『君のクイズ』とは
本書『君のクイズ』は、2022年10月に朝日新聞出版から刊行されて2025年4月に朝日文庫で248頁の文庫として出版された長編のエンターテイメント小説です。
殺人事件も暴力性も全くない、ただクイズ番組で、対戦相手が問題文が読まれる前に答えることができた理由を探すだけの物語ですが、非常に読み応えがある作品でした。
『君のクイズ』の簡単なあらすじ
クイズ番組の決勝で三島の対戦相手は問題が一文字も読まれぬうちに回答し正解し優勝を果たす。不可解な「ゼロ文字正答」の謎を解明すべく調査する三島はやがてー。知的興奮に満ちた圧巻のエンターテインメント!短編小説「僕のクイズ」を収録する。
『君のクイズ』の感想
本書『君のクイズ』は、純粋に知的な興奮を味わうことができるエンターテイメント小説です。
ミステリーではありますが、殺人や暴力などの絡んだ事件性は全くありません。
ただひたすらに、問題文が読まれる前に対戦相手が正答ができた理由を探る主人公の姿が描かれているだけです。
でありながらも、登場人物の人間像やさらには人生をも解き明かしてしまう物語であり、極上の時間を楽しむことができました。
「Q-1グランプリ」というクイズ大会の決勝の最終問題で、主人公三島玲央の対戦相手である本庄絆は、アナウンサーが問題を読み始めるも未だ一文字も読まれていない瞬間に正解を解答したのです。
誰もがこのクイズ大会はヤラセを疑いますが、三島は「クイズにはヤラセなどはあってはならないし、同様に魔法であってもならない。クイズとは、知識をもとにして、相手より早く、そして正確に、論理的な思考を使って正解にたどり着く行為だ。
」と考えます。
ヤラセではないと考え、問題文が読まれる前に解答するなどという奇跡的なことが何故に可能だったのか。三島は、このクイズ大会のビデオを再度チェックし、その原因を探り始めるのです。
後日、「Q-1グランプリ」というクイズ大会を見直し、その過程を自分自身で分析する姿で成り立つこの作品は、そのアイデアだけでなく、論理的に組み立てられたその分析自体に感心してしまいます。
同時に、この番組の録画を見ながらの回想は主人公の自己分析でもあり、さらには問題文が読まれる前に正解を導き出した対決相手の本庄絆の心裡を分析する過程でもあります。
その分析の過程は論理的であるのは勿論、クイズにかけるプレイヤーたちの思考方法までも明らかにしていきます。
その段階を追っていく思考の筋道は読んでいても知的な好奇心が満たされ、驚きと同時に関心をしている自分に気が付きました。
クイズというジャンルに特化している本書はまた、テレビ番組の中でも一応の人気を誇る「クイズ番組」の実際や裏側を見せてくれるという意味での好奇心も満たしてくれています。
そして、何と言っても、特にクイズの早押しに際しての解答者たちの心理分析は見事です。
この分析が事実そうであるかは不明ですが、テレビを見ている限りでの早押し解答は、いかにもさもありなんと感じます。
本書の最後に記載されている参考文献の中には、今のテレビのクイズ番組で大活躍を見せている伊沢拓司の著書も挙げられているように、テレビの中で彼らクイズプレイヤーと呼ばれる人たちが発言している言葉にも本書の登場人物が発している言葉と似たような言葉があるので、よりリアリティーに満ちているのでしょう。
ちなみに、本書『君のクイズ』の持つ論理性は、作者である小川哲の他の作品、第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞を受賞し、第162回直木賞の候補作ともなった『嘘と正典』や、第13回山田風太郎賞を受賞し、第168回直木賞を受賞した『地図と拳』といった作品と同様です。
そして、本書も第76回日本推理作家協会賞を受賞し、2023年本屋大賞で6位となっていて、同様に高い評価を受けているのです。
こうした高い論理性は時には読む者を選ぶかもしれません。
個人的には、先に述べた『地図と拳』などは、その情報量の多さとロジックの難解さに読むのを中断しようかと思ったことさえあります。
しかし、本書はそうした難解さはありませんし、情報量が多すぎるということもありません。
ただ、問題文なしに正解できた理由を探るだけです。その過程で、人物の背景、その歴史をたどることはあっても難解とは感じないと思います。
十分に、読書を楽しめる作品だと思います。
ちなみに、本書を原作として三島玲央を中村倫也、本庄絆を神木隆之介が演じて映画化されました。詳しくは、下記サイトを参照してください。