紅い男の命は、既に絶えていた。驍宗の臣であることを誇りとして、自らを支えた矜持は潰えたのか。そして、李斎の許を離れた泰麒は、妖魔によって病んだ傀儡が徘徊する王宮で、王を追い遣った真意を阿選に迫る。もはや慈悲深き生き物とは言い難い「麒麟」の深謀遠慮とは、如何に。( 第三巻「BOOK」データベースより)

「助けてやれず、済まない…」男は、幼い麒麟に思いを馳せながら黒い獣を捕らえた。地の底で手にした沙包の鈴が助けになるとは。天の加護がその命を繋いだ歳月、泰麒は数奇な運命を生き、李斎もまた、汚名を着せられ追われた。それでも驍宗の無事を信じたのは、民に安寧が訪れるよう、あの豺虎を玉座から追い落とすため。-戴国の命運は、終焉か開幕か!( 第四巻「BOOK」データベースより)

 

白銀の墟 玄の月 十二国記』の感想

 

本書『白銀の墟 玄の月』は、シリーズ第八巻『黄昏の岸 暁の天』の続編であり、戴国のその後が描かれています。

本『十二国記シリーズ』ではこれまで慶国や雁国などの様子が描かれてきましたが、そもそも本シリーズの出発点である『魔性の子』が戴国の麒麟である泰麒の話であったように、戴国の様子が基本となっているように思えます。

そして、本書において塗炭の苦しみに遭っている戴国の民が救われるか否かに決着がつくのです。

つまり、『黄昏の岸 暁の天』では蓬莱に流された泰麒の探索の様子が語られていましたが、本書では戴国に戻ってきた泰麒と共に戦う李斎などの姿が描かれているのです。

 

 

本書の見どころと言えば、まずは本『十二国記シリーズ』自体が持つ見事に構築された異世界の社会構造そのものの魅力があります。

次いで、その社会構造の中で破綻なく動き回る個性豊かな登場人物たちの存在があります。

本書でいえば、物語の中心となって動く李斎であり、その李斎を助ける仲間たちがおり、一方で戴国の民のために身を粉にして働く泰麒である高里などの多くの人物の姿があります。

そして、それらの登場人物たちが存分に動き回るストーリー展開が挙げられるのです。

ストーリー展開とはいってもそれは大きく二つに分けることができ、一つは宿敵阿選の懐に飛び込んだ泰麒の話であり、もう一つは野にいて行方不明の泰王驍宗を探し回るとともに、反阿選の勢力を結集しようとする李斎らの話です。

 

また本書の持つ面白さの意味も一つではなく、泰麒や李斎らの阿選に対する反逆の戦いの様子の面白さをまずあげることができます。

それはアクション小説としての面白さであり、また冒険小説としての面白さだとも言えます。

さらには行方不明の驍宗はどこにいるのか、また阿選は何故反旗を翻したのかなど、ミステリアスな側面もまた読者の興味を惹きつけて離しません。

また、ストーリー展開の他に本『十二国記シリーズ』のそれぞれの物語で、この異世界の法則に従いながら通り一遍の視点に限定されることなく、例えば登場人物たちの対話に擬してある出来事について多面的な見方を示していることも私にとっては関心事でした。

こうした多様な価値に従った多面的な思考方法は、同じファンタジーでも高田大介の『図書館の魔女シリーズ』でも見られました。

こうしてみると、物語を紡ぎ出すという能力は、ものの見方も多面的であることが一つの条件であるのかもしれません。

 

 

とはいえ、そうした多様な価値感を反映させていることなどは読了後にゆっくりを反芻するときにでも思い起こせばいいことであり、読書中は単純に物語に乗っかり楽しめばいいと思います。

それだけ楽しませてくれる物語であることは間違いなく、シリーズが終わってしまうことが残念でなりません。

何らかの形で再開してくれることを待ちたいと思います。

[投稿日]2023年05月16日  [最終更新日]2023年5月16日
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