『魔性の子』とは
本書『魔性の子』は1991年9月に新潮文庫から出版されたのですが、2012年6月に『十二国記シリーズ』の番外編ともいうべき位置づけで、菊地秀行氏の解説まで入れて491頁の文庫として新潮文庫より刊行された長編のファンタジー小説です。
若干長すぎるか、という印象もありますが、じわじわと迫るホラーチックな物語の運びも面白く、『十二国記』に連なる物語の面白さもあり、惹き込まれて読んだ作品です。
『魔性の子』の簡単なあらすじ
どこにも、僕のいる場所はない──教育実習のため母校に戻った広瀬は、高里という生徒が気に掛かる。周囲に馴染まぬ姿が過ぎし日の自分に重なった。彼を虐(いじ)めた者が不慮の事故に遭うため、「高里は祟(たた)る」と恐れられていたが、彼を取り巻く謎は、“神隠し”を体験したことに関わっているのか。広瀬が庇おうとするなか、更なる惨劇が。心に潜む暗部が繙(ひもと)かれる、「十二国記」戦慄の序章。(内容紹介(出版社より))
『魔性の子』の感想
本書『魔性の子』は、「十二国記 0」というサブタイトルがついていることからも分かるように、『十二国記シリーズ』のエピソード0、もしくは番外編として位置づけられてきた作品です。
冒頭にも書いたように、そもそもは1991年9月に「ファンタジーノベル・シリーズ」の1冊として新潮文庫から刊行された作品です。
それが、後に『十二国記シリーズ』が展開されるにつれ、『十二国記シリーズ』の番外編として位置づけられるようになったものだと言います。
つまり、本来は単独の作品として考えれていた作品だったのですが、この物語の背景となる世界を作り込んでいた資料の話を聞いた講談社の編集者に勧められ、講談社から新たなシリーズ作品として『十二国記シリーズ』として生まれたものだそうです( ウィキペディア : 参照 )。
本書『魔性の子』は、一般にはホラー小説として紹介されているようです。
確かに、作者の小野不由美という人の他の作品を見ると山本周五郎賞を受賞した『屍鬼』(新潮文庫 全五巻)や『残穢』といったホラー小説として名高い作品が並んでいます。
そして本書の内容も主人公高里の周りで異形のものが見え隠れし、さらに高里を攻撃した者に最悪は死が訪れるという、ホラーという他ないような物語の展開です。
しかしながら、ネットで誰かが書いていたように、『十二国記シリーズ』を読んだ後に本書を読むと、まさに『十二国記シリーズ』を構成する内容であり、異常現象にもきちんと説明がつくところからホラーとは呼べないように思います。
異常現象の詳細については本書の中でも具体的に示されている個所もあり、それなりの説明は為されているのです。
ただ、その説明も『十二国記シリーズ』を読んでいるか否かでその具体性の程度が異なり、単なる超常現象としてホラーの範疇に入ると評価するか、そうではなく物語の流れにきちんとおさまる現象なのかが違ってくるのです。
先に『十二国記シリーズ』を読んだ人ならばわかるのですが、本書の登場人物は、『風の海 迷宮の岸』に登場する戴国(たいこく)麒麟の泰麒(たいき)である高里要を主人公としています。
本書『魔性の子』では、高里が泰麒であることは示されてはおらず、過去に一年間の神隠しにあった少年として皆から恐れられている存在です。
恐れられているというのは、高里に何らかの害を加えた人物は異常な事件や事故に遭い、場合によっては命を落とすことさえあるというのでした。
その高里のいる私立高校の二年生のクラスに教生としてやってきたのが、三年と少し前この高校を卒業したばかりの広瀬という教育実習生で、その広瀬の担当教官が、広瀬が在校時代の化学の担任だった後藤という理科教師です。
高里の周りで次々と発生する異常な状況下での事故や、最終的には死者まで出る事態の中、孤立する高里にどことなく相通じるものを覚えた広瀬は深くかかわっていくのでした。
『十二国記シリーズ』での本書の位置付けを見ると、まずは高里が神隠しに遭った一年間のこの異世界での話が『風の海 迷宮の岸』に語られている話で、戴国の麒麟として泰王を選ぶ様子が描かれています
その後、泰王が選ばれてから半年が経過した戴国では、泰王が行方不明となるなか泰麒が何者かに斬りつけられたため「蝕」が起き、泰麒は再び蓬莱へと流されてしまうという事件が起きます。
その事件の顛末が描かれているのがシリーズ第八弾の『黄昏の岸 暁の天』であり、そのとき蓬莱に流された泰麒である高里の様子が描かれているのが本書『魔性の子』ということになるのです。
こうして、『十二国記シリーズ』の中に位置づけられる本書ですが、見事にシリーズに融合していて本書単発として読むよりも一段と物語に奥行きが感じられることになっているのです。