『君のクイズ』とは
本書『君のクイズ』は、2022年10月に192頁のハードカバーとして朝日新聞出版から刊行された長編の推理小説です。
殺人事件も暴力性も全くない、ただクイズ番組で、対戦相手が問題文が読まれる前に答えることができた理由を探すだけの物語ですが、非常に読み応えがある作品でした。
『君のクイズ』の簡単なあらすじ
面白すぎる!! 驚くべき謎を解くミステリーとしても最高だし、こんなに興奮する小説に出会ったのも久しぶり。頼まれてもいないのに「推薦コメントを書かせて!」とお願いしてしまいました。小川哲さん、ほんとすごいな。–伊坂幸太郎氏一度本を開いたらもう終わりだ。面白すぎてそのまま読み切ってしまった。熱くて、ワクワクして、予想もつかない感動が襲ってくる。ミステリーでも、バトルものでも、人生ドラマでもある。でもそれだけじゃない。ジャンルはたぶん「面白い小説」だ。–佐久間宣行氏 * * * *『ゲームの王国』『嘘と正典』『地図と拳』。一作ごとに現代小説の到達点を更新し続ける著者の才気がほとばしる、唯一無二の<クイズ小説>が誕生しました。雑誌掲載時から共同通信や図書新聞の文芸時評等に取り上げられ、またSNSでも盛り上がりを見せる、話題沸騰の一冊です!ストーリー:生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになりーー。読めば、クイズプレーヤーの思考と世界がまるごと体験できる。人生のある瞬間が鮮やかによみがえる。そして読後、あなたの「知る」は更新される! 「不可能犯罪」を解く一気読み必至の卓抜したミステリーにして、エモーショナルなのに知的興奮に満ちた超エンターテインメント!『地図と拳』にて第168回直木賞を受賞した小川哲さんの、新たな魅力あふれる極上のエンターテインメント作品であり、もう一つの代表作です!(内容紹介(出版社より))
『君のクイズ』の感想
本書『君のクイズ』は、純粋に知的な興奮を味わうことができるミステリー小説です。
ミステリーではありますが、殺人や暴力などの絡んだ事件性は全くありません。
ただひたすらに、問題文が読まれる前に対戦相手が正答ができた理由を探る主人公の姿が描かれているだけです。
でありながらも、登場人物の人間像やさらには人生をも解き明かしてしまう物語であり、極上の時間を楽しむことができました。
「Q-1グランプリ」というクイズ大会の決勝の最終問題で、主人公三島玲央の対戦相手である本庄絆は、アナウンサーが問題を読み始めるも未だ一文字も読まれていない瞬間に正解を解答したのです。
誰もがこのクイズ大会はヤラセを疑いますが、三島は「クイズにはヤラセなどはあってはならないし、同様に魔法であってもならない。クイズとは、知識をもとにして、相手より早く、そして正確に、論理的な思考を使って正解にたどり着く行為だ。
」と考えます。
ヤラセではないと考え、問題文が読まれる前に解答するなどという奇跡的なことが何故に可能だったのか。三島は、このクイズ大会のビデオを再度チェックし、その原因を探り始めるのです。
後日、「Q-1グランプリ」というクイズ大会を見直し、その過程を自分自身で分析する姿で成り立つこの作品は、そのアイデアだけでなく、論理的に組み立てられたその分析自体に感心してしまいます。
同時に、この番組の録画を見ながらの回想は主人公の自己分析でもあり、さらには問題文が読まれる前に正解を導き出した対決相手の本庄絆の心裡を分析する過程でもあります。
その分析の過程は論理的であるのは勿論、クイズにかけるプレイヤーたちの思考方法までも明らかにしていきます。
その段階を追っていく思考の筋道は読んでいても知的な好奇心が満たされ、驚きと同時に関心をしている自分に気が付きました。
クイズというジャンルに特化している本書はまた、テレビ番組の中でも一応の人気を誇る「クイズ番組」の実際や裏側を見せてくれるという意味での好奇心も満たしてくれています。
そして、何と言っても、特にクイズの早押しに際しての解答者たちの心理分析は見事です。
この分析が事実そうであるかは不明ですが、テレビを見ている限りでの早押し解答は、いかにもさもありなんと感じます。
本書の最後に記載されている参考文献の中には、今のテレビのクイズ番組で大活躍を見せている伊沢拓司の著書も挙げられているように、テレビの中で彼らクイズプレイヤーと呼ばれる人たちが発言している言葉にも本書の登場人物が発している言葉と似たような言葉があるので、よりリアリティーに満ちているのでしょう。
ちなみに、本書『君のクイズ』の持つ論理性は、作者である小川哲の他の作品、第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞を受賞し、第162回直木賞の候補作ともなった『嘘と正典』や、第13回山田風太郎賞を受賞し、第168回直木賞を受賞した『地図と拳』といった作品と同様です。
そして、本書も第76回日本推理作家協会賞を受賞し、2023年本屋大賞で6位となっていて、同様に高い評価を受けているのです。
こうした高い論理性は時には読む者を選ぶかもしれません。
個人的には、先に述べた『地図と拳』などは、その情報量の多さとロジックの難解さに読むのを中断しようかと思ったことさえあります。
しかし、本書はそうした難解さはありませんし、情報量が多すぎるということもありません。
ただ、問題文なしに正解できた理由を探るだけです。その過程で、人物の背景、その歴史をたどることはあっても難解とは感じないと思います。
十分に、読書を楽しめる作品だと思います。